地球の水の一部は太陽風によって生成された可能性、初代「はやぶさ」が持ち帰ったサンプルの分析結果から
sorae.jp / 2021年12月3日 11時23分
グラスゴー大学のLuke Daly博士を筆頭とする研究グループは、地球の水の起源に関する新たな研究成果を発表しました。今回の研究では、宇宙航空研究開発機構(JAXA)の小惑星探査機「はやぶさ」が訪れ、微量ながらも地球へサンプルを持ち帰ることに成功した小惑星「イトカワ」(25143 Itokawa)のサンプルが用いられています。
研究グループによると、私たちが住む地球に存在する水の一部は、太陽から吹き出す太陽風によって生成された可能性があるようです。
■太陽風にさらされた塵の表面直下で水分子が生成された可能性地球は太陽系の他の岩石惑星と比べて水が豊富で、表面の約7割が海に覆われています。地球の水の起源は長年に渡り研究の対象となっており、近年では初期の地球に有機物や水が豊富なC型小惑星や彗星が衝突したことで水がもたらされたのではないかと考えられています。
小惑星や彗星が水の供給源となった可能性を検証するために、研究者は水素の同位体の比率(同位体比)を調べてきました。水は水素(H)と酸素(O)が結びついてできた水分子(H2O)の集まりですが、水には水素の同位体である「重水素」(※)と酸素が結びついた「重水」がわずかに含まれています。重水は普通の水よりも重く(区別するために普通の水を「軽水」と呼ぶこともあります)、水に含まれる重水の割合は水が存在する環境に左右されるため、重水の割合が近ければ同じ起源を持つ水だと推測することができます。
※…水素の原子核は陽子1つで構成されるが、重水素の原子核は陽子1つと中性子1つで構成される
発表によると、過去の研究では地球へ落下した隕石のうちC型小惑星に対応する「炭素質コンドライト」と呼ばれる種類を対象に、隕石に含まれる水素の同位体比が地球の水と比較されたものの、同位体比が一致する隕石もあれば一致しない隕石もありました。平均すると、地球の海やマントルに存在する水は炭素質コンドライトと比べて重水素の比率がわずかに低いことから、地球にはC型小惑星や彗星だけでなく別の供給源からもたらされた水が存在するはずだといいます。
そこで研究グループは、C型とは異なる岩石質のS型小惑星「イトカワ」のサンプルに注目しました。研究グループがイトカワの微細なサンプルの表面から50ナノメートル(10万分の5ミリメートル)の内部を分析した結果、1立方メートルあたり約20リットルに相当する量の水が含まれていることが明らかになったといいます。
研究グループは、この水が太陽風によって生成されたと考えています。太陽から吹き出す太陽風の主な成分は水素イオン(陽子)です。Dalyさんによると、十分な大気を持たず太陽風にさらされる小惑星や月などの表面にある岩石は、表面から数十ナノメートル下まで届く水素イオンによって長い時間をかけて風化(宇宙風化)していくとともに、水素イオンの作用を受けた岩石から放出された酸素原子をもとに水分子が生成されるといいます。
Dalyさんは、このプロセスで生成される水分子が軽水(重水素を含まない普通の水)である点が重要だと指摘します。初期の太陽系には塵が大量に存在していたとみられていますが、この塵でも太陽風の作用によって表面直下で水分子が生成されていたことが考えられます。水を豊富に含むこれらの塵が小惑星や彗星とともに降り注いだことで地球に水をもたらし、地球の水の水素同位体比にも影響を与えたかもしれないというわけです。
また、太陽風が生成した水は、将来の有人宇宙探査で利用されることになるかもしれません。Dalyさんたちは、月や小惑星といった天体の表面でもイトカワと同じプロセスで水が生成された可能性があると考えており、表層の塵から直接水を得られる可能性に言及しています。水とは無縁に思える月や小惑星の表面ですが、将来は宇宙飛行士の生存に欠かせない水の供給源として利用されるかもしれません。
なお、2021年2月にはJAXAの仲内悠祐さんを筆頭とする研究グループから、大気を持たない月や小惑星などの表面に吹き付けた太陽風によってシンプルな反応で水分子が生成される可能性を示した研究成果が発表されています。これに先立つ2020年10月にはハワイ大学マノア校のCasey Honniballさんを筆頭とする研究グループから、月の南半球にあるクラヴィウス・クレーターにおいて水分子が検出されたとする研究成果が発表されており、月面全体に水が分布している可能性も指摘されています。
関連:月面で検出された水分子は従来の予想よりもシンプルな反応で生成されている可能性
Image Credit: JAXA
Source: グラスゴー大学 / ハワイ大学マノア校 / カーティン大学
文/松村武宏
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