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原始惑星系円盤のリング構造は惑星移動の歴史を示す可能性、国立天文台のスパコンで解析

sorae.jp / 2021年11月18日 11時12分

アルマ望遠鏡が捉えた原始惑星系円盤のリング構造(左)とシミュレーション結果(右)の比較図。シミュレーション結果の点線は惑星の軌道、灰色はシミュレーションの範囲外であることを示す(Credit: 金川和弘,ALMA (ESO/NAOJ/NRAO))

【▲アルマ望遠鏡が捉えた原始惑星系円盤のリング構造(左)とシミュレーション結果(右)の比較図。シミュレーション結果の点線は惑星の軌道、灰色はシミュレーションの範囲外であることを示す(Credit: 金川和弘,ALMA (ESO/NAOJ/NRAO))】

茨城大学の金川和弘さんを筆頭とする研究グループは、チリの電波望遠鏡群「アルマ望遠鏡(ALMA)」によって観測されている原始惑星系円盤(若い星を取り囲むガスや塵でできた円盤)のリング構造について、円盤内で形成された惑星の歴史を示している可能性があるとする研究成果を発表しました。研究には国立天文台の天文学専用スーパーコンピューター「アテルイII」が用いられています。

■原始惑星系円盤のリング構造は惑星の移動前と移動後に合わせて2つ形成される可能性

太陽をはじめとした恒星は、ガスや塵が集まった低温の分子雲のなかでも特に高密度な部分が自らの重力で収縮し始めることで誕生すると考えられています。誕生したばかりの星は原始惑星系円盤に囲まれていて、惑星は円盤の中で形成されるとみられています。

原始惑星系円盤の姿は、近年実施されている高い精度の観測によって明らかになりつつあります。高精度の電波観測を行うアルマ望遠鏡も原始惑星系円盤を観測しており、「オリオン座GW星」や「PDS 70」といった若い星の周囲に形成されたリング構造が捉えられています。こうしたリング構造の成因は幾つか考えられていますが、その一つに数えられるのが惑星の存在です。

関連:塵のリングを持つ三重連星「オリオン座GW星」の周囲に系外惑星が存在する可能性

発表によると、原始惑星系円盤で誕生した惑星は周囲のガスと重力を介して影響し合い、惑星の軌道に沿ってガスや塵の密度が下がることで隙間(ギャップ)が生じることがシミュレーションによって確かめられているといいます。

惑星の存在によって生じた隙間の外側には塵がリング状に集まることが理論的に知られており、この塵の熱放射をアルマ望遠鏡が捉えることで、リング構造が観測されているとみられています。このことから、アルマ望遠鏡が捉えたリング構造のすぐ近くには惑星が存在する可能性が示唆されていたといいます。

アルマ望遠鏡によって観測された隙間(ギャップ)がある原始惑星系円盤と、原始惑星系円盤のシミュレーション結果を比較した図(Credit: 金川和弘,ALMA (ESO/NAOJ/NRAO))

【▲アルマ望遠鏡によって観測された隙間(ギャップ)がある原始惑星系円盤と、原始惑星系円盤のシミュレーション結果を比較した図(Credit: 金川和弘,ALMA (ESO/NAOJ/NRAO))】

従来の研究では、誕生した惑星が原始惑星系円盤に隙間を形成する上で、円盤内におけるガスの乱流が重要だと考えられてきたといいます。ただ、アルマ望遠鏡の観測によって、原始惑星系円盤の乱流は弱くて静かな流れが生じていることが分かってきたものの、弱い乱流の円盤で惑星が誕生した場合、塵のリングと惑星の関係がどうなるのかは理論的に解明されていなかったといいます。

そこで金川さんたちは国立天文台の「アテルイII」を使い、原始惑星系円盤の内部にある惑星、ガスの分布、塵の分布のふるまいについて、数値流体シミュレーションを通して分析を行いました。

その結果、誕生した惑星は重力を介したガスとの相互作用によって100万年ほどの時間をかけて原始惑星系円盤の中心へ向かって移動する(公転軌道の半径が小さくなる)こと、惑星は誕生した場所と移動後の場所でそれぞれ塵のリングを作ること、円盤の乱流が弱い場合は最初に作られた塵のリングが長期間存在できることが明らかになったといいます。

今回のシミュレーションで判明した内容を時系列順に並べると、以下のようになります。

1. 原始惑星系円盤で誕生した惑星はすぐ近くに塵のリングを形成する。
2. 周囲のガスと重力を介して影響を及ぼし合う惑星は、100万年ほどかけて中心に向かって移動する。
3. 移動を終えた惑星は新たに塵のリングを形成する。

つまり、誕生した惑星は移動前の「始点」と移動後の「終点」で合計2つのリング構造を作ることになります。

研究グループによるシミュレーションの結果、原始惑星系円盤で観測されるリング構造は「誕生した惑星によって始点のリングが形成された段階」「惑星が移動しながら形成するリングと取り残された始点のリングが共存する段階」「始点のリングが乱流によって消滅し、終点のリングだけが残った段階」といった段階を経ることが確かめられたといいます。発表によると、アルマ望遠鏡によって実際に観測された原始惑星系円盤のリング構造は、この3段階のどれかに対応すると考えられる構造を持つといいます。

アルマ望遠鏡が捉えた原始惑星系円盤のリング構造(下段)とシミュレーション結果(上段)を、惑星が移動する各段階に応じて時系列順に並べた比較図。シミュレーション結果の点線は惑星の軌道、灰色はシミュレーションの範囲外であることを示す(Credit: 金川和弘,ALMA (ESO/NAOJ/NRAO))

【▲アルマ望遠鏡が捉えた原始惑星系円盤のリング構造(下段)とシミュレーション結果(上段)を、惑星が移動する各段階に応じて時系列順に並べた比較図。シミュレーション結果の点線は惑星の軌道、灰色はシミュレーションの範囲外であることを示す(Credit: 金川和弘,ALMA (ESO/NAOJ/NRAO))】

こちらの画像はシミュレーション結果(上段)とアルマ望遠鏡の観測結果(下段)を比較したもので、3つの段階が左から時系列順に並べられています。研究グループは今回の結果を踏まえて、原始惑星系円盤では惑星が外側から内側へとダイナミックな移動を経て形成されるという、新しい惑星形成の描像を提唱しています。

今後は原始惑星系円盤にみられるリング構造をさらに多く観測することで、惑星の移動や進化の様子が明らかになると期待されています。また、次世代の大型望遠鏡によって中心近くに移動した惑星を実際に検出することができれば、今回の研究成果の裏付けになることが考えられるとのことです。

 

関連:暗黒物質が作り出した宇宙の構造を再現、国立天文台のスーパーコンピューターが活躍

Image Credit: 金川和弘,ALMA (ESO/NAOJ/NRAO)
Source: 国立天文台 / 茨城大学
文/松村武宏

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