複雑な有機分子を含むガス雲に囲まれた原始星、天の川銀河の最外縁部で発見
sorae.jp / 2021年12月4日 11時50分
【▲天の川銀河(右)の最外縁部で見つかった原始星とその周囲を取り巻く複雑な有機分子を含むガス雲(左)のイメージ図(Credit: 新潟大学)】
新潟大学の下西隆研究准教授を筆頭とする研究グループは、天の川銀河の中心から遠く離れた最外縁部において、何種類もの複雑な有機分子を含む化学的に豊かなガス雲に囲まれた原始星が見つかったとする研究成果を発表しました。天の川銀河の最外縁部で原始星およびそれを取り囲む有機分子を含んだガス雲が発見されたのは、今回が初めてのこととされています。
■原始的な環境でも天の川銀河内部と同様の効率で有機分子が生成されている可能性研究グループによると、この原始星は天の川銀河の中心から約6万2000光年離れた星形成領域「WB89-789」で見つかりました。研究グループがチリの電波望遠鏡群「アルマ望遠鏡(ALMA)」を使ってこの原始星を観測したところ、原始星を取り巻く有機分子のガス雲から炭素・酸素・窒素・硫黄・ケイ素といった元素を含む様々な分子を検出。その中には星間空間では比較的大きな有機分子(エタノール、ギ酸メチル、ジメチルエーテル、アセトアルデヒドなど)や、窒素を含む有機分子(アセトニトリル、プロピオニトリルなど)といった多種多様なものが含まれていたといいます。
天の川銀河は渦巻腕を持つ渦巻銀河のなかでも中心に棒状構造がある棒渦巻銀河に分類されています。発表によると、渦巻腕が存在する銀河円盤の半径はおよそ5万光年から6万5000光年とされていて、太陽系は天の川銀河の中心から約2万6000光年離れた場所にあると考えられています。太陽系の位置よりもさらに遠く、天の川銀河の中心から約4万4000光年以上離れた場所は外縁部、中心から約6万光年以上離れた場所は最外縁部と呼ばれており、今回原始星が見つかった星形成領域のある場所は最外縁部にあたります。
今回の発見におけるポイントは、この“天の川銀河の最外縁部”という原始星が見つかった場所にあるようです。発表によれば、天の川銀河の最外縁部では太陽系の近傍と比べて炭素・酸素・窒素といった重元素(水素やヘリウムよりも重い元素)が少なく、星形成の主な現場となる渦巻腕も最外縁部では見つかっていません。こうした最外縁部の特徴は天の川銀河の形成初期における原始的な環境と共通していることから、天の川銀河の最外縁部は過去の天の川銀河における星形成や星間物質を研究する上で重要な研究対象とみなされてきたといいます。
![](https://sorae.info/wp-content/uploads/2021/12/alma-hot-molecular-core-found-at-extreme-outer-galaxy-2.jpg)
【▲上:今回観測された原始星の電波のスペクトル(波長ごとの電磁波の強さ)。下:分子ごとの輝線(スペクトルのうち特定の波長で強度が高い部分)の分布例を示した画像。右下:今回観測された領域を赤外線で撮影した画像、原始星は中央の四角で囲まれた範囲に位置する(Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), 下西隆/新潟大学)】
研究グループが今回見つかった天体の化学組成と天の川銀河の内側にある同様の天体の化学組成を比較したところ、複雑な有機分子(今回の研究ではメタノールを比較)の存在する割合がとても似ていることが判明したとされています。このことは、天の川銀河最外縁部のように原始的な環境でも、天の川銀河の内側と同じような効率で複雑な有機分子が生成されている可能性を示唆するといいます。
ただ、今回見つかった原始星周辺のガス雲からは様々な有機分子が検出されたものの、天の川銀河の最外縁部で誕生した他の原始星もこのように化学的に豊かであるかどうかはわかっていません。太陽系のように有機物に富む環境は宇宙の歴史を通してありふれたものだったのか、それとも特殊なものなのか、有機物に富む惑星系へ進化するための条件は何だったのか。こうした疑問を解き明かす上で、アルマ望遠鏡などによる今後の観測に期待が寄せられています。
研究に参加した国立天文台の古家健次特任助教は「銀河系最外縁部のような重元素が少ない環境下でも、複雑な有機分子が効率的に作られることが今回の観測で明らかになりました。宇宙において有機分子がどのように作られるかについては未解明な部分も多いですが、異なる星形成環境における有機分子の観測と理論研究からの予測を比較することで、その謎に迫ることができると考えています」とコメントしています。
関連:重力レンズで拡大された初期宇宙の銀河の「ガス欠」 ハッブル&アルマが観測
Image Credit: 新潟大学
Source: 新潟大学 / 国立天文台
文/松村武宏
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