アレシボ天文台の巨大な電波望遠鏡、ケーブル損傷後の復旧を断念し解体へ
sorae.jp / 2020年11月22日 15時54分
全米科学財団(NSF)は現地時間11月19日、プエルトリコのアレシボ天文台で57年間に渡り運用されてきた電波望遠鏡が廃止されることを明らかにしました。なお、電波望遠鏡の廃止後もアレシボ天文台は存続し、上層大気の観測を行うLIDARの運用などが継続される予定です。
アレシボ天文台の電波望遠鏡は地上に固定された直径305mの巨大な主鏡が特徴の観測設備です。主鏡の向きを変えることはできませんが、3基のタワーから伸びたケーブルによって吊り下げられている受信機等を備えたプラットフォーム(重さ900トン)を移動させることで、観測する方向を調整できる仕組みになっています。
アレシボ天文台では2020年8月10日、電波望遠鏡のプラットフォームを支える補助ケーブルの1本が断線し、主鏡の一部が約30mに渡り損傷する事故が起きていました。NSFによると、補助ケーブルの断線後も他のケーブルにかかる負荷は許容範囲内にあると判断されており、復旧作業に向けて仮設用と交換用のケーブルがそれぞれ2本ずつ手配されていたといいます。
しかし同年11月6日、今度は8月に断線した補助ケーブルと同じタワーに接続されていたメインケーブルのうち1本が断線。分析の結果、このメインケーブルは最小破断強度の60パーセントの負荷で断線してしまったことが明らかになり、他のケーブルも想定以上に弱くなっている可能性があるといいます。このような状況下で復旧作業を進めるのは危険であり、予期せぬタイミングで崩壊する可能性もあることから、作業員および天文台スタッフや他の施設の安全性を考慮して望遠鏡を解体する計画が進められることになりました。
1963年に完成したアレシボ天文台の電波望遠鏡は、水星の自転周期(約59日)が公転周期(約88日)とは一致していないことの発見、おうし座の超新星残骸「かに星雲」の中心にある「かにパルサー」の自転周期が約33ミリ秒であることの発見、世界初の連星パルサーの発見、パルサーを周回する太陽系外惑星の発見(世界初の系外惑星の発見)といった重要な成果に貢献しており、近年では地球接近天体(NEO:Near Earth Object)のレーダー観測でも活躍してきました。また、1974年には地球から球状星団M13に向けて太陽系や人類の存在を示した「アレシボ・メッセージ」(Wikipedia)がアレシボ天文台から送信されています。
関連:4月29日に地球に最接近する小惑星「1998 OR2」 まるでカップ型のマスクのよう
Image Credit: University of Central Florida
Source: NSF / Arecibo Observatory
文/松村武宏
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