木星大気の内側を「ラッキー・イメージング」を用いた赤外線画像で探る
sorae.jp / 2020年5月23日 20時0分
この画像はハワイにあるジェミニ望遠鏡が観測した、木星から来る赤外線を捉えたものです。一度の観測でこの画像を得られたわけではなく、何枚も撮影した中から地球大気の影響が少なくきれいに取得できたものを組み合わせてこの鮮明な画像を生み出しています。赤外線は可視光に比べると雲に遮られにくく、そのためこれを使って木星大気のより深く・高温の層を観測することができます。ただし、もっと厚い雲に覆われた部分は暗く見え、結果としてこの画像が得られます。今回、ジェミニ望遠鏡とハッブル宇宙望遠鏡、そして木星探査機「ジュノー」の同時観測により、木星での雷の発生や、その源となる巨大な嵐について新たな事実が明らかになってきました。
ジュノーは木星の雷によって発生した電波を検出すると、発生した場所の緯度と経度を特定します。それらをもとにジェミニ望遠鏡とハッブル宇宙望遠鏡がその領域を観測し、研究者たちは雷の発生場所と周囲の雲の構造を調べることができました。雷の発生は、木星内部の熱が木星上空にある雲に伝わっていく過程で大気が混ぜられ、対流が発生していることを示しています。今回の観測で、水と氷でできた雲の上に大きな対流セルがあり、その周囲で形成された嵐で雷が発生していることがわかりました。下の図は木星で発生する嵐や雷の様子を示したもので、対流でタワーのような雲・嵐が作られ、その高さは地球大気の対流でできるものの5倍にもなります。また、雷が集中して発生していた場所では対流でできた雲のタワーが集まり、”filamentary cyclone“(フィラメント状のサイクロン)と呼ばれる嵐のようになっていることも明らかになりました。
![](https://sorae.info/wp-content/uploads/2020/05/C-STSCI-H-p2021d-f-300x191.jpg)
木星で発生する雲や雷と、ジュノーやハッブル宇宙望遠鏡、ジェミニ望遠鏡が観測しているおおよその高さを表した図。雷によって発生した電波は雲を通り抜け、ジュノーによって検出されます。ハッブル宇宙望遠鏡は雲に反射した太陽光を観測しています。一方ジェミニ望遠鏡は雲の下にある暖かい層からの赤外線を観測することで、雲の厚さを調べることができます。図で示した範囲の高さは約80キロメートル、横幅は図全体で約6400キロメートル余りにもなります。湿った空気が上昇して雲のタワーを形成し(図中の赤い矢印)、その周囲には下降流(青い矢印)があります。Credit: NASA, ESA, M.H. Wong (UC Berkeley), and A. James and M.W. Carruthers (STScI).
一方、今回の観測では木星にある大きな渦、大赤斑も調べられました。可視光による観測では大赤斑の内側を縁取るように少し暗い部分が見えますが、これが暗く見える雲によるものなのか、あるいは薄い雲で覆われているだけで内部が暖かい状態であるのかを区別することはできませんでした。ジェミニ望遠鏡とハッブル宇宙望遠鏡の観測を組み合わせることにより、大赤斑の中心付近は厚い雲により赤外線(木星内部からの熱)が遮られ、その周囲では雲が比較的薄いところがあることが確認されました(下図)。
![](https://sorae.info/wp-content/uploads/2020/05/D-STSCI-H-p2021a-f-300x177.jpg)
ハッブル宇宙望遠鏡が可視光と紫外線で、ジェミニ望遠鏡が赤外線で観測した大赤斑の様子。図の左上と左下がハッブル宇宙望遠鏡が可視光で観測したもので、赤茶色に見える中に少し暗い部分があります。右上がジェミニ望遠鏡が観測したもので、厚い雲に覆われた部分は熱が遮られて暗く見えます。下段中央はハッブル宇宙望遠鏡が紫外線で観測したものです。大赤斑は太陽光のうち青い光を吸収するため赤く見えますが、より短い波長である紫外線も吸収して暗く見えています。右下は可視光を青色、赤外線を赤色で着色した画像で、赤く光る部分が雲が少ないことを示しています。Credit: NASA, ESA, and M.H. Wong (UC Berkeley) and team.
ところで、ジェミニ望遠鏡の画像は「きれいに取得できたものを組み合わせて」と書きましたが、実は木星を9つの領域に分けてそれぞれ38回の撮像を行っています。一度の撮像にかかる時間は数秒ですが38回撮り終えるころには数分が経過し、その間に木星が自転してしまうため、「組み合わせ」るためには位置合わせを行う必要があります。ジェミニ望遠鏡のWebサイトにはぼやけている画像も含めてつなぎ合わせた動画が公開されており、研究成果を出すまでにこうした事前のデータ処理も行われていることが垣間見えます。今回の手法は「ラッキー・イメージング」と呼ばれていますが、単に運良くきれいに撮れたものを集めたわけではなく、地道に時間をかけてこの画像を生み出したことが想像できます。
Image Credit: International Gemini Observatory, NOIRLab, NSF, AURA; M. H. Wong (UC Berkeley) & Team;
Acknowledgment: Mahdi Zamani
Source: NASA、ジェミニ望遠鏡
文/北越康敬
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