乾電池で10km飛行に挑む!元”鳥人間”が見たエボルタチャレンジ2016(後編)
sorae.jp / 2016年11月15日 17時42分
今月6日に琵琶湖で行われたエボルタ有人飛行チャレンジ。東海大学人力飛行機チーム「TUMPA(ツンパ)」が製作した機体を乾電池動力のみで10km飛行させ、ギネス記録達成を目指すというものでした。人力飛行機サークルの元製作者である私が見た、エボルタチャレンジの様子を伝えます。
2度目のチャレンジ、今度こそ。~全てをかける3年生の想い~
11月3日の挑戦は早朝、強風のため延期が決定。夜中から組み上げられた機体は写真撮影ののち解体となりました。風が強まっていくなかの撮影に私は風に弱い機体がいつ壊れてしまわないかとても心配でしたが、なんとか無事に撤収できたようでした。
中止決定直後の様子
そして11月6日、再チャレンジ決行日。時間を繰り上げ日の出と同時にフライトという予定で行われました。
離陸1時間半前の午前5時、プロペラ班の3年生2人に話を聞くことができました。このときほぼ無風。機体にとって最高の状況に班長でもある新井さんは「今飛ばしたいくらい。」と歯がゆそうに言い、池田さんは「離陸時の風が心配。とにかく無事に飛んでほしい。」と願いを口にしました。
また延期については「前回は十分な睡眠が取れないままできつかったが、3日空いたおかげで体力の回復はできた。ただ、チームの気も徐々に緩むのでこれ以上延期するともうモチベーションは保てない。」と話し、視線や言葉の端に緊張の色は見えるものの落ち着いて話す彼女たちに3年生の貫録を感じました。
一方チーム全体も前回より落ち着いて本番を迎えられているように見えました。取り囲む取材陣にも慣れたこと、そして彼女たちが言うように睡眠が取れていたことが大きいのでしょう。
組み上げられた機体。周囲が取材陣で大混雑
そしてフライトへ!~フェリーから見たエボルタチャレンジ~
私は取材用フェリーで目標の10km地点へ向かい、他の記者の方達や同乗していた6人のTUMPAメンバーと共にニコニコ動画の中継を見ながら機体が飛んでくるのを待っていました。フライト30分前、高まる緊張が画面越しでも伝わってきました。静まりかえったベニヤの滑走路に響く鳥の鳴き声、慌ただしく最終チェックに動いているらしいパイロットとメンバー。機体にパイロットが乗り込むまで、永遠にも一瞬にも感じる30分でした。
離陸をフェリーから見守るメンバー。TV画面を見つめて祈り続ける
そしてフライトの時を迎えます。
プロペラが回りだし、パイロットの掛け声が響く。張り詰めた緊張が一気に極限までしぼられる。画面を凝視してただ祈る目の前のメンバーの背中を見つめながら私も息ができませんでした。ゆっくり動き出す機体、突如画面がドローンの上空映像に切り替わり離陸の瞬間が分からない、飛んだのか?頼む、飛べ!!
上空映像が映し出した琵琶湖上へ飛び出す機体は、まるで鳥のように美しい姿でした。
大きな歓声とともに泣き崩れるメンバー。極限の不安、期待、緊張からの解放と安堵、達成感、喜び。そのすべてが涙となって出ていく、それはこの夏私が鳥人間コンテストの舞台で経験したことと同じものでした。声もなくただ涙を流す3年生を見て私も涙が出ました。
チームメンバーを振り切り、琵琶湖へと飛び立ったエボルタ機
大丈夫、いける。そう思える美しい離陸でした。
ところが順調に飛行しているように見えた機体は、3kmを過ぎたあたりで突然画面から消えてしまいました。フェリーの小さめなテレビ画面からは状況が掴みきれず、私はドローンが移動したのかと思ったことを覚えています。しかしまた映像が安定したとき、そこには着水しバラバラになった機体が映っていました。
あまりにも突然やってきた結末に言葉が出ませんでした。画面にいくつも流れる“翼がねじれていた”というコメントが残酷に状況を伝えていました。
その後フェリーは着水地点へ向かい、機体の尾翼と胴体が浮かんでいるのを確認してチャレンジの取材は終了となりました。
公式ホームページによると、着水の原因は予期せぬ突風により右主翼がねじれて折れ、バランスを失ったことと発表されています。チャレンジ前にパイロットの鷹栖さんは、今回のエボルタの機体は速度が速いうえ人力飛行機と違ってプロペラから直接的に感覚を得られないので、速度の調節が比較的難しいと話していました。今後またチャレンジを目指すならば機体設計や操縦しやすさの工夫に加え、チャレンジ日の天候により一層気を配らなくてはならないでしょう。
着水した機体。ダイバーに回収されていく
去っていくフェリーから機体を見送る。冷たく強い風が吹いていた
このチャレンジは成功か、失敗か~エボルタチャレンジ2016を考える~
今回の飛行距離は3531mでした。惜しくもギネス記録達成はならず、その点は失敗となるでしょう。しかし自分たちで設計、製作した有人飛行機がモーター動力でも飛べる、それを証明したことは本当に大きな成果だと思います。パイロットに怪我があったことは本当に残念ですが、これを糧にさらにTUMPAが発展していくようこれからも応援していきたいと私は思います。
一方、大きな失敗もあると思います。それは主催のパナソニック側が機体のもろさを理解できていなかったことです。組み立て時は大勢の記者が機体に服や機材をかすめて通る、主翼の下をくぐりぬける等、今にも機体が壊れそうな光景が広がっていました(実際一部破損がおきたようです)。ですが人力飛行機を知らない人がその危険性を分からないのは当然。ですから立ち入り禁止区域を作る、当日の取材行動のガイドラインを作るなどをすればもっと安全に進行できたはずです。それは学生チームというより主催側の仕事でしょう。
強風の中、トラックを風よけにした撮影。画面の外ではメンバーが必死に主翼を押さえている。
また通常機体は待機時、壊れないよう風が吹いてくる方向に頭を向けますが、3日は写真撮影のためと強風の中、最も風に弱い尾翼もつけたまま強い横風にさらされていました。トラックがせめてもの風よけで置かれていましたが残念ながら安全とは程遠いように見えました。機体が壊れては元も子もありません。全体の進行も難しいとは思いますが、もう少し工夫できたのではないでしょうか。
東海大学もパナソニックもまた挑戦したいというコメントを残しています。これはとても面白い夢のある挑戦だと思います。今回のすべての反省点をふまえ、より良いチャレンジとしてまた挑戦が行われることを私は心待ちにしています。
TUMPAやソーラーカーチームをはじめとする東海大学の皆さん、チャレンジに関わった全ての方々、本当にお疲れ様でした。パイロットの鷹栖さんの負傷が一日も早く完治されることをお祈りいたします。
Image Credit: 大貫剛、角谷杏季
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