金星のホスフィンは生命ではなく火山活動に由来? 新たな研究成果が可能性示す
sorae.jp / 2021年7月14日 20時43分
コーネル大学のNgoc Truong氏とJonathan Lunine氏は、2020年に検出が発表された金星大気中のホスフィン(リン化水素、PH3)について、火山活動によって大気中に放出された金星内部由来のリン化物から生成された可能性を示した研究成果を発表しました。金星のホスフィンは生命活動に由来する可能性もあると指摘されていましたが、両氏の主張が正しければ、ホスフィンの検出は「金星における火山活動」という別の重要な発見につながることになります。
■火山活動で放出されたリン化物が硫酸と反応してホスフィンが生成される可能性2020年9月、金星の大気に存在するホスフィンを検出したとする研究成果がカーディフ大学のJane Greaves氏らの研究グループから発表されました。このホスフィンは未知の非生物的な反応か、あるいは生物によって生成された可能性があるとして注目を集めました。
関連:未知の化学反応? 生命が関与? 金星の大気からホスフィンを検出
木星や土星では高温・高圧な内部で非生物的な過程で生成されたとみられるホスフィンが検出されていますが、地球の自然界におけるホスフィンは嫌気性の微生物によって生成される生命活動に由来する物質です。地球や金星のような岩石惑星では、これまで生物が関与せずにホスフィンが生成される過程は知られていません。
今回のTruong氏とLunine氏による研究成果は、ホスフィンが生物由来ではなく非生物的な仮定で検出された可能性を示しています。両氏によると、金星のマントル深部に存在するリンおよび鉄などの金属からなるリン化物が爆発的噴火にともなう噴出物とともに放出され、大気中の硫酸と反応することでホスフィンが生成される可能性があるといいます。
これまでにアメリカ航空宇宙局(NASA)や欧州宇宙機関(ESA)が実施した金星探査ミッションでは大気中の二酸化硫黄の減少が捉えられていて、火山活動によって一時的に増えた二酸化硫黄が減っていく過程だったと解釈する説があります。
Truong氏とLunine氏によると、1978年5月に打ち上げられたNASAの金星探査機「パイオニア・ヴィーナス1号」による二酸化硫黄の観測データについては、インドネシアのクラカタウ島で1883年に起きた大噴火に匹敵する規模の爆発的噴火を示しているとする研究成果が1984年に発表されているといいます。両氏はこの研究をもとに、これほどの噴火であれば硫酸雲の層に直接噴出物が到達する可能性を指摘しています。Truong氏は「金星における爆発的噴火をホスフィンが裏付けるとは予想もしていませんでした」と語ります。
ただ、2020年に発表されたホスフィンの検出には反証も出されていて、ワシントン大学のAndrew Lincowski氏らは、Greaves氏らによる観測結果がホスフィンではなく二酸化硫黄でも説明可能だと指摘しています。いっぽう、カリフォルニア州立工科大学ポモナ校のRakesh Mogul氏らは、1978年8月に打ち上げられたNASAの「パイオニア・ヴィーナス2号」による観測データを再評価した結果、ホスフィンなどの化学物質の存在を示す兆候が見つかったとする研究成果を発表しています。
関連:やはり金星にはホスフィンが存在する? 40年以上前の観測データを分析した研究成果
ホスフィンが示すのは生命活動か、火山活動か、そもそも金星の大気中にホスフィンは存在しているのか。2020年代後半~2030年代にかけて予定されている金星探査ミッション「DAVINCI+」「VERITAS」(NASA)および「EnVision」(ESA)の実施にますます期待が高まります。
関連
・欧州宇宙機関が金星探査ミッション「EnVision」の選定を発表!
・NASA 金星の謎を追う。新たに2つの探査ミッションを採用
Image Credit: PLANET-C Project Team
Source: コーネル大学
文/松村武宏
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