地球の生命は月の磁場にも守られながら誕生したのかもしれない
sorae.jp / 2020年10月15日 21時3分
NASAのJames Green氏らの研究グループは、かつて存在していた月の磁気圏が地球の磁気圏と結合していて、若く活発な太陽のフレアやコロナ質量放出から互いの大気を保護する役割を果たしていた可能性があるとする研究成果を発表しました。
月の形成に関する巨大衝突説(ジャイアント・インパクト説)によると、月は今から約45億年前、形成されてから1億年に満たない初期の地球に火星サイズの原始惑星が衝突したことで誕生したと考えられています。形成されたばかりの月は今よりもずっと地球に近く、約40億年前には地球から13万km弱(現在の地球から月までの距離の3分の1ほど)離れたところを公転していたとされています。潮汐力の作用で地球の自転が少しずつ遅くなるかわりに、月は今も地球から少しずつ遠ざかり続けています。
現在の月は磁場を失っていますが、かつての月には磁場があり、月の磁場が支配する領域である月の磁気圏が存在していたとみられています。そこで研究グループは、初期の地球と月の磁場がどのように振る舞っていたのかを調べるためにコンピュターモデルを作成し、シミュレーションを行いました。
その結果、約41億年前から約35億年前にかけて地球と月の磁気圏が結合していた可能性が示されました。結合した磁気圏は互いを保護する障壁として機能し、太陽風による大気の流出を防いでいたとみられています。地球の生命は約38億年前に誕生したと考えられていますが、今回の研究成果が正しければ、生命誕生当時の地球の大気は地球の磁場だけでなく月の磁場にも保護されていたことになります。月の磁場は内部が冷えたことで約32億年前に大幅に弱まって約15億年前までに消滅し、大気も失われたとされています。
研究グループは、地球の大気を構成していた窒素などが太陽からの極端紫外線によって電離し磁力線に沿って移動することで、当時の月の大気や地殻に地球が影響を及ぼしていた可能性を指摘しています。また、太陽のような恒星(G型星)よりも活発にフレアを放出する赤色矮星(M型星)を周回する太陽系外惑星の居住可能性を研究する上で、惑星と衛星の結合した磁気圏が重要なものとなる可能性にも研究グループは言及しています。
2024年の有人月面着陸を目指すNASAのアルテミス計画では、月の南極域に宇宙飛行士が降り立つことになります。地球の磁場と強く結びついていたとみられる月の極地で採取されたサンプルから、隕石や小惑星の衝突でもたらされた水などの揮発性物質の証拠とともに、地球の古代の大気に関する情報が得られることが期待されています。
Image Credit: NASA/JPL/USGS
Source: NASA
文/松村武宏
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