2020年「宇宙天文ニュース」10大ニュース ~前半・宇宙開発編~
sorae.jp / 2020年12月24日 21時17分
2020年も残すところあと1週間ほどになりました。新型コロナウイルス感染症が全世界に広がった今年は宇宙開発や天文学の分野も大きな影響を受けましたが、厳しい状況下でもこれまでの努力が実った瞬間や今後の流れを左右する出来事がありました。そこでsoraeでは今年お伝えしたニュースのなかから注目すべきニュースを10本ピックアップ。今回は前半の「宇宙開発ニュース編」として5本をご紹介します!
■小惑星探査機「はやぶさ2」の地球帰還と再出発2020年12月6日、小惑星「リュウグウ」でサンプル採取を行った宇宙航空研究開発機構(JAXA)の小惑星探査機「はやぶさ2」が地球に帰還しました。サンプルが詰め込まれた再突入カプセルを分離した「はやぶさ2」は地球を離脱し、拡張ミッションの目標である別の小惑星に向かって再出発しています。
「はやぶさ2」は2018年6月にリュウグウへ到着し、2019年2月22日に1回目のタッチダウン(サンプル採取)を、同年7月11日に2回目のタッチダウンを実施。同年11月13日にリュウグウを出発して地球への帰路につきました。12月6日に地球へ接近した「はやぶさ2」本体から切り離されたカプセルは大気圏に突入し、予定通りオーストラリアのウーメラ立入制限区域に降下。待機していたJAXAのスタッフによって無事回収されています。
回収されたカプセルには目標の0.1gを50倍以上も上回る約5.4gの砂だけでなく、リュウグウに由来するガスが入っていたことも確認されました。地球外の天体に由来するガスのサンプルが得られたのは人類史上初めてのことです。今後はリュウグウで採取・密閉保管された新鮮なサンプルをもとに、太陽系初期の様子や地球の水、そして生命の起源にも迫る研究が進められることになります。
また、「はやぶさ2」本体は直径約30mと推定される小さな小惑星「1998 KY26」への2031年7月到着を目指す拡張ミッションに向けて飛行を続けています。このサイズの小惑星は100年~200年に1度のペースで地球に落下するとされており、「はやぶさ2」の拡張ミッションは天体衝突に対する取り組み「プラネタリー・ディフェンス(惑星防衛)」の観点からも注目されています。
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2020年11月16日、JAXAの野口聡一宇宙飛行士ら4名を乗せたスペースXの有人宇宙船「クルードラゴン」運用初号機による運用ミッション「クルー1(Crew-1)」の打ち上げが行われました。クルードラゴンは翌17日に国際宇宙ステーション(ISS)へ到着し、4名は長期滞在クルーとして現在ISSに滞在しています。
アメリカ航空宇宙局(NASA)のコマーシャルクループログラム(商業乗員輸送計画)のもとで開発されたクルードラゴンは、今年から本格運用が始まったばかりの新しい宇宙船です。開発が大詰めを迎えた2019年3月には無人飛行試験ミッション「デモ1(Demo-1)」、2020年5月には2名の宇宙飛行士を乗せた有人飛行試験ミッション「デモ2(Demo-2)」の打ち上げが実施されており、いずれもISSへのドッキングと大西洋への着水に成功しています。
クルー1は一連の飛行試験に続く最初の本格的なクルードラゴンの運用ミッションです。ISSの滞在人数は緊急時の脱出手段も兼ねる有人宇宙船の搭乗人数に左右されますが、ISSに4名を運ぶことができるクルードラゴンの実用化により、ロシアの有人宇宙船「ソユーズ」で地上とISSを往復する3名と合わせてISSの7名体制が始まっています。従来の6名から1名が増加したことで、ISSでの科学実験を2倍に増やせるといいます。
2011年に退役したスペースシャトル以来9年ぶりにアメリカが運用する有人宇宙船となったクルードラゴンは、JAXAの星出彰彦宇宙飛行士が参加する「クルー2」(Crew-2、2021年春)と、4名参加する宇宙飛行士のうち3名が決まった「クルー3」(Crew-3、2021年秋)の打ち上げ予定がすでに発表されています。また、スペース・アドベンチャーズによるクルードラゴンを利用した宇宙旅行サービスも2021年以降に提供される予定です。
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地球と火星が接近するタイミングから火星探査機の打ち上げ好機となった2020年夏は、火星探査機やローバー(探査車)が相次いで地球を旅立ちました。
