木星の衛星ガニメデの希薄な大気に水蒸気が存在する証拠を発見、ハッブルによる観測成果
sorae.jp / 2021年7月28日 22時5分
スウェーデン王立工科大学(KTH)のLorenz Roth氏らの研究グループは、「ハッブル」宇宙望遠鏡による木星の衛星ガニメデの観測データを分析した結果、ガニメデの希薄な大気に水蒸気が存在する証拠が初めて明らかになったとする研究成果を発表しました。
直径5268kmのガニメデは既知の天体としては太陽系で9番目に大きく、惑星である水星(直径4880km)よりも大きな衛星です。ガニメデは独自の磁場を持つことが明らかになっており、その内部は氷、岩石、鉄が分化した層状の構造を成していると考えられています。先日はアメリカ航空宇宙局(NASA)の木星探査機「ジュノー(Juno)」がガニメデのフライバイを実施し、20年ぶりの近距離から観測を行いました。
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過去の観測において、ガニメデには希薄な大気が存在することがわかっています。1998年にハッブル宇宙望遠鏡の「宇宙望遠鏡撮像分光器(STIS)」を使って紫外線の波長でガニメデを観測した際に捉えられたオーロラの様子から、ガニメデの大気は酸素分子(O2)と酸素原子(O)で構成されていると考えられてきました。
Roth氏らは今回、ガニメデ大気中の酸素原子の量を測定するために、2018年にハッブル宇宙望遠鏡の「宇宙起源分光器(COS)」を使って取得されたガニメデの観測データと、1998年および2010年にSTISで取得された観測データを組み合わせて分析を行いました。その結果、過去の分析結果とは異なりガニメデの大気中には酸素原子がほとんど存在せず、水分子(H2O)が存在する可能性が示されたといいます。
ガニメデの大気を構成する酸素は、宇宙空間から飛来する荷電粒子がガニメデ表面の氷に衝突する際に弾き出されている(スパッタリング)とみられています(このとき酸素よりも軽い水素原子や水素分子も弾き出されるものの、すぐに失われてしまうといいます)。いっぽう、今回その証拠が見出された水分子は、ガニメデ表面の氷が昇華することで大気中に供給されていると考えられています。
発表によると、ガニメデ表面の氷は110ケルビン(摂氏マイナス163度)よりも高温の場所では昇華して水蒸気になり、これよりも低温の場所では氷に戻るといいます。ガニメデの表面温度は80ケルビン(摂氏マイナス193度)から推定150ケルビン(摂氏マイナス123度)の範囲で変化しているといい、研究グループによると、ガニメデの赤道付近で正午を迎えた地域の大気では昇華した水分子の量が酸素分子を上回るいっぽう、他の地域の大気は酸素分子が大半を占めているようです。なお、ガニメデでは表面から150kmほど下に内部海が存在すると予想されていますが、NASAによると大気中の水分子は内部海から蒸発したものではないとされています。
研究を率いたRoth氏は、2022年に探査機を打ち上げ予定の木星氷衛星探査計画「JUICE」の観測計画を改善する上で、今回の成果が有益な情報を提供できると言及しています。欧州宇宙機関(ESA)が主導し、宇宙航空研究開発機構(JAXA)やNASAなどが参加するJUICEは木星の衛星エウロパ、ガニメデ、カリストを探査対象としており、最終的にはガニメデを周回する軌道に入って表面や地下の観測を行うことが計画されています。
関連:木星の衛星ガニメデに太陽系最大規模の巨大な衝突クレーターを発見か
Image Credit: ESA/Hubble, M. Garlick
Source: NASA / ESA/Hubble / SwRI
文/松村武宏
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