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「CREWでございます!」作者インタビュー 本物CAが漫画を描いたら

sorae.jp / 2017年11月20日 18時41分

「CREWでございます!」(通称「クルござ」)は、航空会社の客室乗務員(キャビンアテンダント、CA)出身という異色の経歴を持つ御前モカさんが連載中の漫画だ。ギャグマンガ調ながら、今までのいわゆる「スチュワーデス物」とは異なる切り口で飛行機の乗員(クルー)の仕事や、安全に関する話なども読める、ためになる漫画でもある。

そこで作者の御前モカさんと、秋田書店プリンセス・ボニータ編集部の小林節子さんに「CREWでございます!」について詳しいお話を伺った。

「漫画歴4ページ」からのデビュー

大貫:モカさんはクルござが初めての商業作品なのですか?

モカ:実は絵を描き始めてからまだ2、3年なんです。漫画家になりたいというよりは漫画を描いてみたいと思いデッサンや漫画の教室に通い、描き始めました。最初に描いたものは劇画タッチの青年漫画、北斗の拳のような作品でした。まだ4ページしか描いていないときに、コミティアの秋田書店のブースで持って来ていた漫画をお見せしたのですが、コメントのしようがないですよね途中なので。

小林:そうですね、しかもロードオブザリングのような長編の冒頭4ページだけ描かれたような感じで、どういう話になるのか、キャラクターもどういう人か、描いて頂かないとわからない。

モカ:そのとき、クルーの仕事とはどんなものか知人に説明するために描いた走り書きのような漫画をお見せしたところ、その方が面白いと。

小林:まず第一印象の段階で、こんなきれいな言葉遣いで立ち振る舞いもしゃんとされている人なかなかいないなあ、と思っていたんです。気になって何をされている方なのか聞いてみたらCAをされていたと。あまりそういう経歴の方はいませんから、その方が読者に興味を持たれるかなと思いました。

普通は漫画家デビューは賞をとったり読み切りを描いたりしてステップアップするのですが、漫画家が取材するのではなく、元々CAをしていた彼女しか描けないことがあるだろうと、3話分のネームを作って編集長に見せた所、「面白い!」とすぐに企画が通りました。

モカ:それまで4ページしか描いたことがなかったので、いきなり1回8ページを描けたときは感動しました。クルござは私の記憶の絵日記のようなもので、それをどのようにお伝えするか。伝えたいことはあらかじめ決まっていますので、起承転結の起と結が先にあって、その間にどのエピソードを入れたら面白いかを考えてネームを切っています。

大貫:担当者から大きな直しが出たことはありますか?

小林:8ページで収まらないので2話に分けましょうとか。合コン編とファーストクラス編は前後編になっています。

モカ:1コマに描いたエピソードを抜き出して、1話作れるんじゃないかとアドバイス頂き分けたりですとか。知識を詰め込みすぎると読みづらくなっていくのですが、詳しい方には物足りないかもしれないので、気付く人なら気付くような描写を入れたりしています。

この絵はこの機種だなとおわかり頂けるようにとか、シートにはエマージェンシーパスマーキング(※)を記入するとか。小さなこだわりがあるのでアシスタントさんに資料を渡して描いて頂くことは難しく、全て自分で描いています。

※非常時の避難方向を示すマーク。床や座席に取り付けられている。

大貫:僕も飛行機マニアですが、マニアは飛行機の細かいところを見るのが楽しみだから、間違いがあるとわかってしまいますよね。

モカ:そうなのですよ、重要なところを省いてしまったり、別のコマでは全く別の機種になっていたり。同じ機材でもコンフィギュレーションが違うと内装が違ったり。クルござの読者の皆さまは、そういうところが気になる方が多いと思うのです。私はですが間違いに気付くとシリアスな作品世界でも物語に入り込めなくなってしまいます。

接客だけじゃない!CREWは保安要員

大貫:CAが主人公のドラマというとTVドラマ「スチュワーデス物語」を筆頭に、仕事をわかっていない新人が主人公のものが多いですが、クルござはわかっている人が主人公ですね。

モカ:私が主人公です、あつかましいのですけど(笑)。もともと一歩離れて客観的に自分を見る性格なので、そのまま狂言回しとして描いています。

大貫:仕事の裏側の話って、みんな好きですよね。クルござはそれが生々しく描かれている。

モカ:現役クルーからも生々しいと言われますが、褒め言葉だと思っております(笑)。以前のスチュワーデスものは華やかなイメージが読者や視聴者から求められているという前提で作られていたのではと思うのですが、今はそうではないかもしれないと。仕事もそうですし、家事なども。ご自身がなさっていることにこだわりや誇りを持って一所懸命取り組んでいる方が楽しんで頂ける作品にしたいと思っております。

