JAXA・名大など開発の「デトネーションエンジン」宇宙空間での実証実験に成功
sorae.jp / 2021年9月2日 11時7分
宇宙航空研究開発機構(JAXA)は2021年7月27日、鹿児島県の内之浦宇宙空間観測所において観測ロケット「S-520-31号機」の打ち上げを行いました。同日朝5時30分に打ち上げられたS-520-31号機は約4分後に最高高度235kmへ到達し、打ち上げから約8分後に内之浦の南東海上へ着水しています。
今回打ち上げられたS-520-31号機は「深宇宙探査用デトネーションエンジンシステム」の実証実験を目的としていました(デトネーションエンジンについては後述)。8月19日、JAXAはS-520-31号機に搭載されていた「回転デトネーションエンジン」(RDE:Rotating Detonation Engine)が稼働する様子を撮影した冒頭の写真を公開しました。
S-520-31号機には、回転デトネーションエンジンおよび「パルスデトネーションエンジン」(PDE:Pulse Detonation Engine)という2つのデトネーションエンジンから構成される「デトネーションエンジンシステム」が搭載されていました。打ち上げ後に第1段から分離されたデトネーションエンジンシステムは、宇宙空間において回転デトネーションエンジンを6秒間、パルスデトネーションエンジンを2秒間×3回、いずれも正常に作動させることに成功しています。
発表によると、宇宙空間におけるデトネーションエンジンの実証実験成功は世界初とされています。取得されたデータの一部は地上に伝送されましたが、冒頭の画像を含む大容量データは、大気圏再突入時の減速と海上での浮揚を可能とする展開型エアロシェルを備えた小型回収機「RATS」(※)を使って海上で回収されています。
※…Reentry and Recovery module with inflatable Aeroshell Technology for Sounding rocket experimentの略
■デトネーションエンジンとはデトネーション(detonation)は日本語で爆轟(ばくごう)と言い、火炎の伝播速度が音速を超える爆発的な燃焼現象です。衝撃波と燃焼領域の相互作用によって維持されるデトネーションの伝播速度は秒速2~3kmにも達するといいます。
デトネーションエンジンはこの現象を応用して推進剤(燃料と酸化剤)を燃焼させるロケットエンジンで、従来のロケットエンジンと比べて構造が単純であり、理論上の熱効率が高いというメリットがあります。実用化されればエンジンの小型・軽量化や高性能化につながることから、各国でデトネーションエンジンの研究が進められています。
S-520-31号機に搭載されていたデトネーションエンジンシステムは、名古屋大学未来材料・システム研究所、名古屋大学大学院工学研究科、慶應義塾大学、室蘭工業大学の研究グループとJAXA宇宙科学研究所が共同で開発したものでした。
デトネーションエンジンシステムに組み込まれていたパルスデトネーションエンジンと回転デトネーションエンジンの仕組みは、次の通りです。
パルスデトネーションエンジンの燃焼器は片側が閉じた筒状の構造をしていて、内部に満たされた推進剤に点火するとデトネーション波が生じて伝播し、推進剤が高速で燃焼されます。燃焼後のガスは不燃性のガスなどを用いて燃焼器から排出し、新たに充填した推進剤に再び点火することを繰り返します。デトネーション波を間欠的に生じさせることから「パルス」デトネーションエンジンと呼ばれています。
いっぽう、回転デトネーションエンジンの燃焼器は片側が閉じた二重の円筒構造をしています。デトネーション波は外側と内側の筒の間をくるくると回転するように連続的に伝播し、推進剤の燃焼によって生じたガスは円筒の軸方向に噴出していきます。パルスデトネーションエンジンとは違ってデトネーション波は一度発生させれば良く、推力を連続的に得られるのが回転デトネーションエンジンの特徴です。
今回のデトネーションエンジンシステムによる実証実験成功について、名古屋大学未来材料・システム研究所は、既存のロケットエンジンが軽量・高性能化するデトネーションエンジンによって航空宇宙機のエンジンやシステムに変革がもたらされるきっかけとなるものであり、ロケットに搭載されるエンジンや深宇宙探査機のキックモーター(軌道投入用の推進装置)としてのデトネーションエンジン実用化に大きく近付くことになったとしています。
ロケットや宇宙機のエンジンが小型軽量化・高性能化されれば、より多くの観測機器やペイロード(搭載物)を搭載したり、今までは到達するのが難しかった天体を目指したりすることが可能になります。デトネーションエンジンは、宇宙における人類の活動を拡大していく上で欠かせないシステムになるかもしれません。
関連:JAXA、観測ロケット「S-310-45号機」の打ち上げ実験を成功
Image Credit: JAXA
Source: JAXA/ISAS / 名古屋大学未来材料・システム研究所 / JAXA相模原キャンパスYouTubeチャンネル
文/松村武宏
この記事に関連するニュース
-
欧州の新型ロケット「アリアン6」2号機は2025年2月中旬に打ち上げへ
sorae.jp / 2024年11月12日 11時6分
-
H3ロケット、3機連続打ち上げ成功 防衛通信衛星を搭載
マイナビニュース / 2024年11月5日 19時29分
-
JAXA、H3ロケット4号機打ち上げ成功 Xバンド防衛通信衛星「きらめき3号」を搭載
sorae.jp / 2024年11月4日 19時59分
-
H3ロケット打ち上げ延期 4号機、部品交換で30日に
共同通信 / 2024年10月22日 18時13分
-
ULAの新型ロケット「ヴァルカン」、不屈の飛翔 - ブースターが破損するも打ち上げには成功
マイナビニュース / 2024年10月22日 15時42分
ランキング
-
1「50代おひとりさま」の平均貯蓄額ってどれくらい?
オールアバウト / 2024年11月12日 11時30分
-
2運動嫌い必見!いつまでも歩ける体をキープするために今日から始めたい「簡単『ながら』習慣」
ハルメク365 / 2024年11月12日 21時0分
-
3切り干し大根の栄養は生の大根の倍以上?切り干し大根のおいしい食べ方・レシピ
楽天レシピ デイリシャス / 2024年11月12日 9時0分
-
44年で1200万貯めた29歳「即やめるべき節約法」 極端な電気代節約、ポイント集めは意味がない〈再配信〉
東洋経済オンライン / 2024年11月12日 14時0分
-
51年で13kg痩せた管理栄養士が教える、「ランチを食べすぎた夜」の健康的な“コンビニ飯”の選び方
日刊SPA! / 2024年11月12日 15時53分
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
エラーが発生しました
ページを再読み込みして
ください