探査機ルーシー、ボイジャーの様に未来の人類へ向けたメッセージを搭載 2021年打ち上げ予定
sorae.jp / 2021年7月15日 17時6分
1970年代、アメリカ航空宇宙局(NASA)は木星以遠の惑星を探査するために4つの無人探査機「パイオニア10号」「パイオニア11号」「ボイジャー1号」「ボイジャー2号」を送り出しました。太陽系を脱出するこれらの探査機には、地球外知的生命体と将来遭遇する可能性を考慮して、地球や人類についての情報が描かれた金属板「Pioneer Plaque」(パイオニア探査機)や、音声も含むレコード盤「Voyager Golden Record」(ボイジャー探査機)が搭載されています。
4つの探査機が打ち上げられてからおよそ半世紀後の今年、NASAは小惑星探査ミッション「ルーシー(Lucy)」の探査機を打ち上げる予定です。7月13日、NASAはルーシーにメッセージを記したプレート「Lucy Plaque」が取り付けられたことを明らかにしました。
■米国の詩人、ノーベル文学賞受賞者、元ビートルズメンバーらのメッセージを搭載ルーシーは木星のトロヤ群小惑星を初めて探査するミッションです。木星のトロヤ群とは太陽を周回する小惑星のグループのひとつで、太陽と木星の重力が均衡するラグランジュ点のうち、木星の公転軌道上にある「L4点(公転する木星の前方)」付近と「L5点(同・後方)」付近に分かれて小惑星が分布しています。
木星のトロヤ群小惑星は惑星の形成と進化に関する情報が残された「化石」のような天体とみなされており、これらの天体を間近で探査することから、ミッションと探査機の名前は有名な化石人骨の「ルーシー」(約320万年前に生息していたアウストラロピテクス・アファレンシスの一体)から名付けられました。ちなみに化石のルーシーは、ビートルズの楽曲「ルーシー・イン・ザ・スカイ・ウィズ・ダイアモンズ」にちなんで命名されています。
メッセージが記されたルーシーのプレートは、製造を担当するロッキード・マーティンの宇宙部門ロッキード・マーティン・スペースにおいて、現地時間7月9日に取り付けられました。プレートの左上にはルーシーの打ち上げ時点における各惑星の配置やNASAおよびミッションのロゴが描かれていますが、残りのスペースにはテキストがずらりと並んでいます。
地球外知的生命体へのメッセージを搭載したパイオニアやボイジャーとは違い、ルーシーは太陽系に留まります。NASAによると、ルーシーは数十万年に渡り地球近傍と木星のトロヤ群のあいだを往復するような軌道を飛び続けるといいます。そんなルーシーに搭載されたプレートはいわばタイムカプセルのようなもので、これらのテキストは未来の人類へ向けたメッセージとなっています。
メッセージは全部で20人分が記されていて、現職のジョイ・ハルジョ氏をはじめ、ビリー・コリンズ氏やリタ・ダブ氏など歴代の米国桂冠詩人、バイデン大統領の就任式で詩を朗読した全米青年桂冠詩人のアマンダ・ゴーマン氏、ノーベル文学賞受賞者のルイーズ・グリュック氏、オルガ・トカルチュク氏、カズオ・イシグロ氏、オルハン・パムク氏といった著名人からのメッセージや、特殊相対性理論・一般相対性理論を発表したアルベルト・アインシュタイン、公民権運動で知られるマーティン・ルーサー・キング・ジュニア、パイオニアやボイジャーにメッセージの搭載を提案した天文学者カール・セーガンの言葉が含まれています。
また、ミッションおよび探査機の名称が元をたどればビートルズの楽曲にちなむことからか、ジョン・レノンやジョージ・ハリスンをはじめ、ポール・マッカートニー氏、リンゴ・スター氏、天文学者として活躍するブライアン・メイ氏、そしてオノ・ヨーコ氏のメッセージも記されています。
メッセージの内容はリンゴ・スター氏の”Peace and Love.”(平和と愛)やキング牧師の”We are not makers of history. We are made by history.”(我々が歴史を作るのではない。我々が歴史によって作られるのだ)のように比較的短いものから、”The important thing is not to stop questioning.”(大切なのは疑問を抱き続けることだ)で始まるアインシュタインの言葉など様々です。
なお、すべてのメッセージはサウスウエスト研究所が公開しているこちらのページで読むことができます。人類による宇宙探査が今後も継続し、いつの日か惑星間を旅する宇宙考古学者によって初期の太陽系探査における遺物としてルーシーが回収されることを願って、NASAはメッセージプレートを取り付けたとしています。
2021年10月16日に打ち上げ予定のルーシーは2度の地球フライバイで軌道を調整しながらL4点のトロヤ群に向かい、2027年に「ユーリバテス」「ポリメレ」、2028年に「リュークス」「オラス」のフライバイ探査を実施。その後は3度目の地球フライバイを経て2033年にL5点のトロヤ群にある「パトロクロス」のフライバイ探査を行います。
これら木星トロヤ群小惑星の探査に先立ち、ルーシーは2025年に小惑星帯の小惑星「ドナルドヨハンソン」に接近する予定です。パトロクロスは「メノイティオス」との二重小惑星であることが知られており、ユーリバテスは1つの衛星を伴うことから、ルーシーは打ち上げから12年かけて1つのミッションで合計8つの小惑星および衛星のフライバイ探査を行うことになります。
▲ルーシーの軌道を再現したシミュレーション動画▲
色は水色が探査機、白が探査対象の小惑星、緑が地球、オレンジが木星を示す
(Credit: NASA’s Scientific Visualization Studio)
関連:Lucy計画で探査予定の小惑星に小さな衛星が存在することが判明
Image Credit: Southwest Research Institute
Source: NASA / サウスウエスト研究所
文/松村武宏
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