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未来の活動拠点「ムーンビレッジ」を見据えた月面で膨らむ4階建て居住室のコンセプト

sorae.jp / 2020年11月20日 16時49分

月の南極域に建設されたムーンビレッジを描いた想像図(Credit: SOM)

こちらは、月面における人類の活動拠点「ムーンビレッジ(Moon Village)」を描いた想像図です。ムーンビレッジは月面での活動を目指す世界各国の研究機関や民間企業などに対するオープンな拠点として、ウィーンに事務局がある非営利組織ムーンビレッジ協会(Moon Village Association)を中心に検討が進められています。

月にはほぼ大気が存在しないため、人間が月で生きていくためには与圧された居住室が必要となります。冒頭の画像で地球をバックに幾つも並んでいるように描かれている建物は、ドバイの超高層ビル「ブルジュ・ハリファ」などを手掛けたアメリカの建築設計事務所スキッドモア・オーウィングズ・アンド・メリル(SOM)による居住室のコンセプトです。今回、SOMが設計した月面居住室のコンセプトがESA(欧州宇宙機関)の専門家によって評価され、その結果が公表されています。

スキッドモア・オーウィングズ・アンド・メリルが設計した4人用の月面居住室の外観(Credit: SOM)

SOMが設計した居住室は4人用で、窓がはめ込まれた硬質な柱と膨張式の壁面を組み合わせた構造をしています。膨張式の構造は打ち上げ時の容積をコンパクトにできるメリットがあることから将来の実用化に向けて研究が進められていて、国際宇宙ステーションにもビゲロー・エアロスペースの試験用モジュール「BEAM(Bigelow Expandable Activity Module)」が2016年から設置されています。SOMの居住室の場合、膨張させることで内部容積を2倍に増やすことができるといいます。

居住室の内部は4階建ての構造で、1階が生活スペースに充てられています。当初は最上階の4階が生活スペースに充てられていたといいますが、太陽フレアから滞在者を保護するシェルターとしての役割を考慮して、より低い階層に変更されています。滞在日数も500日間が検討されていたものの、宇宙放射線の被ばくによる制約から300日間に短縮されました。1つの居住室は打ち上げ時の重量が58トンに達するため、打ち上げにはNASAのSLS(スペース・ローンチ・システム)もしくはSpaceXのStarship(スターシップ)の使用が想定されています。

居住室内部の滞在者用生活スペース(Credit: SOM)

また、居住室を設置する場所、すなわちムーンビレッジの建設場所は月の南極付近にあるシャクルトンクレーターの縁が想定されています。昼と夜がそれぞれ2週間続く月の「1日」では日中と夜間の温度変化が激しいことに加えて夜間は太陽光発電が使えなくなりますが、極域であればほぼ継続的に太陽光発電が利用できる上に、クレーター内部の永久影に埋蔵されている水資源にもアクセスしやすいという利点があります。居住室が必要とする電力は国際宇宙ステーションでの経験をもとに60キロワットと試算されていて、発電方法は太陽光だけでなく原子力も検討されています。

2024年の実施を目指すNASAのアルテミス計画における最初の有人月面探査ミッション「アルテミス3」では、宇宙飛行士は1週間ほど月面に滞在する予定です。10か月間の滞在を可能にする月面の居住室が実現するのはまだまだ先のように感じられますが、ESAは近い将来にSOMのコンセプトで示されたような居住室が月面に設置される可能性に言及しています。

居住室内部の作業用スペース(Credit: SOM)

 

関連:月面基地の建設では宇宙飛行士の「尿」が重要になる?

Image Credit: SOM
Source: ESA
文/松村武宏

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