北海道大樹町の宇宙港「北海道スペースポート」2021年度から本格稼働へ
sorae.jp / 2021年4月22日 20時29分
世界各地の民間宇宙企業によって開発されたロケットが、北海道の大地から打ち上げられる。そんな未来が、ほんの数年先に迫っているのかもしれません。北海道大樹町は4月21日、民間宇宙ベンチャー向け宇宙港「北海道スペースポート」、略称「HOSPO」の本格稼働開始にあわせて記者会見を行いました。
■小型衛星打ち上げ需要の増加を見越した打ち上げ施設の整備を予定モルガン・スタンレーの試算によると、世界における重量500kg以下の小型人工衛星の打ち上げ需要は、2019年の350機から2030年頃には年間1000機程度まで増加すると予測されています。発表によると、既存のロケットや打ち上げ施設で賄えるのは年間700機程度であり、年間1000機の需要に応えるには世界的にロケットや打ち上げ施設が不足しているといいます。
HOSPOはこのような小型衛星の打ち上げ需要を満たすべく整備が始まるもので、施設の整備は大樹町が行い、実際の運営・管理は大樹町および道内企業6社の共同出資によって設立された「SPACE COTAN(スペースコタン)株式会社」に委託。ロケットの打ち上げや人工衛星の開発を行う企業・研究機関等に対する施設の貸し出しやサービスの提供は、SPACE COTANが担うことになります。
現在大樹町では海岸に面した「大樹町多目的航空公園」において、同町の宇宙ベンチャー「インターステラテクノロジズ(IST)」が観測ロケット「MOMO」の打ち上げを行っています。また、公園内には全長1000mの滑走路を有する宇宙航空研究開発機構(JAXA)の「大樹航空宇宙実験場」があり、大気球実験などが行われています。2021年度から本格稼働が始まるHOSPOは大樹町多目的航空公園を拡充する形で整備が進められる予定で、2つのロケット打ち上げ施設建設と滑走路の延長・新設が予定されています。
1つ目の打ち上げ施設「LC(Launch Complex)-1」は、ISTが開発中の衛星打ち上げ用ロケット「ZERO」の打ち上げに使われるもので、現在MOMOが打ち上げられている施設「LC-0」の南側に隣接する形で整備されます。2つ目の打ち上げ施設「LC-2」は、複数の企業がロケットの組み立てと打ち上げ準備を同時に進めることができる、LC-1よりも大規模な施設とされています。LC-1は2023年度に、LC-2は2025年度に稼働開始の予定とされています。
また、JAXAの実験機や国内ベンチャー「SPACE WALKER」の実験機による利用を見据えて、LC-1の整備と並行してJAXA大樹航空宇宙実験場の滑走路を全長1000mから1300mに延長。その後は隣接する土地に全長3000mの滑走路が新設される予定で、ロケットの空中発射母機や宇宙旅行用スペースプレーンの運用などにも対応するとされています。
■良宇宙港を支える5つの強みSPACE COTAN代表取締役社長兼CEOの小田切義憲氏は、会見にてHOSPOが持つ強みを紹介しました。
1つは太平洋に面した立地であり、東から南にかけて開けているところ。人工衛星には気象衛星や通信衛星のように赤道に沿った静止軌道を利用するものもあれば、地球観測衛星のように北極や南極の上空を通過する極軌道を利用するものもあります。ロケットは人工衛星が投入される軌道に合わせて、静止衛星なら地球の自転を利用しやすい東向き、観測衛星なら北もしくは南向きに打ち上げられることが多いのですが、HOSPOはそのどちらにも対応可能であり、任意の軌道へ効率的に人工衛星を投入できるとされています。
HOSPOが主要な海上航路や航空路から離れていることや、建設される大樹町周辺の晴天率が高いことも、それぞれ強みとしてあげられています。東から南に開けた太平洋沿岸の立地は国内にも幾つかありますが、航空路や海路との干渉が少なければ打ち上げのタイミングを調整しやすく、晴れる日が多ければ天候に左右されにくいメリットがあります。それでいて、帯広や札幌への移動に片道1~2時間ほどで済むアクセスの良さも強みとされています。
また、HOSPOが世界中の民間企業にひらかれ、打ち上げ施設を持たない地域の打ち上げニーズを獲得できる点もあげられています。「東~南に開けた立地」「主要航路との干渉の少なさ」「高い晴天率」「アクセスの良さ」「世界の民間企業にひらかれた宇宙港」、これら5つの強みを持つHOSPOを小田切氏は「天然の良港」と表現しています。
■HOSPO整備による経済波及効果は年間267億円と試算大樹町は北海道に多くの航空宇宙産業が集積した「宇宙版シリコンバレー」の創出を目指す地域再生計画「大樹発!航空宇宙関連産業集積による地域創生推進計画」を立てており、SPACE COTANの設立とHOSPOの本格稼働はその実現に向けた一歩となります。
SPACE COTANの「コタン」はアイヌ語で「集落」を指す言葉で、宇宙産業の「集落」(クラスター、産業集積地)拡大を目指すという意味が込められているといいます。国内外のベンチャーによるロケットの打ち上げを誘致し、ロケットや人工衛星の製造に直接関わる分野だけでなく観光や教育も含めた関連事業を集積させ、経済的な波及効果をもたらすのが長期的な狙いです。
HOSPOの整備には合計50億円の資金が必要とされていますが(2023年度稼働予定のLC-1等に10億円、2025年稼働予定のLC-2に40億円)、整備後に北海道へもたらされる経済波及効果は年間267億円とされています(算出は北海道経済連合会・日本政策投資銀行)。
上記の地域再生計画が内閣府に認定されたのは2020年3月ですが、大樹町と宇宙とのつながりは1984年に当時の北海道東北開発公庫(現・日本政策投資銀行)が発表した「北海道大規模航空宇宙産業基地構想」にまで遡ります。立地条件の良さをアピールした大樹町の誘致運動は徐々に実を結び、1990年代には文部省(当時)の宇宙科学研究所(ISAS)による航空宇宙関連の実験が行われており、2008年からはJAXAの大気球実験も始まりました。
また、大樹町では民間企業による打ち上げ実験も行われるようになり、2002年3月には北海道大学と植松電機がハイブリッドロケット「CAMUI」1号機の打ち上げを、2011年3月にはISTの前身「なつのロケット団」が小型ロケット「はるいちばん」の打ち上げを実施。2019年5月にはISTの「宇宙品質にシフト MOMO3号機」が高度約113kmの宇宙空間へ到達するに至っています。
文/松村武宏
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