まずは7月20日、アラブ首長国連邦(UAE)の火星探査機「HOPE」(アル・アマル、日本語で「希望」の意)が種子島宇宙センターからH-IIAロケットに搭載されて打ち上げられました。中東初の火星探査機となったHOPEは火星大気の観測を主な目的としており、火星を55時間で1周する軌道に投入される計画です。
続いて7月23日、中国の火星探査機「天問1号」を乗せた長征5号ロケットが中昌文昌衛星発射センターから打ち上げられました。中国初の火星探査機である天問1号は周回機・着陸機・探査車から構成されており、火星周回軌道への投入から数か月後にユートピア平原へ着陸機が降り立つとされています。
そして7月30日、NASAの火星探査車「Perseverance」(パーセベランス、パーサヴィアランス)を乗せたアトラスVロケットがケープカナベラル空軍基地から打ち上げられました。Perseveranceによる火星探査ミッション「マーズ2020」は、古代の火星で誕生していた可能性がある生命の探索が重要な目的。NASAと欧州宇宙機関(ESA)が共同で実施する火星からのサンプルリターンミッションに備え、Perseveranceにはサンプルを保管する容器が搭載されています。また、Perseveranceは火星大気中での飛行を実証するための小型ヘリコプター「Ingenuity」(インジェニュイティ)も搭載しています。
なお、3か国の探査機はいずれも2021年2月に火星へ到着する予定です。
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2020年8月20日、前日にISSを離脱した宇宙ステーション補給機「こうのとり(HTV)」9号機が大気圏へ再突入しました。「こうのとり」による補給ミッションは9号機が最後だったため、これで「こうのとり」すべての運用が終了したことになります。
2009年9月の技術実証機(初号機)から運用が始まった「こうのとり」は、ISSに最大約6トンの物資を運ぶことができる世界最大級の無人補給船です。大型の貨物や実験装置を船内と船外に同時に積み込んで輸送できるのは「こうのとり」が唯一で、1~2年の打ち上げ間隔で合計50トン以上の物資をISSに運びました。全9回の打ち上げと輸送はすべて成功しています。
「こうのとり」はロシアの補給船「プログレス」やクルードラゴンのようにISSへ直接ドッキングすることはできませんが、ISSに接近したところをロボットアームがキャッチする「ランデブー・キャプチャ方式」が採用されました。これは「こうのとり」初号機で実証された技術で、後にアメリカの補給船「シグナス」や「ドラゴン(旧型)」でも採用されています。
なお、現在JAXAでは「こうのとり」の後継機となる新型宇宙ステーション補給機「HTV-X」の開発を進めています。「HTV-X」はISSへの輸送だけでなく、NASAが建設を計画している月周回有人拠点「ゲートウェイ」への物資輸送や、ISSへの補給ミッション後に軌道上で実験などを行う最大1年半の延長ミッションを行うことも計画されています。
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2020年12月10日、NASAは1972年12月以来途絶えている有人月面探査を再開する「アルテミス計画」で月を目指すことになる18名の宇宙飛行士を「アルテミスチーム」として発表しました。
アルテミスチームのメンバーはすべてNASAの宇宙飛行士で、いずれもSTEM分野や医学などの専門知識を有するエキスパートです。宇宙飛行の経験もさまざまで、女性宇宙飛行士の連続宇宙滞在記録(328日)を今年更新したクリスティーナ・コック(Christina Hammock Koch)宇宙飛行士や、JAXAの星出彰彦宇宙飛行士、金井宣茂宇宙飛行士と一緒にISSへ滞在したことがあるジョセフ・アカバ(Joseph Acaba)宇宙飛行士のようなベテランだけでなく、2017年に選抜されたばかりの飛行士も選ばれています。2024年に実施が予定されているアルテミス3ミッションでは、この18名のうち誰かが半世紀ぶりに月へ降り立つ「最初の女性と次の男性」になります。
▲アルテミスチーム18名の宇宙飛行士たち(Credit: NASA/Bill Ingalls)▲
なお、アルテミスチームには日本や欧州など計画の協力国の宇宙飛行士を含む新たなメンバーが加わる可能性が示されており、すでにカナダの宇宙飛行士が2回飛行する機会が発表されています。計画が順調に進めば4年後に始まる21世紀の有人月面探査、実現する日が楽しみですね。
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文/松村武宏
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