光害によってフンコロガシどうしの争いが激化する可能性
sorae.jp / 2021年8月3日 20時44分
James Foster氏(研究当時:ルンド大学、現:ヴュルツブルク大学)、Marie Dacke氏(ルンド大学)らの研究グループは、星空を頼りに行動する夜行性の昆虫に対する光害(ひかりがい)の影響を調査した研究成果を発表しました。人工の光がもたらす光害は、天体観測や景観への悪影響だけでなく、星空を利用する動物の行動にも大きな影響を与えている可能性があるようです。
■光害によって星空を利用できなくなり、フンコロガシどうしの争いが促される可能性も示される今から8年前の2013年、今回の研究にも参加したDacke氏率いる研究グループは、夜行性のフンコロガシ(糞虫の一種)が方角を知るための道しるべとして天の川を利用しているとする研究成果を発表しました。
研究グループによると、動物の糞を食べるフンコロガシは糞の山を見つけるとそこから小さな塊を作り出し、他のフンコロガシに邪魔されることなく食べたり地面に埋めたりできる場所まで糞を転がしていきます。Dacke氏らによると、ある種のフンコロガシは夜間に天の川を頼りに進むべき方向を認識しているというのです。星空を利用するフンコロガシの能力を明らかにしたDacke氏らは、同年にイグノーベル賞を受賞しています。
今回、Foster氏らは人工光による光害が夜行性の動物に及ぼす影響を調べるために、2013年の研究でも対象となった南アフリカに生息するフンコロガシ(Scarabaeus satyrus)を調査。光害の影響で夜空が明るいヨハネスブルグ中心部と暗い夜空が広がる南アフリカ北東部のリンポポ州において、フンコロガシの行動を数夜に渡り観察しました。研究グループは、星空を利用する動物の方向感覚に対してシミュレーションではなく本物の光害が与える影響についての科学的研究は、これまで行われていなかったと指摘します。
実験の結果、フンコロガシの行動には明確な違いが現れました。まず、星空を利用できたリンポポのフンコロガシは、様々な方角へ分散するように移動しました。研究グループによると、自然環境下のフンコロガシは糞の山から素早く遠ざかるため、分散するように直線的に移動する傾向があるといいます。リンポポで見られたこのような行動には、糞をめぐる他のフンコロガシとの争いを回避する効果があります。
いっぽう、星空を利用できなかったヨハネスブルグのフンコロガシは、照明で明るい建物や街灯に向かって移動し、何匹かが同じ光源に向かう様子もみられました。研究グループによると、分散せずに同じ光源へ向かうことでフンコロガシどうしの争いが激化し、エネルギーを浪費する可能性があるといいます。またFoster氏は、本来なら星空を利用して飛行する鳥や蛾も、光害の影響下では人工光に向かって飛ぶことを強いられている可能性があると言及しています。
ただし、一番影響が顕著だったのは、人工光の影響を間接的に受けたフンコロガシだったようです。Foster氏によると、街灯や建物からの光を直接見ることができたフンコロガシは、星空が利用できない状況でも方向感覚を得ることはできていました。しかし、光害で夜空が明るい状態にあり、そのうえ街灯や建物を直接見ることもできない状況のフンコロガシは「完全に方向を見失った」(Foster氏)といいます。研究グループでは、都市部と手つかずの自然環境の間に生息する動物は星空と街灯のどちらも利用することができず、光害の影響を最も大きく受ける可能性があると結論付けています。
近年、「スターリンク(Starlink)」や「ワンウェブ(OneWeb)」などの衛星コンステレーションをはじめとした人工衛星の増加にともなう光害によって、地球上の多くの地域から手つかずの夜空が失われる可能性が懸念されています。
関連:増え続ける地球周辺の人工物が夜空を1割以上明るくする可能性
しかし今回の研究では、私たちにとってより身近な街灯や屋内照明などの人工光による光害が、天体観測のような人類自身の活動のみならず、夜行性の動物の行動に対して実際に影響を及ぼしている可能性が実験によって示されました。今後は人工光の自然環境に対する影響を考慮し、光害対策型の照明器具の普及を促進するなどの行動がいっそう求められるのではないでしょうか。
関連:「夜をオン」にすると見えてくるもの 「光害」をあらためて考えてみよう
Image Credit: Chris Collingridge
Source: ルンド大学 / ヴュルツブルク大学
文/松村武宏
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