ブラックホールが撮影された楕円銀河「M87」地上と宇宙から同時観測した成果が発表される
sorae.jp / 2021年4月15日 20時51分
2019年4月、国際協力プロジェクト「イベント・ホライズン・テレスコープ(EHT:Event Horizon Telescope)」は、おとめ座の方向およそ5500万光年先にある楕円銀河「M87」の中心に位置する超大質量ブラックホールのシャドウ(影)を撮影することに成功したと発表しました。
太陽の65億倍もの質量があるとされるM87中心部の超大質量ブラックホール。その周囲をリング状に取り囲むように観測された電波放射領域を示したこちらの画像、ご覧になったことがある人も多いのではないでしょうか。
■地上から宇宙まで、世界中で同時観測されていたM87のブラックホール地球上の8基の電波望遠鏡をつないだEHTは、2017年4月にM87の超大質量ブラックホールを観測しました。実はこのときM87はEHTだけでなく、世界各地の望遠鏡や地球を周回する宇宙望遠鏡によって、電波、可視光線、ガンマ線といった電磁波の様々な波長を使って同時に観測されていました。
今回、4年前に実施されたこの多波長同時観測の結果をまとめた論文が、EHTの国際多波長サイエンス作業班によって発表されました。それによると、数多くの観測データを組み合わせて分析した結果、観測当時の超大質量ブラックホールの活動は「おとなしい状態」だったことが明らかになったといいます。
また、M87の中心部から届く電波やガンマ線は、どちらもブラックホール付近の同じ場所から放射されていると考えられてきたといいます。しかし、少なくとも今回の同時観測ではガンマ線がブラックホール周辺の電波放射領域(EHTが観測したリング状の領域)とは異なる場所から放射されていた可能性があり、ジェットが複雑な構造を持っていることが示唆されるといいます。
EHTはブラックホール周辺のリング状構造を捉えたものの、ジェットをはっきりと写し出すことはできず、ジェットがどのような仕組みで噴出しているのかは今も明らかにはなっていません。発表では今回の研究成果について、ブラックホールから噴出するジェットの構造や成因を解き明かす第一歩であり、さらなる観測を通してブラックホールにまつわる謎を解き明かすことに研究者は期待を寄せているとしています。
■アルマ望遠鏡やハッブル宇宙望遠鏡など19台の望遠鏡が参加今回の多波長同時観測にはEHTをはじめ19台の望遠鏡(複数のアンテナで構成されている望遠鏡や観測網も1台としてカウント)が参加していて、発表によると、ジェットを持つブラックホールに対するものとしては天文学史上最大の観測キャンペーンだったとされています。
幅広い電磁波の波長を使ってなるべく同時に観測すると、その天体が持つ性質を多角的に分析できるようになります。今回の観測では、噴出するジェットが根元付近(ブラックホールから0.3光年)から5000光年ほどまで広がっている様子が様々な波長で捉えられています。
各望遠鏡の観測データをまとめたこちらの画像のうち、オレンジ色に着色されている画像(左側の縦列)は、電波の波長で観測されたジェットやブラックホールの周辺です。画像は上から下へと順に拡大するように並べられていて、一番下にはEHTが観測したブラックホール周辺のリング状構造が見えています。
一番上は「アルマ望遠鏡」による観測結果で、「ハッブル」宇宙望遠鏡(中央縦列の一番下)やX線観測衛星「チャンドラ」(右側縦列の一番上)のように大きなスケールでジェットを捉えていることがわかります。その2つ下は国立天文台の水沢VLBI観測所が中韓と共同運用している「東アジアVLBIネットワーク(EAVN)」による観測結果で、アルマ望遠鏡が捉えたジェットの根元が拡大されています。EAVNの観測により、ジェットの噴出方向がこれまで知られていた方向から大きく変化していることなど、ジェットの根元付近の詳しい様子が明らかになったとされています。
EHTの国際多波長サイエンス作業班に参加した水沢VLBI観測所の秦和弘氏は、今回の成果は総勢760名以上に及ぶ世界中の研究者によって成し遂げられたものであり、今後もEHTと同期した合同観測を続けることで、超大質量ブラックホールの活動性やジェットの謎を解明したいとコメントしています。
関連:ブラックホール周辺の偏光画像が公開される ジェット解明の鍵に
Image Credit: EHT Collaboration
Source: EHT Japan
文/松村武宏
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