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NASA探査機がサンプル採取した小惑星「ベンヌ」の地球への衝突確率を算出

sorae.jp / 2021年8月12日 20時52分

小惑星探査機「オシリス・レックス」の2年以上に渡る観測データをもとに作成された小惑星「ベンヌ」の全体像(Credit: NASA/Goddard/University of Arizona)

【▲ 小惑星探査機「オシリス・レックス」の2年以上に渡る観測データをもとに作成された小惑星「ベンヌ」の全体像(Credit: NASA/Goddard/University of Arizona)】

1750分の1。これは、平均直径約500mの小惑星「ベンヌ」(101955 Bennu)が2300年までに地球へ衝突する確率です。アメリカ航空宇宙局のジェット推進研究所(NASA/JPL)が管理する地球近傍天体研究センター(CNEOS)のDavide Farnocchia氏らによって、ベンヌの衝突確率が新たに算出されました。

2020年10月にNASAの小惑星探査機「OSIRIS-REx(オシリス・レックス)」がサンプルを採取した小惑星ベンヌは、地球に接近する軌道を描く「地球接近天体」(NEO:Near Earth Object)のなかでも、特に衝突の危険性が高い「潜在的に危険な小惑星」(PHA:Potentially Hazardous Asteroid)に分類されています。

小惑星や彗星といった小さな天体の軌道は、惑星の重力や「ヤルコフスキー効果」(※)などの影響を受けて、比較的短期間で変化することがあります。PHAの場合、軌道が変化することで地球に衝突する可能性が高まることもあります。

※…太陽に温められた天体の表面から放射される熱の強さが場所により異なることで、天体の軌道が変化する現象のこと。参考:ヤルコフスキー効果(Wikipedia)

研究グループは今回、ヤルコフスキー効果、太陽・惑星・月・冥王星のほか343個の準惑星や小惑星による摂動、惑星間塵による抗力、太陽風の圧力、ベンヌからの粒子放出といった軌道に影響を及ぼす様々な要素を考慮した上で、ベンヌの軌道が将来どのように変化していくのかを詳細に分析しました。ヤルコフスキー効果の測定には、2018年12月から2021年5月までベンヌを周回していたオシリス・レックスが収集した貴重なデータが利用されています。

ベンヌの表面に向けて降下するオシリス・レックスを描いた想像図(Credit: NASA/Goddard/University of Arizona)

【▲ ベンヌの表面に向けて降下するオシリス・レックスを描いた想像図(Credit: NASA/Goddard/University of Arizona)】

従来の予測では、ベンヌが地球に衝突する確率は2200年までに2700分の1(約0.037パーセント)とされていました。今回の分析の結果、前述のように2300年までの衝突確率は1750分の1(約0.057パーセント)と判断されています。実際に地球へ衝突する可能性はそれでも低いものの、研究グループはベンヌについて、小惑星「1950 DA」(平均直径約1.1km)と並び、太陽系で最も危険な既知の小惑星の一つと位置付けています。ちなみに、オシリス・レックスによるサンプル採取がベンヌの軌道に及ぼした影響は、無視できるレベルであることが改めて確認されています。

特に注目されているのは、今から161年後の2182年9月24日です。研究グループによると、この日にベンヌが地球へ衝突する確率は2700分の1とされています。鍵を握るのは2135年の接近で、このときベンヌが地球の近くにあるキーホール(keyhole、鍵穴)と呼ばれる領域を通過する可能性があるといます。キーホールを特定のタイミングで通過した小惑星は地球の重力の影響によって軌道が変化し、次回の接近時に地球へ衝突することになります。

▲今回の研究成果に関してヤルコフスキー効果やキーホールなどを解説した動画(英語)▲
(Credit: NASA’s Goddard Space Flight Center)

今回の分析結果は、あくまでも現時点で得られる情報をもとにしたシミュレーションモデルにもとづいています。そのため、小惑星の物理的な特性を理解し、ベンヌをはじめとしたPHA(そのなかには宇宙航空研究開発機構の小惑星探査機「はやぶさ2」がサンプルを採取した小惑星「リュウグウ」も含まれています)の継続的な観測を通して軌道を予測し続ける取り組みが重要です。

なお、小惑星の軌道をそらして地球への衝突を回避する技術につなげることを目指して、NASAは2021年11月に「DART」という探査機の打ち上げを予定しています。DARTは二重小惑星「ディディモス」(65803 Didymos)の衛星(二重小惑星の小さいほう)「ディモルフォス」(Dimorphos)に衝突して、ディディモスを公転するディモルフォスの軌道を実際に変化させることを目的としています。

重量550kgのDARTが衝突することで、ディモルフォスの軌道には地上からの観測でも検出できるレベルの変化が生じると予想されています。また、2024年に打ち上げが計画されている欧州宇宙機関(ESA)の小惑星探査機「Hera」は、DARTが衝突した後のディモルフォスの観測を予定しています。

DARTのミッションを解説したイラスト。探査機本体(Spacecraft)が衝突することで、ディモルフォス(Dimorphos)の軌道が変化すると予想されている(Credit:NASA/Johns Hopkins APL/Steve Gribben)

【▲ DARTのミッションを解説したイラスト。探査機本体(Spacecraft)が衝突することで、ディモルフォス(Dimorphos)の軌道が変化すると予想されている(Credit:NASA/Johns Hopkins APL/Steve Gribben)】

可能性は低いとはいえ、今から5世代ほど後の人々にとって、2182年のベンヌ接近は現実の脅威となるかもしれません。160年後の人類がどのようなテクノロジーを手にしているかはわかりませんが、天体衝突という大規模災害を避ける上で、現代の探査ミッションが役立つことを願うばかりです。

 

関連
・小惑星「アポフィス」今後100年間は衝突の可能性なし。NASAによる最新の分析結果
・小惑星の脅威から地球を守れ! 危機意識を高める「国際小惑星デー」

Image Credit: NASA/Goddard/University of Arizona
Source: NASA
文/松村武宏

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