「キラリティ」を利用したヘリコプター搭載の生命探査装置 環境保全にも貢献
sorae.jp / 2021年7月7日 12時27分
右手と左手は鏡像の関係にありますが、右手(左手)の手袋を左手(右手)にはめることはできません。つまり、右手(左手)の掌を左手(右手)の甲に重ね合わせることはできないからです。
このような性質は「キラリティ」(chirality)と呼ばれ、その性質があることを「キラル」(chiral)であると言います。手がキラルであるように、分子もキラルである可能性があります。
実際、生物の細胞内にあるDNAなどのほとんどの分子はキラルです。しかし、手が左右一対であるのに対して、生命体の分子のほとんどは「右手型」か「左手型」のどちらかしか存在しません。
このように、どちらかのキラル分子に偏っていることを「ホモキラリティ」(homochirality)と言います。なぜ生体分子がホモキラルなのかはまだよくわかっていません。
しかし、この生体分子のホモキラリティは、生命の特徴的な性質であり、いわゆる「バイオシグネチャー」(biosignature)と呼ばれています。つまりホモキラリティが検出できれば、生命が存在する指標となる可能性があります。
MERMOZ(Monitoring planEtary suRfaces with Modern pOlarimetric characteriZation:最新の偏光測定特性を用いた惑星表面モニタリング)プロジェクトの一環として、スイスのベルン大学などが率いる国際研究チームは、2kmの距離から時速70kmでこのシグネチャーを検出することに成功しました(2021年5月18日付け「Astronomy & Astrophysics」誌)。
「光が生体物質で反射されると、光の電磁波の一部が時計回りまたは反時計回りのらせん状に伝わります。この現象は“円偏光”と呼ばれ、生体分子のホモキラリティによって引き起こされます。同様の光のスパイラルは、生物以外に自然界では生じません」とベルン大学のMERMOZポスドク研究員で本研究論文の筆頭著者でもあるLucas Patty氏は語っています。
しかし、この円偏光の測定は難しく、信号は非常に微弱で、通常、反射される光の1%未満しか占めていません。そのため、研究チームは「分光偏光計」という専用の装置を開発しました。この装置は、円偏光を他の光から分離できる特殊なレンズと受信機を備えたカメラで構成されています。
とはいえ、わずか4年前には、20cm程度の非常に近い距離からしか信号を検出できず、同じ場所を数分間にわたって観測する必要がありました。その後、装置のアップグレードにより、世界初の空中円偏光測定に適した装置となりました。
この改良された測定器(FlyPol)を使用して、高速で移動するヘリコプターからわずか数秒で草原、森林、道路などの市街地を区別して測定できることが実証されました。また、湖の中の藻類からの信号も検出することができました。
今回の実験が成功したことで、科学者たちはさらにその先を目指しています。「次のステップとして、ISSから地球を見下ろして、同様の検出を行いたいと考えています。これにより、惑星規模のバイオシグネチャーの検出可能性を評価することができます。このステップは、偏光を利用した太陽系内外での生命探査を可能にする決定的なものとなるでしょう」とMERMOZプロジェクトの主任研究者であり共著者のBrice-Olivier Demory氏(ベルン大学天体物理学教授)は語っています。
このような円偏光信号の高感度観測は、将来の生命探査ミッションにとって重要なだけではありません。「この信号は、生命の分子組成とその機能に直接関係しているため、地球のリモートセンシングにおいて貴重な補完情報を提供することができます。例えば、森林破壊や植物の病気に関する情報、有毒な藻類の発生状況やサンゴ礁の状態、酸性化の影響などをモニタリングすることも可能になるかもしれません」とLucas Patty氏は説明しています。
基礎的な科学に基づいて開発された生命探査装置が、環境保全にも役立つ一つの実例と言えるでしょう。
Image Credit: University of Bern、Lucas Patty、ESO, Astronomy & Astrophysics, Lucas Patty
Source: University of Bern
文/吉田哲郎
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