中性子星の合体が宇宙の「金鉱」だった 中性子星とブラックホールの合体と比較
sorae.jp / 2021年11月2日 21時5分
わたしたちの身体や身の回りの物体、地球を構成している物質はすべて元素からできています。そして、その元素の起源は宇宙にあります。
鉄までの軽い元素のほとんどは、星の中心部で作られます。恒星内部の高温により、核融合が促進され、徐々に重い元素が作られていきます。しかし、金やプラチナなどの貴金属を含む重金属(重元素)が、宇宙のどこでどのように作られたのか、まだまだ謎に満ちています。
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星が核融合を起こす際には、陽子を融合させて重い元素を作るためのエネルギーが必要になります。星は、水素から鉄までの軽い元素を効率よく生産しています。しかし、陽子の数が26個を超えると(鉄を超えると)、エネルギー的に効率が悪くなります。つまり、金やプラチナのような重い元素を作ろうとすると、陽子を結合させる別の方法が必要になります。
これまで科学者たちは、超新星爆発がその答えになるのではないかと考えてきました。巨大な星が超新星爆発で崩壊するとき、その中心部にある鉄は軽い元素と結合して、より重い元素を生成すると考えられています。
しかし、2017年、アメリカとイタリアにある重力波観測所「LIGO」と「Virgo」が初めて検出した、連星中性子星の合体という有望な候補が確認されました。その合体は閃光を放ち、その閃光には重金属のサインが含まれていました。
合体によってできた金の量は、地球の質量の数倍に相当します。超新星爆発に比べて、重元素の生成には連星中性子星の方が効率的であることが示されたのです。
しかし、中性子星の合体は、中性子星とブラックホールの衝突と比べてみるとどうなるでしょうか? 中性子星とブラックホールの衝突は、LIGOやVirgoで検出されている別のタイプの合体で、重金属の「工場」になる可能性があります。ブラックホールが中性子星を完全に飲み込んでしまう前に、ブラックホールが中性子星を崩壊させて重金属を噴出させることができるのではないかと考えられています。
マサチューセッツ工科大学(MIT:Massachusetts Institute of Technology)とニューハンプシャー大学(University of New Hampshire)の研究者が行った新しい研究によると、過去25億年の間に、中性子星とブラックホールの合体よりも、2つの中性子星の衝突である連星中性子星の合体で、より多くの重金属が生成されたと報告しています。
研究チームは、それぞれのタイプの合体が生み出す金やその他の重金属の量を調べることにしました。分析の対象となったのは、LIGOとVirgoがこれまでに検出した2つの連星中性子星の合体と、2つの中性子星とブラックホールの合体です。
研究者たちはまず、それぞれの合体に含まれる各天体の質量と、ブラックホールの回転速度を推定しました。ブラックホールの質量が大きすぎたり、回転速度が遅すぎたりすると、重元素を生成する前に中性子星が飲み込まれてしまうからです。また、中性子星の破壊に対する抵抗力を調べました。抵抗力が強いほど、重元素を生み出す可能性は低くなります。さらに、LIGOやVirgoなどの観測結果から、一方の合体が他方の合体に比べてどのくらいの頻度で起こるかを推定しました。
最後に、研究チームは数値シミュレーションを用いて、天体の質量、回転、破壊の度合い、発生率などの組み合わせを変えた場合に、それぞれの合体が生み出す金やその他の重金属の平均量を計算しました。
連星中性子星の合体では、中性子星とブラックホールの合体に比べて、平均して2~100倍の重金属が生成されることがわかったのです。今回の分析の対象となった4つの合体は、過去25億年以内に起きたものと推定されています。つまり、少なくともこの期間では、中性子星とブラックホールの衝突よりも、連星中性子星の合体によって重元素が多く生成されていたと結論づけることができます。
今後、LIGOとVirgoによる観測が再開されれば、さらに多くの検出が行われ、各合体が重元素を生成する割合の推定値が向上すると期待されています。これにより、遠方にある銀河の年齢を、その銀河に含まれるさまざまな元素の量から推定できるようになるかもしれません。
宇宙の「金鉱」は、新たな天文学的知見の「採掘場」としても期待されているようです。
この研究結果は、2021年10月25日付けで「Astrophysical Journal Letters」誌に掲載されました。
Image Credit: National Science Foundation/LIGO/Sonoma State University/A. Simonnet
Source: MIT / 論文
文/吉田哲郎
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