アルマ×重力レンズ。110億光年先のクエーサーを「視力9000」で観測
sorae.jp / 2020年3月31日 21時0分
今回の研究成果をもとに描かれたクエーサー「MG J0414+0534」の想像図(左)と超大質量ブラックホール周辺の拡大図(右)(Credit: 近畿大学)
銀河全体よりも明るく輝く活発な銀河中心核「クエーサー」。その原動力は中心にある超大質量ブラックホールだと考えられています。今回、クエーサー中心部のブラックホールから噴出したとみられるジェットが星間物質に衝突している様子を、チリの「アルマ望遠鏡」と「重力レンズ」効果を使って詳しく観測した研究成果が発表されました。
■噴出したジェットがクエーサー周辺の星間物質を揺さぶる現場![](https://sorae.info/wp-content/uploads/2020/03/20200327_Inoue_lensedjet_continuum-CO6.jpg)
アルマ望遠鏡によって観測されたクエーサー「MG J0414+0534」(分裂した像から再構成したもの)。緑は一酸化炭素、オレンジは塵と高温の電離ガスの分布を示す(Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), K. T. Inoue et al.)
何千億もの恒星がある銀河全体よりも明るく輝くクエーサーは、銀河の進化にも大きな影響を与えたと考えられています。先日も「クエーサーが放つ強力な電磁波によって星の材料となる星間物質が吹き飛ばされる」とした研究成果を紹介しましたが、クエーサーの原動力と考えられている超大質量ブラックホールはジェット(非常に速いガスの流れ)を噴き出しており、ジェットが星間物質と相互作用することで銀河の進化に影響を及ぼす可能性も指摘されてきました。
今回、井上開輝氏(近畿大学)らの研究チームはアルマ望遠鏡を使い、「おうし座」の方向およそ110億光年先にあるクエーサー「MG J0414+0534」を観測しました。詳しい分析の結果、クエーサーの中心にある強い電波源から双方向へと伸びるように分布している一酸化炭素(CO)が、秒速600kmという速さで運動している様子が明らかになりました。研究チームでは、超大質量ブラックホールから噴出したジェットが周辺の星間物質に衝突し、激しく揺さぶっている現場を捉えることができたと考えています。
観測されたMG J0414+0534の特徴は、ジェットと星間物質の相互作用を予想したシミュレーションとよく一致していました。そのいっぽう、影響が及んでいる範囲は典型的な銀河の大きさに対して小さかったことから、ジェットが噴出してからまだ数万年しか経っていない現場が観測されたとみられています。井上氏は、今回の研究成果が銀河から星間物質が流出する仕組みを解明する上での手がかりとなることに期待を寄せています。
■重力レンズ効果を利用して遠方のクエーサー周辺を観測![](https://sorae.info/wp-content/uploads/2020/03/20200327_Inoue_lensedjet_ALMA2.jpg)
再構成される前のクエーサー「MG J0414+0534」。重力レンズによって像が4つに分裂している(Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), K. T. Inoue et al.)
MG J0414+0534は、地球との間にある別の銀河の重力によってゆがんで見える「重力レンズ」効果を受けているクエーサーとしても知られています。今回のアルマ望遠鏡による観測でもクエーサーは4つの像に分裂して観測されましたが、研究チームは重力レンズ効果を受ける前のクエーサーの姿を再構成することで、ジェットに揺さぶられる星間物質の様子を分析することに成功しています。
重力レンズ効果を受けた天体の像は歪むだけでなく、本来の像よりも拡大されて見えています。今回の観測におけるアルマ望遠鏡の解像度は約0.04秒角(※)でしたが、重力レンズによる像の拡大も考慮した解像度は約0.007秒角に達しており、視力でいえば9000に相当するとのことです。
※…1秒角は3600分の1度
関連:クエーサーが放つ強烈な電磁波が巨大な銀河への成長を止めていた?
Image Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), K. T. Inoue et al.
Source: 国立天文台アルマ望遠鏡 / 近畿大学
文/松村武宏
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