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新生スーパーカミオカンデが観測開始、超新星背景ニュートリノの初観測目指す

sorae.jp / 2020年8月24日 21時0分

スーパーカミオカンデの検出器内部。円筒形のタンク内壁を覆うようにびっしりと並んでいるのが光電子増倍管(Credit: 東京大学宇宙線研究所 神岡宇宙素粒子研究施設)

東京大学宇宙線研究所などが参加するスーパーカミオカンデ共同研究グループは8月21日、岐阜県飛騨市神岡町の神岡鉱山跡地にある「スーパーカミオカンデ」が新たな装置として観測を始めたことを発表しました。

スーパーカミオカンデは1996年から観測を開始したニュートリノ検出器で、来年春で観測開始から25周年を迎えます。直径39.3m、高さ41.4mの円筒形をしたタンクの内部は5万トンもの純水(純度の高い水)で満たされていて、タンクの内側には約1万3000本の光電子増倍管(高感度の光センサー)がびっしりと配置されています。

ニュートリノは人体だけでなく地球も簡単に通り抜けるために観測することが難しい素粒子ですが、ごくまれに物質と衝突してチェレンコフ光と呼ばれる光を放ちます。今回スーパーカミオカンデではタンク内の純水にガドリニウム(元素記号Gd、レアアースの一種)が導入されたことで、超新星爆発によって生じたニュートリノ(以下「超新星ニュートリノ」)の検出感度向上、特に宇宙の長い歴史を通して蓄積されてきた「超新星背景ニュートリノ」の世界初観測が期待されています。

■超新星爆発の理解につながる「超新星背景ニュートリノ」の観測

スーパーカミオカンデ共同研究グループの発表によると、超新星爆発のエネルギーは全体の99パーセントがニュートリノによって放出されており、恒星を破壊するエネルギーは残りの1パーセントほど、光のエネルギーは全体のわずか0.01パーセントに過ぎないとされています。そのため、超新星ニュートリノを観測すれば、超新星爆発の本質を探ることができるといいます。

ところが、これまでに超新星ニュートリノが捉えられたのは、1987年に観測された大マゼラン雲の超新星「SN 1987A」が唯一の例だといいます。もしも天の川銀河で超新星爆発が起きた場合、スーパーカミオカンデは約8000の超新星ニュートリノによる反応を捉えられるとされているものの、天の川銀河における超新星爆発の頻度は30~50年に1回とされており、今後スーパーカミオカンデで捉えられるのは1回か2回程度に限られるようです。

超新星背景ニュートリノは過去の超新星爆発によって宇宙に放出されたニュートリノが蓄積したもの(Credit: 東京大学宇宙線研究所 神岡宇宙素粒子研究施設)

超新星爆発に関するより多くの情報を得るために注目されているのが、「超新星背景ニュートリノ」の観測です。数千億の銀河が存在するとみられる宇宙全体では毎秒数回の超新星爆発が起きていると考えられています。長い歴史を通して繰り返されてきた爆発にともない放出されて宇宙に拡散・蓄積されたニュートリノである超新星背景ニュートリノは、人の手のひらを毎秒数千個通り抜けるほどの量であることが理論上予想されるといいます。

この超新星背景ニュートリノを観測することで、超新星爆発の平均的な様子や、宇宙の歴史において超新星爆発が多く起きていた時期などが明らかになると期待されています。ただ、スーパーカミオカンデでは宇宙線や太陽ニュートリノ(太陽で生成された電子ニュートリノ)などによる超新星ニュートリノに由来しない反応がノイズとして年間数万も生じており、そのなかから毎年数回と予想される超新星背景ニュートリノによる反応だけを探し出すことはできなかったといいます。

■ガドリニウムの導入により超新星背景ニュートリノの識別が可能に

反電子ニュートリノによる反応と信号の関係を描いた図。ガドリニウムを導入したことで、陽電子とガンマ線によるチェレンコフ光がそれぞれ捉えられる(Credit: 東京大学宇宙線研究所 神岡宇宙素粒子研究施設)

この問題を解決するために今回導入されたのがガドリニウムです。発表によると、超新星爆発では全種類のニュートリノ(電子ニュートリノ、ミューニュートリノ、タウニュートリノ、およびこれらの反粒子を合わせた6種類)が放出されます。このうちタンク内部の水と最も反応しやすいという反電子ニュートリノは陽子(水を構成する水素の原子核)と反応して陽電子(電子の反粒子)と中性子を生成しますが、従来はこのとき生成された陽電子によるチェレンコフ光が捉えられていました。

いっぽう、導入されたガドリニウムは中性子を捕獲する能力に優れており、反電子ニュートリノによって生成された中性子をガドリニウムが捕獲した際に放出されるガンマ線は、チェレンコフ光を発生させるといいます。ガンマ線によるチェレンコフ光は、陽電子によるチェレンコフ光発生の直後にほぼ同じ場所(数十~百マイクロ秒後に約50cm以内)で捉えられるとされています。

つまり、この一連の反応による陽電子とガンマ線によるチェレンコフ光をどちらも捉えることで、これまでノイズに埋もれていた超新星背景ニュートリノを探し出すことが可能になるというのです。

2018年に実施されたタンク内壁の止水工事の様子(Credit: 東京大学宇宙線研究所 神岡宇宙素粒子研究施設)

なお、発表によるとガドリニウムに環境基準や排水基準といった法的な規制はないとされているものの、河川にはあまり存在しない物質であることから、今回の導入に先立って漏洩対策が行われています。スーパーカミオカンデではこれまで毎日約1トンの純水が漏れていたといいますが、2018年にタンク内壁の継ぎ目に止水剤を塗る改修工事を行ったことで、有意な水漏れは確認されなくなったとのことです。

現在ガドリニウムの濃度は0.01パーセントで、これだけでも50%の効率で中性子を捕獲できるといいますが、濃度を0.1パーセントまで上げると効率が90パーセントに向上するといいます。スーパーカミオカンデ共同研究グループでは、今後数年かけてガドリニウムの濃度を上げていき、7~8年の観測で世界初の超新星背景ニュートリノ観測を目指すとしています。

 

Image Credit: 東京大学宇宙線研究所 神岡宇宙素粒子研究施設
Source: 東京大学宇宙線研究所 / 神岡宇宙素粒子研究施設
文/松村武宏

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