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彗星に複雑な有機物が含まれていることを「すばる望遠鏡」の観測で確認

sorae.jp / 2019年11月21日 6時20分

地球に落下した隕石から糖が検出されたとする研究成果を先日お伝えしましたが、今度は彗星に複雑な有機物が存在する証拠を見つけたとする研究成果が発表されました。

■複雑な有機物の証拠が得られたのは「ジャコビニ・ツィナー彗星」

2018年8月22日に撮影されたジャコビニ・ツィナー彗星(Credit: Michael Jaeger)

今回、JAXA(宇宙航空研究開発機構)の宇宙科学研究所、京都産業大学の神山天文台などを中心とした研究チームは、国立天文台ハワイ観測所の「すばる望遠鏡」によって2005年7月5日に取得された「ジャコビニ・ツィナー彗星(21P/Giacobini-Zinner)」の中間赤外線による観測データを詳細に調べました。

分析の結果、脂肪族炭化水素や多環芳香族炭化水素の存在を示す証拠が得られました。特に後者の多環芳香族炭化水素はベンゼン環を2つ以上持っており、炭素原子が10個以上ある複雑な有機化合物です。

研究チームは、これほどまでに複雑な有機化合物が存在するということは、ジャコビニ・ツィナー彗星に大量の有機物が含まれていたことを意味するとともに、彗星のもとになった天体が特殊な環境で誕生した可能性が高いとしています。

■特殊な彗星の生まれ故郷は「周惑星円盤」か

初期太陽系のイメージ図。周惑星円盤で形成され、有機物を豊富に含んだ彗星(中央左)が、初期の地球(中央下)に有機物をもたらしたのかもしれない(Credit: 京都産業大学)

「10月りゅう座流星群」(以前は「ジャコビニ流星群」と呼称)の母天体として知られるジャコビニ・ツィナー彗星は、公転周期6.6年の短周期彗星です。実は、過去の研究において、ジャコビニ・ツィナー彗星を含む一部の彗星(これまで見つかっている彗星の6パーセントほど)は、他の彗星とは異なる特徴を持つことが判明していました。

今回の研究によって、ジャコビニ・ツィナー彗星が形成されたときの周囲の様子が明らかになりました。研究チームによると、形成されたときの太陽からの距離は他の彗星に似ていたものの、複雑な有機化合物の存在は、形成時の温度環境が他の彗星よりも高温だった(絶対温度で数百ケルビン)ことを示唆するといいます。

「太陽からの距離は変わらず温度が高い」条件を満たす場所として、研究チームは、木星のような巨大惑星の周囲に形成される「周惑星円盤」の名を挙げています。周惑星円盤とは、誕生したばかりの巨大惑星に取り込まれつつあるガスや塵によって形成されると考えられている円盤で、ガスや塵の密度が濃く、温度も高くなるため、有機物が形成される可能性が高いとされています。形成された場所の違いが、他の彗星に対する特徴の違いとして現れていた可能性があるのです。

彗星が形成される環境に多様性があったとすれば、初期の太陽系ではジャコビニ・ツィナー彗星のように複雑な有機物を豊富に含んだ彗星がほかにも誕生していたかもしれません。研究チームは、そのような彗星が衝突することで、誕生間もない頃の地球に有機物がもたらされたと考えています。

 

Image: Michael Jaeger
https://www.nao.ac.jp/news/science/2019/20191119-subaru.html
文/松村武宏

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