EC大手「アリババ」が衛星打ち上げを計画、中国「独身の日」セールに宇宙からディスカウント
sorae.jp / 2018年10月30日 18時58分
中国のEC最大手であるアリババグループが人工衛星を使い、2018年11月11日「独身の日」セールに向けてキャンペーンを計画している。続く12月にはアリババ参加の越境ECプラットフォーム「天猫国際」の名を持つ通信実証衛星を打ち上げるという。中国人民網、ロシアのビジネスニュースサイトRBCなどが報じた。
11月11日の「独身の日」は中国のインターネット通販の最大の商戦日で、2017年には2.5兆円を超える取引が行われたと見られている。RBCの報道によれば、アリババグループがこの日に計画しているのは「糖果罐号(Candy Pot)」と呼ばれる超小型宇宙ステーションを使ったキャンペーンだ。糖果罐号は、画像では1Uサイズのキューブサット(10×10×10センチメートルサイズの超小型衛星)と同程度に見える人工衛星で、およそ90分に1回、地球を1周する。アリババグループのショッピングアプリ「AliExpress」にはミニ宇宙ステーションが居住地域の上空を通過する際に告知が現れ、ユーザーが地球を撮影するリクエストを出して撮影が成功すると割引クーポンをもらえるという。
糖果罐号が単に人工衛星ではなく「ミニ宇宙ステーション」と呼ばれているのには理由がある。人民網の報道によると、ミニ宇宙ステーションは人工衛星打ち上げ後のロケット上段を再利用する実証実験だという。
人工衛星を軌道に投入した後、切り離されたロケットの上段ステージはそのまま軌道を周回し、やがて大気圏に再突入して燃え尽きる。あまり長く軌道に残っているとスペースデブリとなり、残った推進剤が破裂するなどの事故が起きる可能性がある。日本ではロケット上段を目標として、軌道上から取り除くスペースデブリ対策なども検討されている。
一方、糖果罐号宇宙ステーションの計画では、ロケット上段に電源や制御装置、誘導・位置情報などの機器を搭載し、人工衛星向が機能するために必要な機能を備えたプラットフォームとして再利用する。超小型衛星の場合、限られたスペースにさまざまな装置を詰め込む必要があるため制約が厳しく、機能が限定されてしまうという問題がある。ロケット上段を再利用したプラットフォームを使用することで、衛星側はミッションに必要な機器に集中し、より大きなスペースを使用できると考えられる。ロケット上段プラットフォームを利用した衛星は10年ほど軌道を周回するといい、余裕を持ったミッションを計画することができる。
糖果罐号の画像を見る限りでは、衛星側には小型モニター、カメラ、太陽電池パネル、姿勢を検出するために太陽センサー、オンボードコンピューターなどが搭載されているようだ。小型モニターにメッセージや画像などを表示し、2方向を向いているカメラで地球を背景に“自撮り”する“セルフィー”衛星ではないかと考えられる。
機能が限られ、技術実証を目的としていることが多い超小型衛星は、打ち上げ後に通信ができないなどミッションを達成できない例も少なくない。しかし糖果罐号の目的はECサイトのキャンペーンであり、注目を集めることができればかなり目的が達成されると考えられる。地球撮像や通信ができなかったとしても、ECサイト側で「お詫びクーポン」などが配布できればユーザーから不満が出るといったことは考えにくい。
一方で、報道によればロケット上段の再利用技術は中国の国家宇宙プログラムの一貫であるという。10月から11月に打ち上げ予定のどのロケットを利用するものであるかは不明だが、この時期には長征ロケットによって中国の測位衛星プログラム「BeiDou」の衛星や、サウジアラビアの地球観測衛星「SaudiSAT 5A・5B」などの打ち上げが計画されている。
続いて12月には、アリババ参加の越境ECプラットフォーム「天猫国際(Tモール・グローバル)」の名を冠した「天猫国際号(Tモール・インターナショナル)」衛星が打ち上げられる予定だ。天猫国際号は画像では3U(10×10×30センチメートル)キューブサットとみられ、11月中にアリババグループのアプリを利用して一般ユーザーからの音声メッセージを集め、宇宙で放送する「宇宙ラジオ」衛星なのだという。打ち上げは中国北西部の甘粛省にある酒泉衛星発射センターから行われる。同射場では、12月中に長征2号Dロケットによる地球観測衛星「高分7号(Gaofen-7)」や長征11号による「珠海(Zhuhai)」衛星打ち上げなどが計画されており、いずれかの相乗り衛星となるとみられる。
アリババグループのこうした衛星は、「一駅一星(One Station, One Star)」と呼ばれる宇宙計画の一環だという。同グループは、実証段階の衛星を広報戦略にも取り入れながら、宇宙技術を磨き、今後は通信衛星や独自のIoT衛星の開発にも乗り出すとされる。
Image Credit:人民網
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