天の川銀河の巨大ブラックホール「いて座A*」これまでで最も正確な質量の推定値を算出
sorae.jp / 2021年12月17日 17時38分
ヨーロッパ南天天文台(ESO)やマックス・プランク地球外物理学研究所(MPE)などの研究者が参加する研究グループ「GRAVITYコラボレーション」は、天の川銀河の中心に存在が確実視されている超大質量ブラックホール「いて座A*(エースター)」(Sagittarius A*、Sgr A*)に関する最新の研究成果を発表しました。発表によると、今回実施された観測によって「いて座A*」の質量をこれまでで最も正確に推定することができたようです。
■研究グループは「いて座A*」の質量を太陽の430万倍と推定多くの銀河の中心には巨大なブラックホールが存在すると予想されています。たとえば「おとめ座」の方向約5500万光年先の楕円銀河「M87」には約65億太陽質量(1太陽質量=太陽1個分の質量)もあるとみられる超大質量ブラックホールが存在しており、国際協力プロジェクト「イベント・ホライズン・テレスコープ(EHT:Event Horizon Telescope)」によってそのシャドウ(影)が撮影されています。
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天の川銀河も例外ではなく、その中心にある「いて座A*」は約400万太陽質量の超大質量ブラックホールだと考えられています。ブラックホールそのものを光(電磁波)で観測することはできませんが、ブラックホールの周りを運動する星々の動きを観測・分析することで、間接的にブラックホールの質量を推定することが可能です。
「いて座A*」の周辺の星の動きは1990年代から観測が続けられており、中心となったReinhard Genzel(ラインハルト・ゲンツェル)さんとAndrea Ghez(アンドレア・ゲッズ)さんはその功績が認められたことで、2020年のノーベル物理学賞をRoger Penrose(ロジャー・ペンローズ)さんとともに受賞しています。
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▲今回観測された「いて座A*」周辺の星々の動きを示したアニメーション▲
(Credit: ESO/GRAVITY collaboration/L. Calçada)
MPEの所長を務めるGenzelさんも参加した今回の研究では、チリのパラナル天文台にある「超大型望遠鏡(VLT)」の観測装置「GRAVITY」を使って、2021年3月~7月にかけて「いて座A*」周辺の星々の動きが観測されました。観測データを分析した研究グループは「いて座A*」の質量を430万太陽質量と推定し、地球から「いて座A*」までの距離を2万7000光年と算出しました。
研究グループによると質量の推定値の精度は0.25パーセントで、これまでで最も正確な推定値とされています。なお、分析にはVLTによる過去の観測データに加えて、W.M.ケック天文台およびジェミニ天文台による観測データも用いられました。
発表によると、観測期間中の2021年5月下旬には「S29」と呼ばれる星が「いて座A*」から約130億km(地球から太陽までの距離の約90倍)まで接近し、秒速8740km(時速約3146万km、光速の約2.9パーセント)で通過する様子が観測されています。また、今回の観測ではこれまで未発見だった星が「いて座A*」の周辺で新たに発見されており、「S300」と名付けられました。
研究グループの名称にもなっているGRAVITYは、VLTを構成する口径8.2mの望遠鏡4基を連動させた「VLT干渉計(VLTI)」を利用する観測装置です。GRAVITYの主任研究員を務めるMPEのFrank Eisenhauerさんによると、VLTIを利用するGRAVITYでは、個々の望遠鏡で観測する場合と比べて20倍鮮明な天体の像を得られるといいます。今回の研究では精度をさらに高めるために機械学習(マシンラーニング)も利用されました。
GRAVITYは今後10年以内に感度をより高めた「GRAVITY+」へのアップデートが予定されています。また、ESOはチリのセロ・アルマゾネス山で口径39mの「欧州超大型望遠鏡(ELT)」の建設を進めています。研究グループはGRAVITY+やELTによる観測を通して「いて座A*」の回転速度についての情報が得られることに期待を寄せています。
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Image Credit: ESO/GRAVITY collaboration
Source: ESO / マックス・プランク研究所 / NOIRLab
文/松村武宏
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