直径39mの巨大な主鏡は何を見る? 建設進む「欧州超大型望遠鏡」
sorae.jp / 2020年3月10日 21時1分
ヨーロッパ南天天文台(ESO)がチリのセロ・アルマゾネス山(標高3046m)にて建設を進めている次世代の天体望遠鏡「欧州超大型望遠鏡(ELT:Extremely Large Telescope)」。同じくチリのパラナル天文台で運用中の「超大型望遠鏡(VLT:Very Large Telescope)」をしのぐ巨大なELTの建設に携わる天体物理学博士Michele Cirasuolo氏へのインタビューが、ESOのウェブサイトにおいて公開されています。
■パリのエトワール凱旋門より高いドーム、重さ3500トン以上の天体望遠鏡ELTは主鏡の「M1」から「M5」まで、全部で5枚の鏡から構成される可視光/近赤外線観測用の反射望遠鏡です。望遠鏡をおさめるドームの高さは80m近く、パリのエトワール凱旋門ならすっぽり入ってしまいそうな大きさ。望遠鏡全体では重量3500トン以上に及ぶという巨大な構造物です。
巨大さの理由は主鏡のサイズにあります。国立天文台ハワイ観測所の「すばる望遠鏡」やVLTを構成する4基の望遠鏡をはじめ、現在地上で運用されている大型の天体望遠鏡では直径8mクラスの主鏡が多く採用されていますが、ELTでは幅1.4mの六角形の鏡を合計798枚敷き詰めることで、主鏡の直径を39mまで一気に巨大化しています。
主鏡(M1)が反射した光はM2からM5まで順番に反射されていきますが、4枚目のM4(直径2.4m)は近年の大型望遠鏡に欠かせない「補償光学」を受け持っています。M4の裏面には5300個以上のモーターが組み込まれていて、1秒間に1000回の頻度でモーターを制御することで鏡を変形させ、地球の大気によるゆらぎの影響を打ち消します。
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■宇宙初期の天体、太陽系外惑星の大気、銀河中心のブラックホールを観測これほどまでに大きな主鏡で観測を目指すもののひとつが、宇宙最初期の天体です。ファーストスター(初代星)とも呼ばれる宇宙最初の世代の星々や、宇宙最初期の銀河をELTによってこれまで以上に詳しく観測することで、従来の望遠鏡では見ることができなかった初期の宇宙における理解が深まると期待されています。
過去の宇宙だけでなく、ここ10年ほどで急速に進展した太陽系外惑星の分野におけるELTの活躍にも期待が寄せられています。「太陽系以外にも惑星は存在するのか」という問いに答えが得られてから四半世紀、系外惑星はすでに4000個以上が見つかっていて、「どんな星にどのような惑星があるのか」という情報も揃いつつあります。Cirasuolo氏は次のステップとして「どのような大気を持っているのか」を調べなければならないとしており、ELTの観測によってサイズだけでなく、地球のような大気がある惑星が見つかるかもしれないと述べています。
また、ELTは超大質量ブラックホールの観測でも威力を発揮しそうです。たとえば、天の川銀河の中心に存在が確実視されている超大質量ブラックホール「いて座A*(エースター)」の性質は、すぐ近くを周回する恒星「S2」(S0-2とも)などの動きを詳細に観測することで研究されてきました。ELTはS2よりもいて座A*に近いところにある天体でも識別できる性能を備えているので、このような天体を見つけて観測することができれば、いて座A*についての新たな知見が得られるかもしれません。
ELTは計画通りに建設が進めば、2025年に最初の観測を実施する予定です。
関連:すばる望遠鏡、超大質量ブラックホールを利用した一般相対性理論の検証に貢献
Image Credit: ESO
Source: ESO
文/松村武宏
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