大貫:確かにCAは華やかで憧れの職業、女優のように裏側を見せないイメージがありますね。

モカ:CAは緊急時の保安要員でもありますが、華やかなイメージが先行し過ぎていて、緊急時に完全に信用して頂けないと感じることが実際にありました。

訓練を受けていること自体は「スチュワーデス物語」などでご存知の方が多いのですが、それは新人の時に1回するだけだと思っていらっしゃる方が多いと感じました。どの国でも年1回以上実技訓練試験と知識試験を受け、年2回の航空身体検査に合格しなければ乗務を続けられません。

「緊急時は荷物を持たないで」の意味は

モカ:飛行機から緊急脱出するときは荷物を持たないでとご案内しているのですが、最近の事例ではお荷物を持っていらっしゃる方が多いです。機内持ち込みサイズのキャリーケースが発明されてから、皆様の機内持ち込み手荷物が大きくなりました。

大貫:ちょっと待ってください、緊急脱出時にラックからキャリーケースを降ろすということですか?座席の下に置くような小さな手荷物ではなく。

モカ:降ろしていらっしゃいます。キャリーケースを持ってスライド(滑り台)を滑走されている。ラックから降ろす間、通路をふさいで他のお客様が逃げられなくなります。またバッグでスライドを破いてしまったら、そのお客様が大けがをするだけでなく、そのあと避難する方は別のドアへ向かわなければなりません。きちんとなさっている方の命を奪う可能性もあります。普通の状況ではああそうかと思って頂けますが、その場でお伝えしてもパニック状態の現場ではご理解して頂けない場合が多いようですね。

大貫:緊急脱出はいつ飛行機が爆発炎上するかわからない状況で、1秒でも早く乗客が脱出するということですよね。でも、航空会社はあまりそういう話はしたくないでしょうし、普通の乗客は飛行機に乗りに来ているのではなく旅行のことを考えていますからね。

モカ:ですので連載を続けたいのです(笑)。

お手荷物の話も漫画に描いたあとTwitterでアンケートを取りましたところ、理由を知らなかったとおっしゃる方が7割もいらっしゃいました。脱出と言われても、火災が見えないと爆発するかもというリアリティはないでしょうから、時間をロスしているという実感はなかなかわかないと思うのです。

現場では、お客様に無駄に恐怖を与えて、快適な空の旅を台無しにしてしまうようなことは言えませんから、「安全のために」とご説明します。言いにくいことを外の立場からクルござで言わせて頂いているので、現役クルーからは「思っていても言えない、安全に関する話を発信してくれてありがとう」と言葉をかけてもらえました。

安全は、事故につながるようなトラブルをしらみつぶしに潰していく作業によって、必死に守られております。それをお客様に悟られず、当たり前と感じて頂けることは本当にありがたいのですが、伝わった方が良いかなと思うこともあるのです。それが信頼につながるのではないかと思って描いています。

大貫:衝撃防止姿勢をとるように指示したら笑われた、というエピソードも衝撃的でした。いま自分が死ぬか助かるかのグレーゾーンにいて、落ち着いて生存率を高めなければいけない状況だということに気付かなければいけませんね。

安全の話に関心を持ってほしい

小林:連載初期には安全の話は予定していなかったんですよね。こちらからお願いもしていなかった。

モカ:安全の話は皆さまご存知だと思っていたのです。実際はご興味のない方との知識量の差が、私の予想以上に大きかった。

大貫:マニアは異常時の話が大好きですからね。全然揺れないとちょっとがっかりしたり。

小林:マニアは何が楽しいんですか?事故になったら大変じゃないですか。

大貫:もちろん事故は困りますけど、飛行機というのは普通に飛んでいると機能の一部しか見られませんから。クルーもあらゆる事態に備えて訓練していますし、それを信頼して見ています。

モカ:ベルトサインが点灯するだけでもクルーの動きがガラッと変わりますから、皆さまそちらも見ていらっしゃいますよね。そういうお客様は頼もしいですよ。率先して非常口座席に座って下さって、心得ている、任せとけと。安全のしおりもきちんとお読みくださり、ビデオも見て下さる。

※非常口のある座席は、脱出時には援助に協力することに承諾した乗客が座ることになっている。その代わり、他の座席より少し広くて快適。

モカ:一般のお客様はなかなかしおりもビデオも見て下さらないですから、面白いビデオを工夫している航空会社もありますね。もしクルござがアニメ化されたら、オープニングやエンディングに楽しい安全ビデオを入れたいです(笑)。

大貫:クルーの動作を乗客にしっかり見られるのはどんな気分ですか?

