原始星周囲の円盤に塵が降り積もる「天空の降灰現象」国立天文台のスパコンで解析
sorae.jp / 2021年12月16日 21時0分
鹿児島大学の塚本裕介助教を筆頭とする研究グループは、生まれたばかりの若い星を取り囲むガスや塵(ダスト)でできた「原始惑星系円盤」の外縁部で塵が成長するメカニズムに迫った研究成果を発表しました。研究グループによると、従来は原始惑星系円盤の外縁部で塵が成長し惑星が形成されるのは困難だと考えられてきたものの、今回の成果は原始惑星系円盤外縁部でも惑星が形成され得る可能性を示唆するといいます。
■火山の降灰に似たメカニズムで原始惑星系円盤外縁部に塵が降り積もっている可能性地球や木星をはじめ、太陽系外でも4500個以上が見つかっている惑星は、生まれたばかりの星(原始星、中心星)を取り囲む原始惑星系円盤のなかで形成されると考えられています。円盤のなかでは小さな塵が合体して数多くの微惑星が形成され、微惑星どうしが衝突を繰り返すことで原始惑星へ成長するとみられています。
原始惑星系円盤のガスや塵は原始星を公転していますが、研究グループによると、円盤内で成長した塵は向かい風のように作用するガスの働きによって公転運動がさまたげられ、原始星に向かって急速に落下していく(ダストの中心星落下)ことが理論上予想されています。この現象により、原始星から数十天文単位(※)離れた原始惑星系円盤の外縁部では、塵が成長して惑星が形成されるのは非常に困難だと考えられてきたといいます。
※…1天文単位(au)=約1億5000万km、地球から太陽までの平均距離に由来
ところが近年、チリの電波望遠鏡群「アルマ望遠鏡(ALMA)」による原始惑星系円盤の観測から、円盤の外縁部でも塵が大きく成長している兆候が確認されたり、原始星から数十天文単位離れた場所に惑星の存在を示す可能性がある円盤の隙間が発見されたりしています。こうした理論上困難だと予想されている場所での塵の成長や惑星の形成を説明できる理論的なメカニズムは、これまで謎に包まれていました。
研究グループは今回、原始惑星系円盤内部のガスと成長する塵、双方の運動を考慮した三次元磁気流体力学シミュレーションを国立天文台の天文学専用スーパーコンピューター「アテルイII」を使用して実施しました。研究グループや国立天文台によると、今回のシミュレーションは世界初の試みとされています。シミュレーションの結果、研究グループは塵が原始星に落下することなく成長する新たなメカニズムを発見するに至りました。
今回研究グループが発見したメカニズムは次の通りです(数字は上の図に対応)。円盤内で成長した塵(ダスト)はガスの作用によって中心の原始星に向かって移動します(1)。原始星の近くに到達した塵は、円盤の垂直方向に噴出するガスのアウトフロー(ガスの流れ)によって巻き上げられます(2)。巻き上げられた塵は遠心力によってアウトフローから分離し(3)、やがて原始惑星系円盤の外縁部へと降り積もります(4)。
火山から噴煙として放出されたガスと灰の混合物が大気中で分離し、灰だけが地表に降り積もる「降灰」とこのメカニズムが似ているとして、研究グループはこの現象を「天空の降灰現象」と呼んでいます。研究グループによると、密度が低い原始惑星系円盤の外縁部ではガスから受ける抵抗が小さくなるため、降り積もった塵は大きく成長して惑星の形成につながる可能性があるといい、困難だと思われてきた原始惑星系円盤外縁部における惑星形成を説明し得る成果だとされています。
シミュレーションを行った塚本さんは、実際に桜島の噴火を日々眺めるなかで研究の着想を得たといいます。塚本さんによると、「天空の降灰現象」では地球の質量の1割ほどに匹敵する塵が1年で降り積もるといいます。「こうして円盤に降り積もった灰が、私たちが住む地球のような惑星や、さらには私たちのような生命の素になったのかもしれません」(塚本さん)
研究グループでは今後、さらなるシミュレーションを行って塵の運動やサイズの分布を解明し、アルマ望遠鏡の観測を通して今回発見した「降灰モデル」の検証を行うとしています。
関連:原始惑星系円盤のリング構造は惑星移動の歴史を示す可能性、国立天文台のスパコンで解析
Image Credit: 鹿児島大学
Source: 鹿児島大学 / 国立天文台
文/松村武宏
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