地球はダークマターでできた「髪の毛」に囲まれている?
sorae.jp / 2021年1月22日 7時55分
もしかすると地球は、ダークマター(暗黒物質)でできた「髪の毛」に囲まれているのかもしれません。
この画像は2015年に発表された研究論文をもとにイラスト化されたものです。地球の周辺に筋状のものが描かれており、ウニのとげのようにも見えます。研究はNASAのジェット推進研究所(JPL)のGary Prézeau氏によるもので、ダークマターが長いフィラメントのようになっていることを提唱しています。
■ダークマターとは?特集「謎に包まれた仮説上の物質『ダークマター』とは?」にあるように、ダークマターは宇宙のすべての物質・エネルギーのうち約27パーセントを占めると言われています。私たちの身の回りにあるような通常の物質はわずか5パーセントほどとされていますので、それに比べると4分の1余りというのは大きな割合と言えます。しかし、ダークマターの検出を目指してこれまで多くの実験が行われてきたにもかかわらず、直接検出されたことはありません。
今回注目するダークマターについては、宇宙に関する多くの観測結果から、科学者たちはその存在を確信しています。ダークマターによる重力を考慮しないと説明がつかない観測結果が数多くあるのです。また科学者たちは、それらの観測から宇宙にどれくらいのダークマターが存在するのかを測定してきました。現在の理論では、ダークマターはあまり動かないという意味で「冷たく」、光を出さず、また光と影響しあわない(相互作用しない)という意味で「暗い」とされています。
たとえば銀河には非常にたくさんの星が存在していますが、銀河はダークマターの密度のゆらぎによって形成されると言われています。重力が糊(のり)のようなはたらきをして、通常の物質とダークマターが一緒に固まって銀河になっていくのです。
■髪の毛のようなダークマター論文が発表された当時までに行われた研究やコンピューター・シミュレーションによると、同じ速度で動いて銀河の周りを回るダークマターがそれぞれ細長い流れのようなものを形作っていると言われています。Prézeau氏によるとこの流れの1つ1つは太陽系よりも大きくなることもあり、「例えばチョコレートとバニラアイスクリームを柔らかい状態のときに渦を巻くように少しだけ混ぜると、それぞれの色を保ったまま両者が混じった模様をみることができます。銀河が作られていくときに重力とダークマターが影響を及ぼしあい、チョコレートとバニラアイスクリームのように1つの流れの中にいるすべての粒子は同じ速度で動いていくのです」(Prézeau氏)
では、この「流れ」が地球のような惑星に近づくとどうなるのでしょうか。Prézeau氏の分析によると、ダークマターの流れが惑星を通過するとその粒子が超高密度のフィラメントを形成し、髪の毛のような形になることがわかりました。通常の物質が地球を通り抜けていくことはできませんが、ダークマターはそうした影響を受けず、素通りすることが可能です。一方で重力の影響は受け、コンピューター・シミュレーションによると細長く密度の高い髪の毛のようになります。
この「髪の毛」には、ダークマターがもっとも密集している「根」と、髪の毛の構造が終わる「先端」があります。ダークマターの流れが地球のコアを通過した場合は、ダークマターは髪の毛の「根」に集中します。ここでの粒子は平均的な密度の約10億倍で、地球から約100万キロメートルのあたりに位置します。地球と月の間の距離が約38万キロメートルですから、その2倍から3倍といったところです。一方、地球の表面をかすめるように通った流れの粒子は髪の毛の「先端」を形成し、地球から「根」までの距離の約2倍のところに位置します。
「もし私たちがその「根」の場所を特定できれば、そこに探査機を送り込んでダークマターに関する重要なデータを得られるかもしれません」とPrézeau氏は語っています。Prézeau氏のシミュレーションによると、木星のコアを通過した場合は元の流れにあるダークマターの密度よりさらに1兆倍もの高密度になることが予測されており、ダークマターの検出の大きな助けになるかもしれません。
「ダークマターは30年以上もの間、あらゆる直接検出の試みから逃れてきました。ダークマターの『根』はその密度の高さを考えると魅力的な探査場所になるでしょう」とJPLの天文学・物理学・技術部門のチーフ・サイエンティストであるCharles Lawrence氏は述べています。
■ダークマターを使った地球の内部探査これらのコンピューター・シミュレーションで得られたもう1つの発見は、ダークマターの「髪の毛」に地球内部の密度が反映されることです。地球には内部のマントルや外層である地殻といった層があり、層によって密度が異なります。それらの層が変わる(遷移する)部分に応じて、その情報がダークマターの「髪の毛」にねじれとして反映されているとされています。ねじれの情報を得ることができれば、理論的にはダークマターを使って地球などの惑星内部がどのような層になっているのかを調べることが可能です。
これらの発見を裏付けてダークマターの謎を解き明かすにはさらなる研究が必要とされていますが、もし本当に髪の毛のようになっていてダークマターを使って地球の中を調べることができるとすると、ダークマターも私たちの生活に無縁とは言い切れないかもしれません。
Image Credit: NASA/JPL-Caltech
Source: NASA
文/北越康敬
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