赤色巨星が導く銀河の距離。第四の測定方法でハッブル定数の新しい値が登場
sorae.jp / 2019年7月18日 19時16分
宇宙の膨張速度を示す「ハッブル定数」について、先日第三の測定方法として「重力場」を使った方法が編み出されたことを紹介しましたが、早くも第四の手段を利用したハッブル定数の計算結果が登場しました。
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赤色巨星(中央)を使ってハッブル定数を計算した研究結果が発表された(Credit: ESO/Digitized Sky Survey 2. Acknowledgement: Davide De Martin)
NASAは7月16日、シカゴ大学のWendy Freedman氏らの研究チームによる新しい手法で計算されたハッブル定数の研究結果を発表しました。今回使われたのは、太陽もいずれその姿へと進化することになる赤い恒星「赤色巨星」です。
太陽ほどの重さの恒星は、核融合の燃料となる水素が中心部分で足りなくなると、その周囲の水素を燃焼しながら輝き続けようとします。この時点で恒星は膨張し、表面温度は下がるいっぽうで明るさが増した赤色巨星へと進化します。
水素の核融合で生じるヘリウムは中心部分に蓄積されていき、やがてヘリウム自体が核融合によって燃焼し始めます。太陽の重さの2倍程度よりも軽い赤色巨星でヘリウム燃焼が始まると、あるときその燃焼が「ヘリウムフラッシュ」という暴走を引き起こし、温度が1億度に上昇するまで続きます。その後、赤色巨星は明るさを落としつつ、ヘリウムを安定的に燃焼させる状態へと移っていきます。
今回の研究では、ヘリウムフラッシュを起こしたあとの赤色巨星が利用されています。発表によれば、この段階に達した赤色巨星の明るさを調べることで、赤色巨星が存在する銀河までの距離が測定可能になるとしています。
ハッブル定数は、赤色巨星をもとに測定した銀河までの距離と、銀河が離れていく見かけ上の速度を比較することで算出することができます。その結果、今回導き出されたハッブル定数は「69.8km/s/Mpc」(以下は単位を省略)という値になりました。
以下は、算出に利用された赤色巨星の例。各銀河の円盤よりも外側に広がる「ハロー」に存在する赤色巨星(最下段の黄色で囲まれた部分)を観測して求められた距離が、今回の計算に使われています。
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計算に使われた赤色巨星の一例。ハッブル定数を計算するために多数の赤色巨星が観測された
ハッブル定数を求める方法には「天体の明るさ」「宇宙マイクロ波背景放射(Cosmic Microwave Background : CMB)」「重力波」を利用する3つの方法がすでに登場していますが、これらの研究によって導き出されたハッブル定数はいくつだったでしょうか。ちょっと振り返ってみましょう。
Ia型の超新星爆発やケフェイド変光星を用いる「天体の明るさ」を使った方法では、今年の4月に紹介したように74.03とされていました。初期宇宙の名残である「宇宙マイクロ波背景放射」を用いた方法では67.4、今月10日にお伝えした「重力波」を使った方法では70.3(誤差を考慮した範囲は65.3~75.6)とされています。
今回の結果は69.8ですから、重力波を使った方法に近く、天体の明るさや宇宙マイクロ波背景放射を使った算出結果の間を取る数値となります。ただ、それぞれの算出結果に無視できない差があり、その差を埋められる理由も見つかっていないことから、ハッブル定数をめぐる議論はまだまだ続くと思われます。
2020年代にNASAが打ち上げを予定している「広視野赤外線サーベイ望遠鏡(WFIRST)」は、ハッブルゆずりの解像度を維持しつつ、その100倍もの広い視野を実現する宇宙望遠鏡です。WFIRSTが稼働すれば、今回の観測対象となった赤色巨星だけでなくIa型超新星やケフェイド変光星の観測も補強されることになるため、ハッブル定数をめぐる議論にも進展が見られることになるかもしれません。
Image Credit: NASA, ESA, W. Freedman (University of Chicago), ESO, and the Digitized Sky Survey
https://hubblesite.org/contents/news-releases/2019/news-2019-28
文/松村武宏
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