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国際宇宙ステーションのロボットアームにデブリの衝突痕が見つかる

sorae.jp / 2021年6月8日 20時30分

国際宇宙ステーションのロボットアーム「カナダアーム2」(Credit: NASA)

【▲ 国際宇宙ステーションのロボットアーム「カナダアーム2」(Credit: NASA)】

カナダ宇宙庁(CSA)は5月28日、国際宇宙ステーション(ISS)のロボットアーム「カナダアーム2(Canadarm2)」にスペースデブリ(宇宙ゴミ)の衝突痕が見つかったことを明らかにしました。

■穴の直径は約5mm、ロボットアームの機能には影響なし カナダアーム2で見つかったデブリの衝突痕(右)とその位置を黄色い丸で示した図(左)(Credit: CSA)

【▲ カナダアーム2で見つかったデブリの衝突痕(右)とその位置を黄色い丸で示した図(左)(Credit: CSA)】

CSAから公開された写真を見ると、ロボットアームの表面を覆う断熱材の「肘」に近い部分に穴が開いていることがわかります。CSAによると、この穴は5月12日に実施された定期点検の際に発見されたもので、直径は5mmほど。発表の時点ではデブリ衝突の影響について分析中とされていますが、損傷はロボットアームのごく一部分に限られていて機能そのものには影響がないとのことで、引き続き予定通りの作業が行われています。

カナダアーム2は全長17m、重量1641kgで、7つの関節を持つロボットアームです。2001年4月にスペースシャトル「エンデバー」によってISSに運ばれて以来20年に渡り、新しいモジュールの組み立て、宇宙ステーション補給機(HTV)「こうのとり」をはじめとした無人補給船のキャプチャ、宇宙飛行士の船外作業の支援などに用いられています。

ISSでスペースデブリの衝突痕が見つかったのは今回が初めてではありません。2016年には六角形に配置された窓が印象的なモジュール「キューポラ」の窓の表面に直径7mmほどの欠けが生じているのを、英国のティム・ピーク宇宙飛行士が撮影しています。衝突して窓を欠けさせたのは、直径数マイクロメートル(1マイクロメートル=1000分の1mm)以下の金属片もしくは塗料片とみられています。

「キューポラ」の窓にできた直径7mmほどの欠け(Credit: ESA/NASA)

【▲「キューポラ」の窓にできた直径7mmほどの欠け(Credit: ESA/NASA)】

宇宙航空研究開発機構(JAXA)によると、ISSでは3種類のサイズ別にスペースデブリ対策が講じられています。まず、レーダーなどによる追跡が可能な10cm以上のサイズがあるデブリについては、ISSの軌道を変更するデブリ回避マヌーバを必要に応じて実施することでデブリとの衝突を避けることができます。また、サイズが1cm以下のデブリについては、与圧モジュールの外壁を覆う交換可能なアルミニウム製のバンパー(Whipple shieldまたはWhipple bumper)が貫通を防ぐ構造になっています。ちなみにキューポラをはじめISSの窓は一部を除いて普段はシャッターが閉じられているため、窓の欠けはたまたまシャッターを開けていた時に生じたことになります。

いっぽう、サイズが1~10cmのデブリは追跡が難しく、与圧モジュールに衝突すると外壁を貫通して穴が開く可能性があります。ただ、ISS船内の空気が抜けるにはある程度の時間がかかるため、宇宙飛行士は穴が開いたモジュールから退避しつつ該当のモジュールを閉鎖し、船外活動で修理することが想定されています。

たとえば日本実験棟「きぼう」の場合、外壁に約10cmの穴が生じた際に気圧が1気圧から0.7気圧(地球の高度約3000mの気圧に相当)まで低下するのに要する時間は、約3分20秒と推定されています。この程度の気圧変化が短時間に起きたとしても身体にはあまり影響がないとされており、もしも「きぼう」にデブリが衝突して穴が開いた場合、この時間内に退出して「きぼう」につながるハッチを閉じることで、宇宙飛行士の身体への影響を回避できるといいます。

国際宇宙ステーションの日本実験棟「きぼう」(Credit: JAXA/NASA)

