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「Ia型超新星」発生直後の閃光を捉えることに成功 東京大学木曽観測所の観測装置

sorae.jp / 2021年12月18日 18時23分

超新星「SN 2020hvf」発生直後の様子を描いた想像図。超新星によって放出された物質が白色矮星周辺の物質に衝突することで閃光が生じたと考えられている(Credit: 東京大学木曽観測所)

【▲超新星「SN 2020hvf」発生直後の様子を描いた想像図。超新星によって放出された物質が白色矮星周辺の物質に衝突することで閃光が生じたと考えられている(Credit: 東京大学木曽観測所)】

東京大学国際高等研究所・カブリ数物連携宇宙研究機構(Kavli IPMU)の姜継安(ジャン・ジアン)特任研究員を筆頭とする研究グループは、通常よりも明るい特異な「Ia型超新星」における爆発直後の閃光を捉えることに成功し、この超新星が通常のIa型超新星とは異なる進化の過程を経たものであることが明らかになったとする研究成果を発表しました。

研究グループは今回の成果について、宇宙の距離測定にも用いられているIa型超新星のメカニズムを解明する手がかりになるとともに、特異なIa型超新星の起源につながると期待を寄せています。

■超新星が発生した直後の閃光を観測装置「トモエゴゼン」が捉えた 白色矮星「シリウスB」(左)と地球(右)を比べたイメージ図(Credit: ESA/NASA)

【▲ 白色矮星「シリウスB」(左)と地球(右)を比べたイメージ図(Credit: ESA/NASA)】

太陽のように比較的軽い恒星(質量が太陽の8倍以下)は、その晩年に大きく膨らんだ赤色巨星に進化し、外層から周囲へとガスや塵を放出した後にコア(中心核)だけが残った白色矮星に進化する考えられています。白色矮星は高密度な天体で、直径は地球と同じくらいですが、一般的な質量は太陽の半分~同程度とされています。白色矮星は核融合反応を起こさず予熱で輝く天体なので(※)、恒星としては死を迎えた姿とも言えます。

※…白色矮星の表層に残った水素の核融合反応が起きる可能性も指摘されています。関連:一部の白色矮星では表層で水素の安定した核融合反応が起きている可能性

この白色矮星が別の恒星と連星を成していた場合、恒星のガスが白色矮星に引き寄せられて表面に降り積もることがあります。ガスが降り積もることで白色矮星は徐々に重くなっていきますが、質量がある上限を超えたときに炭素の暴走的な核融合反応が発生し、白色矮星が吹き飛ぶと考えられています。これが「Ia型超新星」と呼ばれる現象です。Ia型超新星が起きるかどうかの境目となる白色矮星の上限質量は太陽の約1.4倍とされていて、「チャンドラセカール限界質量」と呼ばれています。

【▲ 白色矮星(右上)と恒星(左下)からなる連星を描いた想像図(Credit: University of Warwick/Mark Garlick)】

研究グループによると、Ia型超新星は明るさが太陽の約50億倍と非常に明るく、真の明るさにばらつきがほとんどないことが知られています。この「真の明るさがほぼ一定」という特徴が重要で、Ia型超新星は真の明るさと観測された見かけの明るさをもとに地球からの距離を割り出すことができます。このような天体は「標準光源」と呼ばれています。研究者は遠くの銀河までの距離を測定したり現在の宇宙の膨張率(ハッブル定数)を算出したりする上で、Ia型超新星を標準光源のひとつとして利用しています。

このように宇宙論の研究でも重宝される天体でありながら、Ia型超新星では爆発を引き起こす天体や爆発の引き金といった基本的な部分がまだ未解明だと研究グループは指摘します。たとえば、前述のように恒星から白色矮星に一部の物質が移動する場合だけでなく、白色矮星が恒星や別の白色矮星と合体する場合でも、チャンドラセカール限界質量を超えてIa型超新星が起きる可能性があります。また、Ia型超新星を起こす白色矮星の中心密度が一定ではないとする研究成果も最近発表されています。

