【解説】「はやぶさ2」拡張ミッションは、あらゆることが実験に

sorae.jp / 2020年7月27日 16時37分

JAXAは、2020年7月22日、小惑星探査機「はやぶさ2」の地球圏再離脱後の拡張ミッション計画について発表しました。
予算等が承認されれば、搭載機器や機体そのものの長期耐久試験などを行いながら、新たな小天体を目指して飛行を続けることになります。

目標となる天体は、「2001 AV43」「1998 KY26」の2つが最終候補となっており、秋頃までに科学的価値や実現可能性などを考慮して決定されます。いずれも数十mサイズのごく小さい天体で、10分程度という極めて速い自転速度で回転しています。このタイプの小惑星はまだ直接観測されておらず、無事に到達できれば人類初の成果になります。

2つの小惑星の概要 (Credit: JAXA)

2段階の目的地選び

目的地の絞り込みは、2段階で行われました。最初の条件は以下の4つです。

①「はやぶさ2」の残りの推進剤で到達できること
②火星より太陽に近い軌道であること(太陽電池の性能の限界)
③高速で天体を通過するフライバイ方式、天体を周回するランデブー方式のうち、ランデブーを優先すること
④惑星と小天体では、小天体(彗星・小惑星)を優先すること

第一段階の絞り込み(Credit: JAXA)

候補となった1万8002個の小惑星・彗星の中で、条件を満たしたのは354個。10年前後でたどり着ける星は多数ありましたが、5年以内で到達可能な小惑星は存在しなかったとのことでした。
さらに絞り込むために、条件を追加しました。

⑤2031年12月31日までに到達できる
⑥推進剤に少し余裕を持って到達できる
⑦到達したとき、太陽から遠すぎない
⑧軌道がよくわかっている
⑨理学的に見て行く価値のある天体である

これらを総合的に評価して、「2001 AV43・1998 KY26」が候補になりました。

第二段階の絞り込み(Credit: JAXA)

このサイズの小惑星は、100~200年に一度の割合で地球に落ちてきて、被害をもたらすことが予測されています。それがどのような星なのかを観測できれば、地球防衛の点でも意味があるのです。この分野は「プラネタリー・ディフェンス」(惑星防衛)という名前で、世界的な協力体制ができています。初代「はやぶさ」の再突入の観測結果も、地球防衛上役に立つデータとなりました。

小惑星の落下は、大きさによっては大量絶滅をもたらすことも。(Credit: 池下章裕)

100点満点から更に積み上げる

「はやぶさ2」の任務は、小惑星からサンプルを持って帰ることです。順調に行けば、2020年12月6日にこの任務が終わります。
現在、機体は正常に動作していて、燃料も充分残る予定です。これをカプセルと一緒に大気圏再突入させて燃やしてしまうのは、あまりにももったいないことです。初代「はやぶさ」が再突入したのはカプセル帰還の可能性を少しでも上げるための判断です。もしも「はやぶさ2」のように健全だったなら、別の星の探査におもむくことも検討されていました。

月より向こうの深宇宙空間に行く探査のチャンスは、世界的に見てもとても少ないです。日本に限って言えば、1966年のL-4Sロケット1号機以来、人工衛星打ち上げロケットの打ち上げはおよそ120回行われましたが、そのうち深宇宙行きは6回のみでした。少ないチャンスをできるだけ活用したいと考えるのは当然のことでしょう。
カプセルを地球に帰した時点で予定されていたミッションは終わり、となれば、その先は全て実験となります。

小惑星「リュウグウ」のかけらが入ったカプセルが無事に帰ってきて100点満点とするなら、拡張ミッションは200点、300点と、満点を更に積み重ねていくことになるのです。

全てが実験の拡張ミッション

拡張ミッションでは多くの目的が考えられている。(Credit: JAXA)

拡張ミッションは、目的の星にたどり着いて観測できなければ失敗、ではありません。それまでに起こるあらゆる事が実験です。どんなことが考えられているのでしょうか。
まず、長期耐久試験です。探査機本体や搭載機器、イオンエンジンがどのくらい無事に動き続けられるか、また、性能はどのように劣化していくのかを見極めます。これは地上試験やシミュレーションでは限界があるので、宇宙での実地試験をぜひとも行いたいところ。それが長期間できるのはまたとない機会になります。

メインミッション中ではリスクがあって試せなかったこともできます。探査機の新しい姿勢制御方法の実験や、イオンエンジンや化学エンジンの限界を見極めるようなことです。
次世代の人員を育てるのも重要な役割です。小惑星リュウグウのタッチダウンの際には、地上からの命令が届くまで片道およそ18分かかりました。これは計算で分かることですが、肌感覚として染み込ませ、先読みできるようになるには実地訓練が一番です。深宇宙探査機の運用経験を積むチャンスは貴重です。

衛星メーカーとしては、これだけ動いた実績のある宇宙機を作った経験があります、というのは強力なアピール材料になるでしょう。
同じ宇宙空間とはいっても、地球近辺を周回するのと遠方に行くのでは、機体の置かれる環境も異なります。地上の機械でも、砂漠で動くものと南極で動くものは異なった対策が必要ですが、これがより極端になるのが宇宙という場所です。熱、放射線、真空の度合いといった要素は宇宙機の設計や材料選びに欠かせないものですが、拡張ミッションが行われればこの試験もできるのです。

津田雄一プロジェクトマネージャは、「(搭載機器や本体の)死に方を見るのも貴重な経験」と言っていました。「あらゆることが実験」である拡張ミッションの性質を、これほど的確に表した言葉はありません。

カプセル帰還が最優先

これまで述べてきたことは、サンプルカプセルが切り離された後に「はやぶさ2」本体が無事であることと、予算が認められることが前提になります。ともに無事に行くよう祈っています。

赤線部分からが拡張ミッションとなる。(Credit: JAXA)

 

Image Credit: JAXA / DLR
文/金木利憲

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