宇宙望遠鏡「スピッツァー」による星の家族写真
sorae.jp / 2020年11月1日 22時40分
スピッツァーが撮影した「星の家族写真」(Credit: NASA/JPL-Caltech)
この画像はNASAの宇宙望遠鏡「スピッツァー」が撮影したもので、たくさんの星や、星が生まれるもととなったガスやダストの塊を捉えたものです。
画像の右上に輝く白っぽい光から左下に流れるように見える緑色・オレンジ色の領域はガスやダストでできた雲で、「星雲」と呼ばれます。実際にはもっと多くの雲がありましたが星からの放射によって削られてしまい、この部分だけが残ったものです。白っぽい光のある明るい領域は重い星々の光に照らされているところで、その上のほうにはこれらの星を含む星の集団(星団)が広がっています。画像の色は実際に目に見える光の色ではなく、スピッツァーが観測する赤外線の波長によって、青・緑・オレンジ・赤の4色を擬似的につけたものです。白はこれらの4色が組み合わさった結果であり、その周辺では星の放射によって加熱されたダストが赤い輝きを放っています。
この画像には誕生したばかりの星や年老いた星などが1枚に収められており「星の家族写真」とも呼ばれています。それぞれの場所でどのような星があるのか見てみましょう。
![スピッツァーが撮影した「ケフェウスC」「ケフェウスB」と呼ばれる領域の画像(冒頭と同じもの)に印をつけたもの。スピッツァーの観測装置「IRAC」(Infrared Array Camera)と「MIPS」(Multiband Imaging Photometer)によるデータを組み合わせて表現されています。](https://sorae.info/wp-content/uploads/2020/10/PIA23126-640x277-1.jpg)
スピッツァーが撮影した「ケフェウスC」「ケフェウスB」と呼ばれる領域の画像(冒頭と同じもの)に印をつけたもの。スピッツァーの観測装置「IRAC」(Infrared Array Camera)と「MIPS」(Multiband Imaging Photometer)によるデータを組み合わせて表現されています。(Credit: NASA/JPL-Caltech)
画像の左側「ケフェウスC」(Cepheus C)と呼ばれる領域はやや暗くなっていますが、よく見ると黒っぽいフィラメント状の構造があり、その中に赤や黄色の点として星が輝いているのがわかります。これらの星々は生まれたばかりの「赤ちゃん星」です。この領域はガスやダストが特に濃いところで、星が誕生する現場になっています。星がだんだんと年老いてくるにしたがって星から吹き出してくる物質が強い「風」となり、ここに見える黒っぽい物質が集まっているところはいずれ散らばってしまうでしょう。そしてその場面を見せてくれているのが、実は右上のほうに赤と白で明るくなっている領域です。
なお、ケフェウスCはその名の通り「ケフェウス座」という星座の方向にあります。ケフェウス座は北の空に見える星座「カシオペヤ座」の近くにある星座です。ケフェウスCの長さはおよそ6光年、右上の明るい領域からは約40光年の距離にあります。
画像の右側に目を向けてみると、大きな星雲の上に「ケフェウスB」(Cepheus B)と呼ばれる領域が見えます。ここにも星団があり、太陽からは2000~3000光年の距離に位置しています。スピッツァーの観測データを使った研究によるとこれらの星々は誕生してから約400~500万年ほどたっており、ケフェウスCにある星団より少し年老いていることになります。
このように、ケフェウスCにある星々は生まれたばかりの赤ちゃん星、右上の明るい領域はガスやダストを吹き飛ばしている「大人の星」、そして最後にガスやダストが散らばってしまった後、ケフェウスBにあるように星々が宇宙に単独で輝く「年老いた星」となっており、星の「家族」が1枚に収められたようになっているというわけです。
さて、この画像で注目すべき点はこれだけではありません。
中央やや左にある「V374 Ceph」という部分を見てみると、赤い砂時計のような形をしています。天文学者たちはこの領域について、中心にある重たい星の周りにある暗いちりのような物質でできた円盤を横から見ているのかもしれないと考えています。星の左右には暗い三角コーンのような形が見えますが、これが円盤の影として見えているというものです。一方、右側にある「Runaway Star」と示された星の周囲には赤い弧のような構造が見えます。これは星がガスやダストの中を猛スピードで進んでいくことによってできた「バウショック」と呼ばれる衝撃波です。また、右下の「Young Nebula」は新しく誕生した小さな星団で、周囲のガスやダストを明るく照らしています。この領域についてはスピッツァーの観測装置「IRAC」のデータだけを使った画像(下図)のほうで水しぶきのような姿でよく見ることができます。
![](https://sorae.info/wp-content/uploads/2020/10/PIA23127_cut-300x130.jpg)
スピッツァーの観測装置「IRAC」による画像。Credit: NASA/JPL-Caltech
今回の画像はスピッツァーの観測装置「IRAC」(Infrared Array Camera)と「MIPS」(Multiband Imaging Photometer)によって取得されたものです。赤外線を観測するには熱が妨げになるため、液体ヘリウムを使った冷却材によって冷やされている期間にこの観測は行われました。観測波長と画像での色はそれぞれ、冒頭の画像がIRACによる3.6マイクロメートル(青)、4.5マイクロメートル(シアン)、8マイクロメートル(緑)、そしてMIPSによる24マイクロメートル(赤)、IRACのみによる画像が3.6マイクロメートルは青、4.5マイクロメートルは緑、5.8マイクロメートルはオレンジ、8.0マイクロメートルは赤となっています。
なお、NASAのジェット推進研究所(JPL)ではこの画像の注目ポイントをたどっていく2分ほどの動画を公開しています。こちらもぜひご覧ください。
Image Credit: NASA/JPL-Caltech
Source: NASA/JPL-Caltech
文/北越康敬
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