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ついに姿を見せたH3ロケット、打上げまで道のりとロケット外観の変化

sorae.jp / 2021年3月25日 17時6分

2021年3月18日、JAXAは種子島宇宙センターでH3ロケット極低温点検を行い、ロケットおよび地上設備の機能等の確認をしました。これはH3ロケットプロジェクトにとって大きな前進です。点検の結果と今後の計画、ロケットの見た目の変化を追っていきます。

点検時のH3ロケット(Credit: 金木利憲)

点検時のH3ロケット(Credit: 金木利憲)

初めての全機結合・総合システム点検

最初に記すべきは、この点検で始めて、H3ロケットの主要部品が全て結合されたということでしょう。主要部品とは、上部からフェアリング・コア機体(2段目・1段目の総称)・固体ロケットブースタ(SRB-3)です。

全機結合され射点にたたずむH3(Credit: 金木利憲)

全機結合され射点にたたずむH3(Credit: 金木利憲)

ただし、点検に問題ない範囲でダミー品を使用したり、取付を省略した部品もあります。
ダミー品を用いたのは、フェアリングと第1段エンジンです。取付を省略したのは火工品と呼ばれる導爆線(中に火薬が詰まった金属チューブ。段間分離やフェアリング分離に用いられる)や爆破ボルト、点火器といった火薬類です。これは万が一にも作動してしまうと非常に危険だから、という理由です。

JAXAのH3プロジェクト・プロジェクトマネージャの岡田氏は全体をふり返って「組立手順も確認しながらの作業だった」と述べていましたが、印象に残ったのはSRB-3の結合だったとのこと。SRB-3は、H-IIA・H-IIBに用いられるSRB-Aと結合方法が変わって6点結合から4点結合になりました。これによってコア機体への取付時に許される回転方向(ロール軸)の角度誤差が少なくなり、より慎重な作業が必要になったとのことです。

更に、総合システム点検として射点設備や追跡管制設備と組み合わせたチェックも行われました。
射点設備であれば運搬と据え付けが計画通りにできるか、配管や電気ケーブルが設計通りにつながり正常に流れるか、作業手順は無理がないか、設定は妥当か、などが代表的な点検項目となります。

追跡管制設備の場合は、燃料を入れた状態でロケットと追尾局との通信が正常に行えるか、位置・速度の計測システムは正常に動作するかをチェックしました。

手順の確認と調整に予定より時間がかかったことと、悪天候によって作業中断があったため、予定より5時間半ほど遅れましたが、点検は無事に終わりました。

ロケットの外観はどう変わったのか

H-IIA・H-IIBからH3になっても、VABで移動発射台の上に組み立て、射点まで運んで打ち上げる、という基本的な仕組みは変わりません。ですが、外観は変化が見られます。H-IIBとH3の写真を並べて比べつつ、違いを見ていきます。

VABを出るH-IIBとH3の比較(Credit: 金木利憲)

VABを出るH-IIBとH3の比較(Credit: 金木利憲)

最初はVABを出るところの姿。撮影場所が違うので足下の隠れ方や屋根の角度が異なりますが、ロケット上端と扉上端の位置に注目すると、H-IIBからH3になってもほとんど変化がないことが分かります。

しかし、機体長はH3の方が6.4m長くなっていますから、単純計算ではフェアリングがつかえて出せなくなってしまいます。

射点のH-IIBとH3の比較(Credit: 金木利憲)

射点のH-IIBとH3の比較(Credit: 金木利憲)

射点の横から見てみるとその工夫が分かります。H-IIBではエンジンスカートが発射台の上に見えていますが、H3では見えません。つまり、長くなったぶん発射台の中にめり込ませることによって、全高を抑えているのです。隣の鉄塔は高さが変わりませんから、見比べるとほとんど変化がないことが分かります。

1段目の直径は両者とも変わりませんが、2段目はH3で太くなっており、段差がなくなりました。

横に取り付けられている固体ロケットブースタはH-IIB・H3とも同サイズなのですが、発射台で隠されることで見た目は短く見えています。

H-IIBとH3を正面上から撮影した画像。発射台下部の穴の大きさと機体のめり込みの違いが分かる。(Credit: JAXA、機種名の文字は金木が追加)

H-IIBとH3を正面上から撮影した画像。発射台下部の穴の大きさと機体のめり込みの違いが分かる。(Credit: JAXA、機種名の文字は金木が追加)

機体移動中の映像を見てみましょう。足下の穴の大きさと機体の関係がいっそうよくわかります。正面から見ると国籍表示の「NIPPON」・「JAPAN」の違いが読み取れます。

移動発射台の形の違いもわかります。H-IIB用は柱の部分がH型をしていますが、H3用は横棒がなくなりました。形状もより単純になっています。

岡田プロジェクトマネージャーは、極低温点検で最も緊張した瞬間は「VAB(注:機体組立棟)から出る瞬間でした。設計上扉をくぐれることはわかっているのですが、本当に大丈夫かなと思って見ていました」と言います。この言葉の裏側には、全高を抑える工夫があったのです。

なお、実機を載せての機体移動は今回が初めてですが、これまでに空荷の発射台の運搬や、ダミーウェイトで重量を本番に合わせての運搬の試験を行ってきており、その点の心配はほとんどなかったとのことでした。

今後の予定

極低温点検によって、コア機体は正常に燃料の注入と排出ができること、地上設備とロケットが正常に結合し、動作することがわかりました。打ち上げに向けての大きな前進ですが、まだ課題は残っています。

最大の懸念は、1段目エンジンのLE-9が未だ完成していないことです。燃焼室の損傷に液体水素ターボポンプのタービン破損と、ともにエンジン心臓部のトラブルによってH3ロケット初飛行自体が1年延期となりました。点検後の会見ではこの点にも触れられ、原因はほぼ特定し再設計を行って試験を続けていくとのことです。

実際に3月12日よりJAXA角田宇宙センターでターボポンプ単体試験(その7)が始まり、3月22日より種子島宇宙センターのテストスタンドで燃焼試験が始まりました。

LE-9の完成を待つ間に、種子島では電磁適合性(EMC)試験、全機振動試験、全機姿勢制御システム試験、アンビリカル離脱試験といった、打ち上げに必須の条件を満たしているかの試験が次々に行われます。これらは概ね2021年度の前半に予定されています。

そして、エンジンが完成するといよいよ実機型タンクステージ燃焼試験(CFT)を迎えます。これは実際に機体に装着した状態で1段目エンジンに着火しデータを取得するものです。これを正常にクリアすれば、晴れてH3は完成となります。

CFTのイメージ。画像はH-IIBのもの。H3ではフェアリングが付くので「首なし」にはならない予定。(Credit: JAXA)

CFTのイメージ。画像はH-IIBのもの。H3ではフェアリングが付くので「首なし」にはならない予定。(Credit: JAXA)

道のりはまだ長く、時間は限られています。2021年度中に果たして打上げ本番を迎えることができるのか、まずはLE-9エンジンの動向に注目していきたいと思います。

 

Image Credit: JAXA、金木利憲
文/金木利憲

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