正体不明の突発天体、これまで認識されていなかった爆発現象の可能性
sorae.jp / 2020年5月28日 22時13分
2018年6月にヘルクレス座の方向で観測された「AT2018cow」は、一般的な超新星爆発よりも明るく、強い電波も放射するという変わった特徴を示す突発天体として研究者から注目を集めました。符号の末尾を取って研究者から「the Cow(カウ、牛の意)」とも呼ばれるこの突発天体が、新しいタイプに分類される爆発現象だったとする研究成果が発表されています。
■研究者らによって「カウ」に似た突発天体がさらに2つ確認される![](https://sorae.info/wp-content/uploads/2020/05/FBOT-768x767-1.png)
FBOT(Fast Blue Optical Transients)を描いた想像図(Credit: Bill Saxton, NRAO/AUI/NSF)
2018年に「カウ」ことAT2018cowが見つかったあと、Deanne Coppejans氏(ノースウエスタン大学)らとAnna Ho氏(カリフォルニア工科大学)らの研究チームは、それぞれ2016年に見つかった「CSS161010」と2018年に見つかった「ZTF18abvkwla」(末尾の4文字から「コアラ」とも呼ばれる)という、AT2018cowに似た2つの突発天体について分析を行いました。研究の結果、これらの突発天体はいずれも超新星爆発によって引き起こされたとみられる現象とされており、新たに「Fast Blue Optical Transients(FBOT、エフボット)」という名称が与えられました。名称の「Blue」は、観測される光が通常の超新星よりも青みがかっていることを意味しています。
FBOTで強い光が観測される仕組みについて研究者は、原因となった恒星が超新星爆発を起こしたとき、爆発間近の段階で恒星から周囲に流れ出た高密度の物質に衝撃波が到達することで、一般的な超新星爆発よりも強い光が爆発直後に放射されたものと考えています。また、FBOTでは爆発にともない誕生した中性子星あるいはブラックホールが電波やX線の放射に関わっているとみられており、Coppejans氏によると、CSS161010では太陽の1~10パーセントの質量に相当する物質が光速の半分以上まで加速されたことが電波の観測データから判明したといいます。Coppejans氏は「FBOTはこれまでにも検出されていたと思われますが、うまく説明できない超新星が見つかったとしても、光の波長以外の手段で観測できなければ『変わった超新星』としか認識できません」と語ります。
高エネルギーの突発的な天体現象というと近年では「ガンマ線バースト」が注目されていて、やはり超新星爆発が原因のひとつではないかとも考えられています。通称「コアラ」を研究したHo氏は、FBOTでは爆発した天体が高密度の物質に囲まれていることを示す水素の存在が検出されていて、この点がガンマ線バーストとは異なる特徴だとしています。また、観測された3つのFBOTはいずれも矮小銀河で発生したとみられており、Coppejans氏は矮小銀河の環境がFBOTを引き起こす恒星の進化に関係している可能性を指摘しています。
![](https://sorae.info/wp-content/uploads/2020/05/nrao20df03a-1024x466-1.jpg)
左から超新星爆発、ガンマ線バースト、FBOTを描いた比較図(Credit: Bill Saxton, NRAO/AUI/NSF)
ただし研究者らは、ブラックホールに恒星が破壊されたことでFBOTが発生した可能性も否定できないとしており、その場合FBOTは候補の発見例が少ない中間質量ブラックホールを捜索する上で格好の目印になるとしています。FBOTのより詳しい性質や原因の特定にはさらなる観測と研究が必要ですが、Ho氏は「科学では期待通りの発見に至らないこともありますが、かわりに新たな事実が明らかになります」とコメントしています。
関連:中性子星かブラックホールが誕生した瞬間? 正体不明の爆発現象に迫る
Image Credit: Bill Saxton, NRAO/AUI/NSF
Source: NRAO / W.M.ケック天文台 / ノースウエスタン大学
文/松村武宏
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