【▲ 国際宇宙ステーションの日本実験棟「きぼう」(Credit: JAXA/NASA)】

■増加する人工衛星と望まれるスペースデブリ対策

近年、ISSが周回する地球低軌道では特に重量1トン以下の小型人工衛星の数が飛躍的に増え続けていて、スペースデブリの増加も懸念されています。

2021年の宇宙環境報告書を発行した欧州宇宙機関(ESA)によると、現在地球の周辺では2万6000個以上の人工物が追跡されているものの、稼働している人工衛星や宇宙船などの数は約2800であり、人工物の大半はスペースデブリとされています。サイズが小さすぎてレーダーなどでは追跡できないものも考慮すると、1cm以上の人工物は90万個以上、1mm以上まで範囲を広げると実に1億2800万個以上が存在すると推定されています。

ESAが特に懸念しているのは、商用衛星が急速に増加している地球低軌道です。静止軌道を利用する人工衛星や打ち上げに使われたロケットの破棄についてはESAも対策を評価しているものの、「Starlink」や「OneWeb」などの大規模な衛星コンステレーションの構築が進められている地球低軌道については小型の人工衛星と遭遇する機会が増えていることに加えて、不要になった衛星を処分するための持続的な対策も十分ではないとESAは指摘しています。

ESAによると、2007年に中国が実施した気象衛星「風雲1号C」の破壊実験や、2009年に発生したアメリカの「イリジウム33」およびロシアの「コスモス2251」の衝突事故、それにさまざまなロケットに関連した破片が、これら数多くのスペースデブリを生み出すきっかけになったといいます。意図的な破壊実験は実施さえしなければデブリの発生を防げるものの、人工衛星がデブリや別の人工衛星と衝突するのを防ぐためには事前に軌道を変えるデブリ回避運用が必要です。衛星の数が増えればそれだけデブリ回避運用の実施回数も増えることになるため、ESAではAIも活用した自動化システムの構築に取り組んでいます。

Deployment of 60 Starlink satellites confirmed pic.twitter.com/qBtLpzV9ya

— SpaceX (@SpaceX) May 26, 2021

▲打ち上げられたスターリンク衛星60基の分離を伝えるスペースXのツイート▲

近年では国連宇宙空間平和利用委員会(COPUOS)の「スペースデブリ低減ガイドライン(2007年)」や「宇宙活動の長期持続可能性ガイドライン(2019年)」といったデブリの抑制に向けた国際的なガイドラインが採択されていて、デブリ化防止やデブリ除去の取り組みが各国で進められています。

たとえば国内では、2021年3月にアストロスケールの技術実証衛星「ELSA-d」が打ち上げられました。ELSA-dは不要になった衛星を捕獲・除去するために必要な技術の実証を目的とした2機1組の人工衛星で、さまざまな条件のもとで捕獲衛星がデブリ模擬衛星を捜索・ドッキングする実証実験が予定されています。アストロスケールでは複数の人工衛星除去が可能な「ELSA-M」の開発も目指しています。

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【▲ 技術実証衛星「ELSA-d」のミッションを紹介するデモビデオ(Credit: アストロスケール)】

また、スカパーJSATがレーザーアブレーション(レーザーを当てたごく一部分を加熱・蒸発させる技術)を利用したデブリ除去事業の2026年サービス開始を予定している他に、海外ではスイスのクリアスペースが2025年にデブリ除去ミッションの実施を予定。アメリカのLeoLabsはアメリカ国内(アラスカ、テキサス)とコスタリカおよびニュージーランドに設置したレーダーを使って、軌道上に存在する2cm以上のサイズの人工物を追跡する事業を展開しています。

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ESAによると、この20年間で意図せずにスペースデブリが生み出される出来事は平均して毎年12.5件、言い換えれば毎月1件ほどのペースで発生しているといいます。「私たちの未来は壊滅的になり得る(Our future could be smashing)」とするESAの懸念が現実となるのを防ぎ、将来に渡り地球周辺環境を活用し続けていくためにも、不要になった人工衛星・ロケットのデブリ化防止と、デブリの追跡・回避・処分に向けたさらなる対策が望まれます。

 

Image Credit: NASA
Source: CSA / JAXA / ESA
文/松村武宏

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