関連:最も高密度な白色矮星によるIa型超新星の痕跡

東京大学木曽観測所の観測装置「Tomo-e Gozen(トモエゴゼン)」(Credit: 東京大学木曽観測所)

【▲東京大学木曽観測所の観測装置「Tomo-e Gozen(トモエゴゼン)」(Credit: 東京大学木曽観測所)】

こうした基本的な謎を解明するために、研究グループは東京大学木曽観測所の105cmシュミット望遠鏡に設置されている観測装置「Tomo-e Gozen」(トモエゴゼン、名称は「巴御前」に由来)を使い、爆発から1日以内のIa型超新星を捉えるべく観測を行っています。

84個のCMOSセンサーで構成されるトモエゴゼンは20平方度(満月84個分)という広い視野を一度に捉え、毎秒2回の頻度で動画撮影を行うことができる観測装置です。広い視野を高い頻度で観測することで、超新星爆発のようにいつどこで発生するか予想できない突発的な天文現象を捉えることがトモエゴゼンには期待されています。

「トモエゴゼン」が設置されている105cmシュミット望遠鏡(Credit: 東京大学木曽観測所)

【▲「トモエゴゼン」が設置されている105cmシュミット望遠鏡(Credit: 東京大学木曽観測所)】

今回研究グループが注目したのは、2020年4月21日に観測された超新星「SN 2020hvf」(Tomo-e202004aaelb)でした。SN 2020hvfは「しし座」の方向にある銀河「NGC 3643」の近くで検出されたIa型超新星で、トモエゴゼンは発生から約5時間しか経っていない段階におけるSN 2020hvfの様子を捉えていたといいます。

研究グループによると、SN 2020hvfは爆発直後に短い閃光を発してから一旦暗くなり、その後で通常のIa型超新星のように再び明るくなるという明るさの変化を短時間で示しました。近年ではIa型超新星の発生直後に生じた閃光の観測例が幾つかあるものの、SN 2020hvfのように1日以内で光度の大きな変化を示した例はなかったといいます。また、国内外の望遠鏡による追加観測のデータを研究グループが分析したところ、SN 2020hvfがIa型超新星のなかでも最も明るい特異なタイプだったことが明らかになりました。

「トモエゴゼン」の観測画像(上段)と超新星「SN 2020hvf」の明るさの変化(下段)を示した図。左の画像では爆発直後の閃光が捉えられており、中央の画像では一旦暗くなっているが、右の画像では再び明るくなり始めた様子が捉えられている(Credit: Kavli IPMU/東京大学)

【▲「トモエゴゼン」の観測画像(上段)と超新星「SN 2020hvf」の明るさの変化(下段)を示した図。左の画像では爆発直後の閃光が捉えられており、中央の画像では一旦暗くなっているが、右の画像では再び明るくなり始めた様子が捉えられている(Credit: Kavli IPMU/東京大学)】

さらに、初期に観測された閃光が生じ得る環境をシミュレーションで調べた結果、爆発前の白色矮星の周囲には大量の物質(星周物質)が存在しており、超新星によって放出された物質が周囲の物質に衝突してエネルギーが放出されたとすれば、閃光が発生した理由を説明できることも示されました。冒頭の画像はその様子を描いた想像図です。

つまり、爆発初期に閃光が観測されたSN 2020hvfは、白色矮星を含む連星が爆発に至る進化の過程で周囲に大量の物質を放出していた可能性があります。この過程が通常のIa型超新星とは異なるとして、研究グループは今回の成果が特異なIa型超新星のメカニズムとして提案されている理論を調べる上での手がかりになると期待しています。

また、研究グループは今後も爆発初期の超新星発見と即時追加観測を計画しており、観測を通して一般的なIa型超新星の起源についても理解が進み、より正確な宇宙膨張の測定において貢献を果たせることに期待を寄せています。

 

関連:2037年に出現? 1つの超新星の4つ目の光が予測される

Image Credit: 東京大学木曽観測所
Source: Kavli IPMU
文/松村武宏

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