最新の「重力波イベント」カタログ公開、初検出から6年で90個に到達
sorae.jp / 2021年11月11日 16時16分
日米欧の重力波望遠鏡によるLIGO-Virgo-KAGRAコラボレーションは11月7日、2019年4月~2020年3月に行われた第3期観測期間「O3(Observation Run 3)」で検出されたものを含む最新の重力波カタログ「GWTC-3(Gravitational-Wave Transient Catalog 3、突発的重力波カタログ第3版)」を公開しました。
2015年9月にアメリカの重力波望遠鏡「LIGO」(ライゴ、ワシントン州とルイジアナ州の2か所に建設)が史上初めて重力波イベントを検出して以来、LIGOと欧州の重力波望遠鏡「Virgo」(ヴァーゴ、イタリアに建設)は機器のアップグレードを重ねながら重力波の検出を続けてきました。
発表によると、LIGO単独で行われた最初の観測期間「O1」(2015年9月~2016年1月)およびLIGOとVirgoの共同観測が始まった第2期観測期間「O2」(2016年11月~2017年8月)までに検出された重力波は全部で11個でしたが、O3では前半にあたる「O3a」(2019年4月~10月)で44個、後半にあたる「O3b」(2019年11月~2020年3月)で35個の合計79個が一気に追加され、特定された重力波イベントの数は全部で90個に達しています。
観測機器の感度向上にともなう検出例の増加はめざましく、1日に複数回の重力波イベントが検出されることも珍しくなくなってきました。そのため、従来の重力波イベントは検出された日の協定世界時(UTC)での日付をもとに「GW150914」(GWはGravitational wave(重力波)の略)といったように命名されてきましたが、同じ日に検出された重力波イベントを区別しやすくするために、O3で検出された重力波イベントからは時刻も含めて「GW200208_222617」(「協定世界時2020年2月8日22時26分17秒に検出された重力波」の意味)と命名されるようになっています。
90個の重力波イベントはブラックホールや中性子星が合体した際に放出されたものとみられています。こちらのインフォグラフィックは合体した天体の種類と質量(太陽の質量の倍数)の関係をこれまでに検出された重力波イベントごとに時系列順に示したもので、矢印の中間と根元にあるのが合体前の天体、矢印の先端にあるのが合体後に誕生した天体を表現しています。
色は青がブラックホール、オレンジが中性子星で、判断が難しい天体は半分ずつ塗り分けられています。検出された重力波イベントの大半は連星ブラックホールの合体にともなうものですが、「GW170817」に代表される連星中性子星の合体や、合体した天体の質量が大きく偏っている中性子星とブラックホールからなる連星の合体にともなう重力波イベントも捉えられていることが直感的に見て取れます。
また、連星ブラックホールの合体後に100太陽質量を上回る「中間質量ブラックホール」が形成されたとみられる重力波イベントがこれまでに複数捉えられていることもわかります。次の表は1個の候補(GW200105_162426)を含む91個の重力波イベントについて、その名称や合体前後の天体の種類・質量をまとめたものですが、O3では100太陽質量以上のブラックホールが形成されたとみられる重力波イベントが8件検出されていることがわかります。
光(電磁波)を利用した観測ではこれまでに「恒星質量ブラックホール」(100太陽質量以下)や「超大質量ブラックホール」(数十万太陽質量以上)とみられる天体の候補は幾つも見つかっていますが、その間にあたる中間質量ブラックホールは観測することが難しく、候補がほとんど見つかっていません。重力波望遠鏡による観測結果は、中間質量ブラックホールが従来の予想よりもありふれた存在である可能性を示していると受け止められています。
関連:中間質量ブラックホール存在の証拠か。形成時の重力波が検出された可能性
なお、LIGO-Virgo-KAGRAコラボレーションでは、新型コロナウイルス感染症やアメリカにおけるハリケーンの影響を受けつつも、第4期観測期間「O4」に向けて準備を進めています。O4は2022年8月以降に始まる予定とされており、日本の重力波望遠鏡「KAGRA」も全期間を通して共同観測に参加することが発表されています。
関連:KAGRAも参加する重力波望遠鏡の共同観測「O4」開始は2022年6月以降に
Image Credit: LIGO-Virgo-KAGRA Collaborations
Source: LIGO科学コラボレーション / Virgo / 東大宇宙線研究所 / ロチェスター工科大学
文/松村武宏
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