天の川銀河の「家系図」をAIが解読。謎の銀河クラーケンとの衝突も
sorae.jp / 2021年4月13日 22時54分
銀河が小さな銀河の合体によって成長することは以前から知られていましたが、天の川銀河の祖先については長年の謎でした。
ハイデルベルク大学天文学センターのDiederik Kruijssen博士とリバプール・ジョン・ムーア大学のJoel Pfeffer博士が率いる国際研究チームは、天の川銀河に含まれている球状星団の特性をAIで分析することにより、天の川銀河の「家系図」(family tree)を再構築することに成功しました。この研究成果は『王立天文学会月報』(Monthly Notices of the Royal Astronomical Society:第498巻、第2号、2020年10月)に掲載されました。
100万個もの星が密集している球状星団は、宇宙の歴史と同じくらい古いとされています。天の川銀河には150以上の球状星団が存在し、その多くは小さな銀河が合体して現在の銀河になったときに形成されたものです。つまり球状星団は、銀河の形成過程を復元するための「化石」として利用できるのではないかと、天文学者たちは以前から考えていました。
その考えに基づき、研究チームは、天の川銀河に似た銀河の形成について、「E-MOSAICS」と呼ばれる高度なコンピュータシミュレーションを行いました。このシミュレーションにより、球状星団の年齢、化学組成、軌道上の動きを、球状星団が形成された100億年以上前の祖先銀河の性質と関連付けることができました。
これらの知見を天の川銀河にある球状星団のグループに適用することで、球状星団がいつ天の川銀河に合体したのかを知ることができます。E-MOSAICSのシミュレーションをAIに学習させ、球状星団の特性をホスト銀河の合体履歴と関連付けることに成功しました。
さらに、これまで知られていなかった天の川銀河と「クラーケン(Kraken)」と名付けられた謎の銀河との衝突も明らかにしたのです。「クラーケンとの衝突は、天の川銀河がこれまでに経験した中で最も重要な合体だったにちがいありません」とKruijssen博士は述べています。「以前は、約90億年前に起きたガイア・エンケラドス・ソーセージ銀河(Gaia-Enceladus-Sausage galaxy)との衝突が最大の衝突現象であると考えられていました。しかし、クラーケンとの合体は、天の川銀河の質量が現在の4分の1しかなかった110億年前に起きています。そのため、クラーケンとの衝突は、当時の天の川銀河の姿を一変させたにちがいありません」
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冒頭の画像は、E-MOSAICSシミュレーションによって作成された天の川銀河の「家系図」です。黒い線は、識別された5つの祖先銀河との合体を、灰色の点線は、特定の前駆体にリンクできなかった他の合体を示しています。
図の上部にある6つの画像は、特定された祖先銀河を表わしています:左から右に「射手座」(Sagittarius)、「セコイア」(Sequoia)、「クラーケン」(Kraken)、天の川銀河の「メインの先祖」、「ヘルミ・ストリーム」(Helmi streams)、「ガイア・エンケラドス」(Gaia-Enceladus)と名付けられています。ちなみにクラーケンはタコやイカのような姿をした巨大な海の怪物のことです。
天の川銀河は、その歴史の中で、1億個以上の星を持つ銀河を約5個と、1,000万個以上の星を持つ銀河を約15個とを飲み込んできました。最も巨大な原始銀河が天の川銀河に衝突したのは、60億年前から110億年前の間のことです。「現在、5つ以上の祖先銀河の残骸が確認されています。現在の望遠鏡や今後の望遠鏡を使えば、すべての祖先銀河を見つけることができるでしょう」とKruijssen博士は結論づけています。
こちらの動画は、天の川銀河のような銀河の形成を示す、E-MOSAICSによるシミュレーションの一つです。
灰色の陰影は、ガスが断片化して星を形成し、中央の銀河へと落下していく様子を示しています。球状星団は色付きの点で示され、青色の星団はヘリウムより質量の大きい元素が少なく、赤色の星団はそのような元素が多いことを示しています。時間が経つにつれて、中心となる銀河が小さな衛星銀河と合体し、多くの球状星団が形成されていく様子がわかります。。
この研究成果からもわかるように、AIは今後の天文学研究に欠かせないツールとなることでしょう。
Image Credit: D. Kruijssen / Heidelberg University
Video Credit: J. Pfeffer / D. Kruijssen / R. Crain / N. Bastian
Source: 王立天文学会(The Royal Astronomical Society)
文/吉田哲郎
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