「はやぶさ2」採取のサンプルから判明、小惑星「リュウグウ」は水・有機物に富み始原的
sorae.jp / 2021年12月23日 17時10分
宇宙航空研究開発機構・宇宙科学研究所(JAXA/ISAS)の矢田達さんを筆頭とする研究グループは、JAXAの小惑星探査機「はやぶさ2」が地球へ持ち帰った小惑星「リュウグウ」(162173 Ryugu)のサンプルについて、詳細な分析に先立って行われたキュレーション(サンプルのカタログ化と後の科学分析に役立つ情報提供を目的とした作業)における初期記載に関する成果を発表しました。
■水と有機物が豊富で始原的な小惑星であることがサンプルの初期記載から判明2014年12月に打ち上げられた「はやぶさ2」は2018年6月にリュウグウへ到着し、2019年2月と7月に合計2回のサンプル採取(タッチダウン)を実施しました。リュウグウは地球へ落下した様々な隕石のなかでも有機物が豊富で始原的な「炭素質コンドライト」に対応する「C型小惑星」に分類されています。「はやぶさ2」は世界で初めてC型小惑星の“新鮮な”サンプルを地球へ持ち帰ることに成功しており、地球で回収された炭素質コンドライトとあわせて、太陽系形成期の理解がより深まると期待されています。
2020年12月にオーストラリアのウーメラ制限区域へ着陸した「はやぶさ2」の再突入カプセルには合計5.4gのサンプルが収められていました。サンプルはカプセル内部のサンプルキャッチャーと呼ばれる3部屋に仕切られた空間に入っており、1回目と2回目のサンプルを別々の部屋に入れることで(1回目はA室、2回目はC室)採取されたサンプルが混ざらないように工夫されていました。
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初期記載とは、サンプルのキュレーション初期において、粒子の顕微鏡画像撮影やサイズ・重量・形状などの情報を取得する作業を指します。研究グループによると、サンプルの顕微鏡画像から推定された体積と測定された粒子の重量をもとに個々の粒子のかさ密度(粒子表面の細孔や内部の隙間を含む)を算出したところ、その平均値は1282kg/m3でした。A室(1回目のタッチダウンで採取)とC室(同2回目)のサンプルではかさ密度の分布に大きな違いはみられなかったといいます。
研究グループは、地球に落下した炭素質コンドライトのうち太陽系の平均組成に最も近いという始原的な「CIコンドライト」のかさ密度が2120kg/m3、最も密度が低い隕石「タギシュ・レイク隕石」(2000年1月にカナダへ落下)のかさ密度が1660kg/m3であることから、リュウグウのサンプルはあらゆる既知の隕石よりもかさ密度が低いことがわかったとしています。
また、「はやぶさ2」の中間赤外カメラ「TIR」による観測データからは、リュウグウの空隙率(土壌や岩石などに含まれる隙間の体積割合)が30~50パーセントと推定されています。研究グループによれば、リュウグウのサンプルの粒子密度(粒子内部の隙間は含むが表面の細孔は含まない)がCIコンドライトと同等だと仮定してリュウグウの空隙率を求めると46パーセントになるといい、中間赤外カメラの観測結果に矛盾しないとされています。
さらに、サンプル全体の赤外反射スペクトル(波長ごとの電磁波の強さ)を測定したところ、有機物や炭酸塩鉱物、典型的な含水鉱物である層状ケイ酸塩鉱物などの存在を示す結果が得られたといいます。そのいっぽう、顕微鏡を用いた観察では0.1~数mmサイズの球形をしたコンドリュールや、アルミニウムやカルシウムを豊富に含む0.1~10mmサイズのCAI(calcium-aluminium–rich inclusion)といった、高温の環境で生成される包有物は見当たらなかったといいます。
こうした結果から研究グループは、リュウグウから採取されたサンプルは水や有機物が豊富であり、隕石のなかでは炭素質コンドライトのうち最も始原的なCIコンドライトに似ているものの、密度と反射率が低い点では異なることが明らかになったとしています。
研究グループは今回の成果について、今後行われる詳細なサンプルの分析で参照される情報を提供できたと同時に、今後国内外で実施されるサンプルリターンミッションのキュレーション初期段階における標準とすべき好例になったとしています。
関連:水に浮くほど低密度で始原的な岩がリュウグウに存在、「はやぶさ2」の観測データから判明
Image Credit: JAXA
Source: JAXA/ISAS
文/松村武宏
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