危険な小惑星を察知するために。新技術を実証するESAの望遠鏡が完成
sorae.jp / 2021年5月2日 10時57分
欧州宇宙機関(ESA)とヨーロッパ南天天文台(ESO)は、チリのラ・シヤ天文台に建設されたESAの「テストベッド望遠鏡(TBT:Test-Bed Telescope)」の2号機が最初の観測(ファーストライト)を行ったことを発表しました。
「テストベッド」とは、新しい技術の実証試験を行うための環境や、そのためのプラットフォーム(架台)などを指す言葉です。今回初観測を行ったテストベッド望遠鏡2号機は、地球に接近する小惑星を効率的に検出する技術を実証するための「テストベッド」としての役割が期待されており、ESAのセブレロス地上局(スペイン)にある1号機に次いで建設されました。
ESAによると、太陽系では90万個以上の小惑星が知られており、そのうちの約2万5000個は地球に接近する軌道を描く「地球接近天体(NEO:Near Earth Object)」に分類されています。大きな小惑星は見つけやすく追跡もしやすいのですが、小さいものほど発見するのが難しくなり、地球の大気圏に突入するまで気づかれないこともあります。
2013年2月にロシアのチェリャビンスク州上空で爆発した天体のサイズは10m前後と推定されていますが、発生したエアバースト(強力な爆風)によって、およそ1600名の負傷者や建物の被害がもたらされました。小惑星の衝突は深刻な被害をもたらす災害のひとつであり、小惑星を発見・追跡して衝突の可能性を予測したり、将来軌道を変えて被害を防いだりするための「プラネタリーディフェンス(惑星防衛)」と呼ばれる取り組みが、世界各地で進められています。
ESAではその一環として、自律的に観測を行える「フライアイ望遠鏡(Flyeye telescope)」という新しい望遠鏡を開発しています。フライアイ望遠鏡は小さな目が無数に集まった昆虫の複眼に着想を得たという口径1m相当の望遠鏡で、16台のカメラを使って満月の見かけの直径の約13倍(6.7度×6.7度、約45平方度)という広い範囲の夜空を一度に観測できるといいます。ESAは複数のフライアイ望遠鏡を建設して地球接近天体を監視する計画を進めており、最初の1台は2022年にシチリア島で完成する予定です。
口径56cmのテストベッド望遠鏡そのものは従来の望遠鏡と同じ標準的な構造をしていますが、フライアイ望遠鏡のために開発されたソフトウェアやハードウェアが期待通り機能するかどうかを試すという重要な役割を担っています。プラネタリーディフェンスにおける最新の成果の一つであるテストベッド望遠鏡2号機は、2021年後半から本格的に稼働する予定です。
Image Credit: ESO, ESA
Source: ESO / ESA
文/松村武宏
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