観測史上最も若い「マグネター」のX線をNASAの観測衛星が捉えた
sorae.jp / 2021年1月11日 17時21分
太陽と比べて8倍以上重い恒星が超新星爆発を起こした際に形成されると考えられている中性子星のなかには、典型的な中性子星の最大1000倍という強力な磁場をともなう「マグネター」と呼ばれるものがあります。今回、昨年発見された観測史上最も若いとみられるマグネターをX線で観測した画像が公開されています。
こちらの画像の中央にある紫色に着色された天体が、アメリカ航空宇宙局(NASA)のX線観測衛星「チャンドラ」によってX線で観測されたマグネター「Swift J1818.0-1607」です。実際に紫色に見えるのではなく、人の目には見えないX線の観測データをもとに擬似的に着色されています。なお、背景の星々は赤外線による観測データを着色したものになるため、こちらも人の目で見た星空とは異なります。
「いて座」の方向およそ2万1000光年先にあるSwift J1818.0-1607は、2020年3月12日にNASAのガンマ線観測衛星「ニール・ゲーレルス・スウィフト」によって最初に検出された後、欧州宇宙機関(ESA)やNASAのX線観測衛星、それに地上の電波望遠鏡によって追加観測が行われました。
およそ3000個が知られている中性子星のうちマグネターは1パーセントほど。Swift J1818.0-1607は31番目に見つかったマグネターで、自転周期は既知のマグネターで最も短い約1.4秒とされています。前述のようにマグネターの磁場は中性子星のなかでもかなり強力で、もしもマグネターが地球から月までの距離の6分の1(約6万4000km)まで近づいた場合、地球上にあるすべての磁気カード(クレジットカードなど)のデータが消去されてしまうほどだといいます。
関連:観測史上最も若い240歳の「マグネター」が見つかる
ウェストバージニア大学のHarsha Blumer氏とマニトバ大学のSamar Safi-Harb氏によるチャンドラを用いたSwift J1818.0-1607の観測は、発見から3週間ほどが経った4月3日に実施されました。高解像度で捉えられたX線がかすかに拡散している様子から、マグネターを取り囲む塵がX線を反射しているとみられています。
冒頭でも触れたように、Swift J1818.0-1607は観測史上最も若いマグネターとみられています。両氏によると、観測されているSwift J1818.0-1607は誕生から470年が経ったと推定されており(昨年6月に発表されたパヴィア高等研究所のPaolo Esposito氏らによる推定では240年とされていました)、人類は16世紀頃にこのマグネターを生み出した超新星爆発を目撃できた可能性があります。
これほど最近の超新星であれば、周囲に超新星残骸が残っていてもおかしくありません。両氏が赤外線宇宙望遠鏡「スピッツァー」やアメリカの「カール・ジャンスキー超大型干渉電波望遠鏡群(VLA)」の観測データを分析したところ、Swift J1818.0-1607から離れたところに残骸らしきものが見つかったといいます。
ただ、超新星爆発の際に中性子星が高速で弾き出されることはあるものの、Swift J1818.0-1607と超新星残骸らしき天体の距離は離れすぎているといいます。仮に爆発から約500年ではなく5000~1万年が経っているとしても、観測されている位置関係が成り立つには秒速3600~7300kmという中性子星では観測例のない高速で弾き出されなければならないといい、両者の関連性を調べるために引き続きSwift J1818.0-1607の固有運動(天球上での見かけの動き)の測定と高解像度の電波観測が必要だとしています。
また、マグネターの多くはX線でのみ観測されていますが、その一部はX線だけでなく電波でも観測が可能で、Swift J1818.0-1607も電波で観測できるマグネターのひとつとされています。Blumer氏とSafi-Harb氏は分析の結果、Swift J1818.0-1607は通常のマグネターよりも自転のエネルギーをX線に変換する効率が低く、マグネターとパルサー(自転に同期してパルス状に電磁波が観測される中性子星)の中間的な特性を示していると結論付けています。
関連:地球から月まで6分。高速で飛び去るパルサーが描き出した長さ13光年の尾
Image Credit: X-ray: NASA/CXC/Univ. of West Virginia/H. Blumer; Infrared (Spitzer and Wise): NASA/JPL-CalTech/Spitzer
Source: チャンドラX線センター
文/松村武宏
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