モカ:温かい目で見て下さると感じることが多かったです、拍手をして下さったり。安全デモンストレーション(救命胴衣や酸素マスクの装着など)はご覧くださらないお客様が多いので、見て下さっている方がいるとうれしいです。

安全デモンストレーションはビデオ画面を見づらい位置でやっているので、見て頂かないといけないんです。救命胴衣の装着は私でも迷ったことがありますから、お客様は絶対に迷うはずです。ご興味を持って頂けないと心配です。

事故を防ぐのは上司と部下のコミュニケーション

大貫:失敗しないように必死に頑張るのは、航空業界だけではないですね。

モカ:航空業界ではCRM(Crew Resource Management)という考え方がありますが、これも医療業界などに広まっています。CRMを簡単に説明すると、今までの事故では問題に気付いても上下関係などで進言できなかったり、聞き入れてもらえなくて事故に至った例が多いので、お互いに言いやすい環境づくりを進めていく取り組みのことです。

大きな事故はいろいろな要因がつながった結果起きると言われているのですが、そのチェーンを切れるはずだった進言が受け入れられない。大丈夫だよ、いつものことだよですとか、あの人がミスをしているはずがないといったことを取り除くための教育です。

大貫:普通の仕事でもよくあることですよね、部下に言われるとついイラっとするのは。

モカ:上司側と部下側に分かれて、ゲームを交えて訓練します。上司は、部下はいかに物を言いづらいかということを学びます。部下は上司が受け入れやすい言い方を工夫するとか、1人ではダメなら複数人で言ってみるとか。基本は、人間は皆失敗する可能性もあると認識することです。プライドが傷付くこともありますが、お客様や仲間の命とプライドのどちらが大切かを考えます。

大貫:漫画家と編集担当の関係も、CRMが活かせるのでしょうか?

モカ:小林さんは言い方をとてもよく考えて下さっています。私はCRMの教育を受けているので、驚くのですが。

小林:モカ先生は、ここは伝わりにくい、と指摘すると何を伝えたかったのか具体的にわかりやすく言ってくれるので、こう直したら良いのではという話がしやすいと思っています。

モカ:変えても良いけれど、ここだけは伝えたいテーマなので残したいと言ったら、そのテーマが入っていることに気付かなかったと仰ることがあります。それは私の表現不足なので、伝わるようにこうした方が良いですよとかアドバイスをくださいます。

大貫:おふたりとも、CRMがきちんとできていますね。

モカ:自分で漫画を描くようになって、漫画もコミュニケーションツールのひとつだと気がつきました。無限の可能性や楽しさを知ることができて良かったです。

CREWの極意はチームワーク?

小林:安全の話ばかりだと重くなるので、いろいろな話を入れていきたいです。

大貫:性的マイノリティのクルーの話はためになりました。気になっている時点で顔に出てしまうよというのが新鮮で。

モカ:多様な方がいらっしゃって、多様性を理由に差別をすることは意味がないですよね。仕事にも全く関係ないですから。航空会社は昔からそういう業界なので、他の業種では差別があると耳にして驚きました。

多様なお客様、同僚がいます。宗教も育った環境も異なる中で、良いコミュニケーションがとれないと良い仕事ができません。チームで仕事をする上で、必須の資質としても挙げられると思います。

大貫:チームと言えば、合コンの話も面白かったですね。チームワークが良すぎて男性に引かれるとか本当にあるんですか。そもそもCAさんと合コンするのってどんな人なんでしょう。

モカ:チームワークが凄すぎて怖いですよ(笑)、怪しさを一切出さないところがうまいと思うんですが。

合コン相手は航空会社が違ってもつながっていたり、たまに同じグループとの組み合わせになって昔からの友達みたいになってしまったり。後輩に引き継がれて、結婚の仲人をしていたり。
航空会社の家系という人もいます。お母さまがCAだとかおばあさまがCAだとか、お相手のお母様の同期が上司だったりとか。自分が乗務している便にお相手のお母様が搭乗していたら、普段しない失敗をしそうですよね(笑)。

大貫:最後ですが、これからこんな話を描きたいといったことはありますか?

モカ:コパイ(副操縦士)の土屋君というキャラクターがいますが、彼のおじい様もパイロットでした。1巻の表紙で土屋君がかぶっている帽子は、つばに刺繍の付いた機長の帽子なのですが、これはおじい様の形見です。この話はもっと踏み込んで描きたいと思っています。

Image Credit: 秋田書店・御前モカ

秋田書店「CREWでございます!」(無料試し読みあり)

 

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