天の川銀河の巨大ブラックホール「いて座A*」これまでで最も正確な質量の推定値を算出
sorae.jp / 2021年12月17日 17時38分
【▲天の川銀河中心の超大質量ブラックホールとみられる天体「いて座A*(Sgr A*)」周辺の星々の動き。左から:2021年3月30日、5月29日、6月24日、7月26日に観測されたもの(Credit: ESO/GRAVITY collaboration)】
ヨーロッパ南天天文台(ESO)やマックス・プランク地球外物理学研究所(MPE)などの研究者が参加する研究グループ「GRAVITYコラボレーション」は、天の川銀河の中心に存在が確実視されている超大質量ブラックホール「いて座A*(エースター)」(Sagittarius A*、Sgr A*)に関する最新の研究成果を発表しました。発表によると、今回実施された観測によって「いて座A*」の質量をこれまでで最も正確に推定することができたようです。
■研究グループは「いて座A*」の質量を太陽の430万倍と推定多くの銀河の中心には巨大なブラックホールが存在すると予想されています。たとえば「おとめ座」の方向約5500万光年先の楕円銀河「M87」には約65億太陽質量(1太陽質量=太陽1個分の質量)もあるとみられる超大質量ブラックホールが存在しており、国際協力プロジェクト「イベント・ホライズン・テレスコープ(EHT:Event Horizon Telescope)」によってそのシャドウ(影)が撮影されています。
関連:ブラックホールが撮影された楕円銀河「M87」地上と宇宙から同時観測した成果が発表される
天の川銀河も例外ではなく、その中心にある「いて座A*」は約400万太陽質量の超大質量ブラックホールだと考えられています。ブラックホールそのものを光(電磁波)で観測することはできませんが、ブラックホールの周りを運動する星々の動きを観測・分析することで、間接的にブラックホールの質量を推定することが可能です。
「いて座A*」の周辺の星の動きは1990年代から観測が続けられており、中心となったReinhard Genzel(ラインハルト・ゲンツェル)さんとAndrea Ghez(アンドレア・ゲッズ)さんはその功績が認められたことで、2020年のノーベル物理学賞をRoger Penrose(ロジャー・ペンローズ)さんとともに受賞しています。
関連:2020年の「ノーベル物理学賞」はブラックホールの研究に貢献した3名が選ばれる
▲今回観測された「いて座A*」周辺の星々の動きを示したアニメーション▲
(Credit: ESO/GRAVITY collaboration/L. Calçada)
MPEの所長を務めるGenzelさんも参加した今回の研究では、チリのパラナル天文台にある「超大型望遠鏡(VLT)」の観測装置「GRAVITY」を使って、2021年3月~7月にかけて「いて座A*」周辺の星々の動きが観測されました。観測データを分析した研究グループは「いて座A*」の質量を430万太陽質量と推定し、地球から「いて座A*」までの距離を2万7000光年と算出しました。
研究グループによると質量の推定値の精度は0.25パーセントで、これまでで最も正確な推定値とされています。なお、分析にはVLTによる過去の観測データに加えて、W.M.ケック天文台およびジェミニ天文台による観測データも用いられました。
発表によると、観測期間中の2021年5月下旬には「S29」と呼ばれる星が「いて座A*」から約130億km(地球から太陽までの距離の約90倍)まで接近し、秒速8740km(時速約3146万km、光速の約2.9パーセント)で通過する様子が観測されています。また、今回の観測ではこれまで未発見だった星が「いて座A*」の周辺で新たに発見されており、「S300」と名付けられました。
![](https://sorae.info/wp-content/uploads/2021/11/eso-vlt-very-large-telescope.jpg)
【▲口径8.2mの望遠鏡4基で構成されるヨーロッパ南天天文台の「超大型望遠鏡(VLT)」(Credit: ESO/H.H.Heyer)】
研究グループの名称にもなっているGRAVITYは、VLTを構成する口径8.2mの望遠鏡4基を連動させた「VLT干渉計(VLTI)」を利用する観測装置です。GRAVITYの主任研究員を務めるMPEのFrank Eisenhauerさんによると、VLTIを利用するGRAVITYでは、個々の望遠鏡で観測する場合と比べて20倍鮮明な天体の像を得られるといいます。今回の研究では精度をさらに高めるために機械学習(マシンラーニング)も利用されました。
GRAVITYは今後10年以内に感度をより高めた「GRAVITY+」へのアップデートが予定されています。また、ESOはチリのセロ・アルマゾネス山で口径39mの「欧州超大型望遠鏡(ELT)」の建設を進めています。研究グループはGRAVITY+やELTによる観測を通して「いて座A*」の回転速度についての情報が得られることに期待を寄せています。
![](https://sorae.info/wp-content/uploads/2020/03/eso1617e.jpg)
【▲「欧州超大型望遠鏡(ELT)」の想像図(Credit: ESO/L. Calçada/ACe Consortium)】
関連:天の川銀河の中心部では謎の何かが星の誕生を妨げていることが判明
Image Credit: ESO/GRAVITY collaboration
Source: ESO / マックス・プランク研究所 / NOIRLab
文/松村武宏
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