木星や海王星のような冷たい惑星は天の川銀河のバルジにも存在する可能性
sorae.jp / 2021年9月3日 10時25分
大阪大学大学院の越本直季氏らの研究グループは、太陽系の木星や海王星のように恒星から比較的離れた軌道を公転する冷たい惑星は、天の川銀河の場所によらず普遍的に存在するとした研究成果を発表しました。
天の川銀河には多くの恒星が集まる中心部分のバルジ(銀河バルジ)と、バルジを取り巻く渦巻腕がある直径約10万光年の円盤部(銀河円盤)があります。太陽系は天の川銀河の中心から約2万5000光年離れた円盤部に位置しています。研究グループによると、太陽系近傍とは環境が異なるバルジには惑星が存在しない可能性が過去の研究において指摘されていたといいます。
越本氏らは今回、実際の観測結果と理論モデルを使用して、惑星の存在率が天の川銀河の中心からの距離に応じてどのように変化するのかを分析しました。その結果、中心から3000光年しか離れていないバルジに位置する星における惑星の持ちやすさは、中心から約2万5000光年離れた太陽系近傍の星と比べて0.3~1.5倍であり、冷たい惑星の存在率は天の川銀河の中心からの距離に大きく依存しないことが明らかになったといいます。
バルジには誕生から100億年程度の古い恒星が多く、星々は太陽系近傍の10倍以上の密度で分布しています。発表では今回の成果について、太陽系の周辺とは環境が異なるバルジでも恒星から離れて公転する冷たい惑星が長期間存続できる可能性を示すものであり、惑星の形成過程を解明する上で重要な手がかりになるとしています。
■重力マイクロレンズ法で見つかった系外惑星のデータを利用人類はこれまでに4500個以上の太陽系外惑星を発見していますが、その多くは太陽系から3000光年以内に存在しています。直径約10万光年とされる天の川銀河のサイズと比べれば、人類が知っているのはごく近くにある系外惑星ばかりです。
遠くの系外惑星を検出する方法のひとつに「重力マイクロレンズ法」というものがあります。重力マイクロレンズ法とは、遠くにある恒星(光源)と地球の間を別の恒星(レンズ天体)が通過したとき、光源を発した光の進む向きが通過した恒星の重力によって曲がることで時間とともに明るさが変化する「重力マイクロレンズ」効果を利用した観測手法です。遠くの銀河を発した光の進む向きが手前の銀河の重力によって曲げられることで像が歪んで見える「重力レンズ」と基本的には同じ効果ですが、重力マイクロレンズでは像の歪みは観測できず、光源星の明るさの変化として観測されます。
このとき、光源となる星の手前を通過したレンズ天体が惑星系だった場合、恒星だけでなく惑星の重力による明るさの変化も生じることがあるため、惑星の存在を検出することが可能です。
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しかし、重力マイクロレンズ法を使えば太陽系から遠いバルジに位置する惑星系を見つけることもできるものの、研究グループによると、特に太陽系から1万光年以上離れた惑星系までの距離を測定することは難しく、過去の研究も不正確な距離測定のデータに基づいていたのだといいます。そこで研究グループは、重力マイクロレンズ効果をもたらす惑星系全体の質量と、その惑星系までの地球からの距離に応じて決まる「アインシュタイン半径」に注目しました。
重力レンズ効果において、光源の星・レンズ天体・地球が一直線に並ぶと、地球からは光源の像がリング状に見えます。重力レンズ効果はアルベルト・アインシュタインの一般相対性理論によってその存在が予言されていたことから、このリングは「アインシュタインリング」と呼ばれています。アインシュタイン半径は、このアインシュタインリングの半径にあたる物理量です。研究グループによると、アインシュタイン半径は観測された全ての惑星系において偏りなく測定されており、不正確な測定結果が含まれる可能性をほぼ排除できるメリットがあるといいます。
研究グループは、これまでに重力マイクロレンズ法で発見された28の惑星系(いずれも恒星から離れた冷たい惑星が存在する)のアインシュタイン半径と、重力マイクロレンズ効果の発生を予測できる理論モデルとを比較。その上で、天の川銀河の中心から太陽系近傍にかけて惑星の存在率が徐々に変化することを想定した理論モデルについて、実際の観測結果を説明できるものを調べた結果、冷たい惑星は天の川銀河の中心からの距離に大きく依存せず存在することが明らかになったとされています。
この四半世紀ほどで発見されてきた系外惑星のなかには、主星のすぐ近くを公転する高温のホットジュピターのように太陽系には存在しないタイプの惑星も数多く存在しており、惑星形成の理論も見直されてきました。天の川銀河の様々な環境でどのような惑星がどれくらい存在するのかを分析した今回のような研究を通して、太陽系の誕生や生命を育む惑星の存在確率など、惑星に関する知識がさらに深まることが期待されます。
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Image Credit: ESO/L. Calçada
Source: 大阪大学
文/松村武宏
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