ニュー・ホライズンズによる冥王星の接近観測から5周年
sorae.jp / 2020年7月15日 20時30分
日本時間2015年7月14日、NASAの探査機「ニュー・ホライズンズ」によって史上初となる冥王星の接近観測が行われました。歴史的な観測から今年で5年、それまでの予想を覆した発見の数々がジョンズ・ホプキンス大学応用物理学研究所によってまとめられています。
■ニュー・ホライズンズが撮影した印象的な「ハート」形の領域ニュー・ホライズンズが撮影した画像のなかでも目を引くのは、ハート形にも見える明るい色合いの領域です。冥王星を発見したクライド・トンボー氏にちなんで「トンボー領域(トンボー地域)」と呼ばれるこの領域のうち、比較的平坦な西側の部分は「スプートニク平原」と名付けられています。スプートニク平原は少なくとも厚さ4kmに及ぶとされる広大な氷床で、主に窒素の氷でできています。ここには40億年ほど前に直径50~100kmほどの小天体が衝突したと考えられており、薄くなった地殻の表面に氷の層が形成されたとみられています。
また、冥王星と最大の衛星カロンは潮汐作用によって自転と公転の周期が同期した「潮汐固定(潮汐ロック)」の状態にありますが、氷床が成長するにつれて冥王星の自転軸が変化し、スプートニク平原がカロンの反対側に位置するようになったと考えられています。
■窒素の循環によって風が吹き、氷河が流れるこのスプートニク平原には、東側から幾つもの氷河が流れ込んでいるといいます。地球の氷河は長年降り積もった雪が厚い氷となって流れ下りますが、冥王星では地表から揮発した窒素が再び凍結することで蓄積し、高地から低地へと谷を刻みながら流れているとみられています。冥王星の表面には窒素の氷よりもわずかに密度が低い水の氷も存在しており、窒素の氷河によって削り取られた水氷の塊が氷河の表面まで浮かび上がったとみられる「氷山」が幾つか確認されているといいます。
こうした窒素の循環は、冥王星に風の流れを生み出しているとも考えられています。最近の研究では、スプートニク平原の北部で揮発した窒素が南部で凝縮する過程で風の流れが生じ、最大で時速およそ32kmの西へ吹く風を生み出している可能性が示されています。研究を率いたTanguy Bertrand氏(エイムズ研究センター、NASA)は「冥王星の『ハート』は大気をコントロールしています」と語ります。
関連:冥王星の「ハート模様」が風の流れに深く関わっているかもしれない
また、スプートニク平原の表面には、顕微鏡で見た細胞のような模様が存在しています。この模様は冥王星内部の熱によって温められた窒素の氷の対流を示しているとみられており、模様の中央付近では温かい氷が上昇し、模様の境目では冷たくなった氷が沈み込んでいると考えられています。
■冥王星の地下には海が存在する?ミッションチームの一員であるTuttle Keane氏(JPL:ジェット推進研究所、NASA)が「驚くべき発見でした」と振り返るように、冥王星の地下には今も液体の状態を保つ海が存在しているかもしれません。過去の冥王星では地下から物質が噴出する氷の火山が活動していた可能性が指摘されており、スプートニク平原の南にあるライト山とピカール山はその火口ではないかと考えられています。
ただ、現在の冥王星の地表と地下の海は、300kmほどの厚さがある地殻に隔てられているとみられています(スプートニク平原のように地殻が薄くなっているとみられる場所をのぞく)。最近の研究では地下の海が冥王星の形成当初から存在していた可能性が指摘されており、海が少しずつ凍結するにしたがって地殻が膨張した結果、表面にみられる断層地形が形成されたのではないかと考えられています。
関連:冥王星の氷の下の海は形成初期段階から存在していたかもしれない
冥王星をフライバイしたニュー・ホライズンズは、その後2019年1月1日に太陽系外縁天体「アロコス」(観測当時は通称「ウルティマ・トゥーレ」と呼ばれていました)の接近観測を行い、現在も太陽系の外に向かって飛行を続けています。ミッションチームではさらなる観測を行うべく、国立天文台ハワイ観測所の「すばる望遠鏡」と連携して、観測の候補となる天体の捜索・検討を進めています。
Image Credit: NASA/Johns Hopkins APL/Southwest Research Institute
Source: Johns Hopkins APL / NASA / 国立天文台ハワイ観測所
文/松村武宏
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