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大マゼラン雲の若い星団で恒星と連星を組むブラックホールが見つかる

sorae.jp / 2021年11月20日 21時0分

リバプール・ジョン・ムーア大学のSara Saracinoさんを筆頭とする研究グループは、「大マゼラン雲」(LMC:Large Magellanic Cloud、大マゼラン銀河)の若い星団で恒星質量ブラックホールが見つかったとする研究成果を発表しました。

研究グループが観測に用いた「超大型望遠鏡(VLT:Very Large Telescope)」を運用するヨーロッパ南天天文台(ESO)は、今回用いられた観測手法が天の川銀河や近傍の銀河に存在するブラックホールを検出するための鍵になり得るとしており、謎めいた天体であるブラックホールの形成と進化を明らかにする上で助けとなるかもしれないと期待しています。

■太陽約11個分の質量があるブラックホールを大マゼラン雲の星団で発見

【▲星団「NGC 1850」(中央)とその周辺の様子。星団を囲む赤いフィラメント構造は超新星残骸だと考えられている。画像はハッブル宇宙望遠鏡と超大型望遠鏡(VLT)が可視光線の波長で撮影したデータから作成(Credit: ESO, NASA/ESA/R. Gilmozzi/S. Casertano, J. Schmidt)】

Saracinoさんたちが恒星質量ブラックホール(質量が100太陽質量以下の比較的軽いブラックホール、1太陽質量=太陽1個分の質量)を見つけたのは、およそ16万光年先の大マゼラン雲にある星団「NGC 1850」です。研究グループによると、数千個の星々が集まっているNGC 1850は若い星団で、その年齢は約1億歳とされています。

ブラックホールそのものを光(電磁波)で観測することはできませんが、ブラックホールの周囲を恒星が周回している場合、その星を観測することで間接的にブラックホールの存在を検出し、質量を推定することができます。たとえば、天の川銀河の中心に存在が確実視されている超大質量ブラックホール「いて座A*(エースター)」の場合、いて座A*を周回する「S2」(S0-2)などの明るい星々の動きを長年観測し続けた結果、太陽の約400万倍の質量を持つと推定されています。

関連:2020年の「ノーベル物理学賞」はブラックホールの研究に貢献した3名が選ばれる

研究グループは今回、ESOの超大型望遠鏡に設置されている広視野面分光観測装置「MUSE(Multi Unit Spectroscopic Explorer)」が2年間に渡って取得したNGC 1850の観測データを利用して、恒星と連星を組むブラックホールを探しました。

ブラックホールとともに共通重心を公転する恒星の光は、恒星が地球へ近づくように動く時は光の波長が短く(青く)、地球から遠ざかるように動く時は光の波長が長く(赤く)といったように、ドップラー効果によって周期的に変化します。この変化は分光観測(※)で捉えることができるので、MUSEによる分光観測のデータからブラックホールを見つけられるかもしれないというわけです。

※…天体のスペクトル(波長ごとの電磁波の強さ)を捉える観測手法

▲今回用いられた観測手法のイメージ(動画)▲
ブラックホールを周回する恒星の光の波長が周期的に変化する様子を分光観測で捉えた
(Credit: ESO/L. Calçada, NASA/ESA/M. Romaniello. Acknowledgement: J.C. Muñoz-Mateos)

観測データを分析した結果、研究グループは約5.04日周期で公転するブラックホール連星(ブラックホールを含む連星)を発見しました。この連星は約11太陽質量のブラックホールと約5太陽質量の恒星から成るとみられており、MUSEは公転にともなって恒星の光の波長が変化する様子を捉えていました。

発表によると、これまで天の川銀河以外の銀河で見つかった恒星質量ブラックホールは、物質がブラックホールへ落下する際に放出されるX線を観測したり、ブラックホールが他のブラックホールもしくは中性子星と合体する際に放出された重力波を観測したりすることで検出されてきました。別の銀河に存在する恒星質量ブラックホールが近くに存在する恒星の動きをもとに検出されたのは、今回が初めてのことだとされています。

【▲口径8.2mの望遠鏡4基で構成されるヨーロッパ南天天文台の「超大型望遠鏡(VLT)」(Credit: ESO/H.H.Heyer)】

Saracinoさんは、今回の手法で他の星団を観測することに意欲を示しています。たとえば、NGC 1850のような若い星団で見つかった若いブラックホールと、より古い星団のブラックホールを比較することで、ブラックホールがどのように成長するのかを理解できるかもしれません。さらに、星団に存在するブラックホールの統計データが得られれば、重力波望遠鏡によって検出されている重力波の発生源についての理解が深まるといいます。

また、Saracinoさんは、ESOがチリのセロ・アルマゾネス山で建設を進めている次世代の大型望遠鏡「欧州超大型望遠鏡(ELT:Extremely Large Telescope)」にも言及。より暗い星、より遠くの球状星団がELTによって観測できるようになれば、天文学者はさらに多くのブラックホールを検出できるようになると予想されることから「この分野に間違いなく革命がもたらされるでしょう」と期待を寄せています。

 

関連:お隣の銀河「大マゼラン雲」過去に別の銀河と合体していた証拠が見つかる

Image Credit: ESO/M. Kornmesser
Source: ESO
文/松村武宏

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