重いブラックホールと軽いブラックホール、ガスの「食べ方」はどちらも同じ?
sorae.jp / 2021年5月19日 21時23分
【▲ 超大質量ブラックホール(奥)に接近して一部が引き裂かれる恒星(手前)を描いた想像図(Credit: NASA’s Goddard Space Flight Center)】
ヨーロッパ南天天文台(ESO)/ケンブリッジ大学のThomas Wevers氏らの研究グループは、ブラックホールの質量が大きくても小さくても、ガスの「食べ方」はよく似ているとする研究成果を発表しました。ブラックホールはその質量によって分類されていますが、ガスが落下していく際に生じるブラックホール周辺の変化は、どの質量のブラックホールでも同じように進行する可能性があるようです。
■ガスが降着するプロセスの推移は超大質量ブラックホールでも同じように観測されたブラックホールは「恒星質量ブラックホール」(質量は太陽の数十倍程度まで、別の恒星と連星を組んでいる場合がある)や「超大質量ブラックホール」(質量は太陽の数十万~数十億倍以上、さまざまな銀河の中心に存在すると考えられている)といったように、質量の大小によって分類されています。ブラックホールそのものは光(電磁波)で観測できない天体ですが、周辺のガスから放射された電磁波を捉えることで、その性質や活動の様子を間接的に観測することが可能です。
研究グループによると、休止状態にあった恒星質量ブラックホールに伴星から流れ出たガスが落下し始めると、ブラックホールはまず降着円盤(ブラックホールを周回しながら落下していくガスが形成する薄い円盤)からの電磁波が支配的な「ソフト状態」に移行します。やがてブラックホールに流れ込むガスが減ると、今度は白熱したブラックホールコロナ(ブラックホール周辺に希薄に広がる高温のプラズマ)からの電磁波が支配的な「ハード状態」に移り、最終的には再び休止状態に落ち着きます。このプロセスは数週間から数か月間続くといいます。
ガスが降着する際のこのようなプロセスは、過去数十年に渡り複数の恒星質量ブラックホールで観測されてきました。いっぽう、超大質量ブラックホールでは1回のプロセスに要する時間が長すぎるため、その全貌は捉えられないと考えられてきたといいます。研究に参加したマサチューセッツ工科大学(MIT)のDheeraj Pasham氏は「超大質量ブラックホールにおけるこのプロセスは、通常なら数千年のタイムスケールで進行します」と語ります。
ところが、ブラックホールがもたらす潮汐力によって天体が破壊される「潮汐破壊」と呼ばれる現象では、このプロセスがスピードアップするといいます。研究グループは2018年9月に超新星全天自動サーベイ「ASAS-SN」によって検出された潮汐破壊現象「AT2018fyk」を多波長(X線、紫外線、可視光線、電波)で2年間に渡り追跡観測し、プロセスがどのように進行するのかを分析しました。
約8億6000万光年先の銀河で起きたAT2018fykでは、太陽と同程度の質量を持つ恒星が、太陽の約5000万倍の質量を持つ超大質量ブラックホールによって破壊されたとみられています。破壊された恒星に由来するガスによって形成された降着円盤の幅は、約120億キロメートル(地球から太陽までの距離の約80倍)と推定されています。
Pasham氏によると、プロセスは降着円盤の形成にともなうソフト状態(紫外線が大半でX線はとても少ない)から始まり、円盤が崩壊してブラックホールコロナが支配的なハード状態(高エネルギーのX線で明るい)を経た後に、全体的な光度が下がって検出できないレベルに戻ったといいます。つまり、恒星質量ブラックホールと比べて数百万倍も重い超大質量ブラックホールでも、恒星質量ブラックホールと同じように「ソフト状態→ハード状態→休止状態」と移り変わる可能性が示されたことになります。Pasham氏は「ある意味では、1つのブラックホールを見ればすべてを見たことになる、私たちはそれを実証しました」とコメントしています。
研究を率いたWevers氏は今後の展望について、降着円盤やブラックホールコロナといった超大質量ブラックホールのすぐ近くにある構造がどのように形成されるのかを潮汐破壊現象を通して研究することで、うまくいけばこれらを支配する基本的な物理法則をより良く理解できると語っています。
関連:ブラックホールが恒星を破壊する「潮汐破壊」にともなう高エネルギーニュートリノを初検出か
Image Credit: NASA’s Goddard Space Flight Center
Source: MIT
文/松村武宏
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