宇宙に浮かぶ「巨大な手」 X線で観測された“コンパス座”の超新星残骸
sorae.jp / 2021年6月30日 22時47分
こちらは南天の「コンパス座」の方向およそ1万7000光年先にあるパルサー「PSR B1509-58」周辺をX線の波長で捉えた画像です。X線は人の目には見えないので、高いエネルギーのX線は青色、中程度のエネルギーのX線は緑色、低いエネルギーのX線は赤色に疑似的に着色されています。青色と緑色の部分が、まるで人の手のような形をしているのがわかりますでしょうか。
パルサーとは、超新星爆発で誕生すると考えられている中性子星の一種で、高速の自転にともなって点滅するように周期的な電磁波が観測されます。スミソニアン天体物理研究所のチャンドラX線センターによると、PSR B1509-58は毎秒約7回自転していて、磁場の強さは地球の約15兆倍に達するといいます。なお、PSR B1509-58を生み出した超新星爆発は、地球では今から約1700年前に観測できた可能性があるようです。
PSR B1509-58は「MSH 15-52」と呼ばれる超新星残骸のなかで発見されました。超新星残骸とは、超新星爆発にともなう衝撃波や誕生した中性子星によってガスが高温に熱せられることで電磁波を放つ天体です。画像で手の形に見える部分はパルサーPSR B1509-58が形作った構造(パルサー星雲、パルサー風星雲)で、有名な超新星残骸「かに星雲」の内部に存在する同様の構造と比べて15倍大きな150光年に渡り広がっているといいます。
また、手の指先あたりに見える赤色やオレンジ色の部分は、超新星残骸のすぐ隣にあるガス雲「RCW 89」から放射されたX線を示しています。アメリカ航空宇宙局(NASA)のX線観測衛星「チャンドラ」を用いた14年に渡る観測の結果、爆発によって星の内部から吹き飛ばされた後にRCW 89へ到達したとみられるマグネシウムやネオンの塊の移動速度が割り出されました。
その速度は時速約900万マイル(約1440万km)。これは地球から月まで(約38万km)なら約1分半、地球から太陽まで(約1億5000万km)なら約10時間半という速さです。爆発にともなう破片の幾つかはさらに速く、時速1100万マイル(1760km)以上で動いているといいます。
ただ、爆発の中心からRCW 89までの距離をもとに割り出された平均速度は、これらの値よりも3倍ほど速い時速約3000万マイル(約4800万km)と見積もられており、RCW 89に衝突したことで破片が大きく減速したものと考えられています。
関連:NASAの観測衛星「チャンドラ」が天王星から放射されたX線を初めて検出
Image Credit: NASA/SAO/NCSU/Borkowski et al.
Source: チャンドラX線センター(1) / 同(2)
文/松村武宏
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