過酷な環境の金星、今後の探査に検討されているバルーンやドローン
sorae.jp / 2019年12月12日 21時20分
地表の気温が摂氏およそ480度、気圧は約90気圧。人間はもちろん探査機を送り込むにも厳しい環境を持つ金星は、今も多くの謎に包まれています。そんな金星の探査について、現在NASAのジェット推進研究所(JPL)で検討されている方法が紹介されています。
■周回探査機や大気中を浮遊するバルーンを検討JPLのSuzanne Smrekar氏は、2017年に選定されたNASAのディスカバリー計画における最終候補だった「VERITAS」ミッション(※)を率いていました。VERITASでは金星表面の高解像度な地形図を作成するために、周回探査機を金星に送る計画でした。
金星は地球とほぼ同じ大きさを持ち、内部も地球とよく似た構造をしていると考えられていますが、その環境は大きく異なっており、現在の金星には地球のようなプレート運動が存在しないとみられています。Smrekar氏も同じように考えているものの、過去に起きたプレートの沈み込みによって、金星にも地球のような大陸が形成されていたかもしれないといいます。
金星は二酸化炭素を主成分とした分厚い雲に全体が覆われているため、地表を観測することも困難です。そこでSmrekar氏は、探査機に搭載したレーダーや近赤外線観測機器を用いた軌道上からの継続的な観測を行うことで、過去の金星で起きた地殻変動の詳細や、現在の姿になるまでの歴史を知る手がかりを得ることを目指しています。
※…現在は「VOS(Venus Origins Explorer)」ミッションとして将来の再提案に向け準備中
いっぽう、JPLのAttila Komjathy氏とSiddharth Krishnamoorthy氏は、金星の大気に浮遊する気球を使った地震の観測を提案しています。
過去、旧ソ連が複数の金星探査機を地表に着陸させることに成功していますが、地表付近が高温かつ高圧であるために、最長でも127分間しか稼働させることができませんでした。そのうえ地表付近は薄暗くて太陽電池に頼ることも難しい場所であるため、金星の地表において長期間の観測を実施するのは現在の技術ではほぼ不可能です。JPLのエンジニアJeff Hall氏は「着陸機が壊れるまでの時間を引き延ばすのが精一杯」と語ります。
しかし、金星の大気上層部では温度も低く、探査機が長時間に渡り稼働し続けることも可能です。Komjathy氏らは複数の気球を金星の大気に浮かべ、地震が起きたときに金星の大気を伝わる超低周波を観測することで、現在の金星における地殻変動を捉えようと考えています。
■過去には金星表面からのサンプル採取も検討NASAにおける金星探査ミッションは1989年に打ち上げられた金星探査機「マゼラン」(1994年にミッション終了)が最後ですが、その後も幾つかのミッションが検討されてきました。VERITASと同時期にゴダード宇宙飛行センターで検討されていた「DAVINCI」では、金星の大気に探査機を突入させ、63分間という限られた時間内に大気の組成を調べることが計画されていました。
また、過去には「金星の地表サンプルを採取し地球に持ち帰る」という野心的なミッションがJPLにおいて検討されています。当時の発表によると、着陸機が採取したサンプルは気球に載せられて、金星の高度55kmを目指して浮上します。この高度にはロケットとドローンを搭載した別の気球が待機しており、サンプルはドローンによって回収されてロケットに移し替えられます。サンプルを積んだロケットは気球から打ち上げられると、金星の周回軌道上で待機していた探査機に合流。探査機はサンプルを受け取り、地球へと帰還する……以上が、このミッションの大まかな流れです。
なお、金星地表からのサンプルリターンは現在も検討が続けられており、欧州宇宙機関(ESA)の長期的なミッション計画「Voyage 2050」のワークショップにおける資料では、着陸機からサンプルを持ち出す段階でドローンを使い、高度55km付近で待機している気球(周回探査機に向かうためのロケットを搭載)に合流することが想定されています。極めてハードルが高いことは間違いありませんが、実現すれば金星の謎に大きく迫る歴史的なミッションとなるはず。いつか実現する日は来るのでしょうか。
Image Credit: NASA/JPL-Caltech/ASU
Source: JPL (1, 2) / ESA
文/松村武宏
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