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星を公転していない「自由浮遊惑星」少なくとも70個が新たに見つかる

sorae.jp / 2021年12月25日 18時56分

「自由浮遊惑星」の想像図。背景には太陽系に比較的近い星形成領域「へびつかい座ロー分子雲」が描かれている(Credit: ESO/M. Kornmesser)

【▲「自由浮遊惑星」の想像図。背景には太陽系に比較的近い星形成領域「へびつかい座ロー分子雲」が描かれている(Credit: ESO/M. Kornmesser)】

ボルドー天体物理学研究所/ウィーン大学の天文学者Núria Miret-Roigさんを筆頭とする研究グループは、恒星を公転していない惑星質量の天体「自由浮遊惑星」(英:free-floating planet、rogue planet。浮遊惑星、はぐれ惑星とも)を新たに複数発見したとする研究成果を発表しました。今回見つかった自由浮遊惑星とみられる天体の数は少なく見積もっても70個、多ければ170個に上るといい、研究グループは自由浮遊惑星の起源や特徴を理解する上で重要なステップになったとしています。

■自由浮遊惑星を多数発見、起源の謎に迫る手がかりとなるか

私たちが住む地球をはじめとした惑星は、恒星などの周囲を公転する天体です。太陽系では現在8つの惑星が知られていますが、太陽以外の天体を公転する太陽系外惑星もすでに4800個以上が見つかっています。惑星の質量の上限は木星の13~15倍程度とされていて、これより重くて恒星ではない天体(質量が木星の75~80倍程度以下)は褐色矮星と呼ばれています。

ところが、近年では恒星などを公転していない惑星質量の天体が発見されるようになりました。このような天体は「自由浮遊惑星」などと呼ばれています。研究グループによると、自由浮遊惑星は恒星の周囲で形成された後に何らかの原因(他の惑星との相互作用など)で惑星系から放り出されてしまった惑星ではないかと考えられているものの、恒星を生み出すには質量が少なかった星間雲(宇宙空間に存在するガスや塵の高密度な集まり)から形成された……つまり一度も恒星を公転することがなかった天体である可能性もあるといい、起源がはっきりしていないといいます。

今回検出された自由浮遊惑星の候補天体の位置を示した図。本文で触れているように、検出された天体が自由浮遊惑星であるかどうかは年齢に左右されるが、ここでは幅がある推定年齢のうち中程度の年齢だった場合の候補115個の位置が示されている(Credit: ESO/N. Risinger (skysurvey.org))

【▲今回検出された自由浮遊惑星の候補天体の位置を示した図。本文で触れているように、検出された天体が自由浮遊惑星であるかどうかは年齢に左右されるが、ここでは幅がある推定年齢のうち中程度の年齢だった場合の候補115個の位置が示されている(Credit: ESO/N. Risinger (skysurvey.org))】

研究グループは今回、チリのパラナル天文台にあるヨーロッパ南天天文台(ESO)の「超大型望遠鏡(VLT)」、国立天文台ハワイ観測所の「すばる望遠鏡」、欧州宇宙機関(ESA)の宇宙望遠鏡「Gaia(ガイア)」などで取得された観測データ約20年分を参照し、さそり座とへびつかい座にまたがる太陽系に比較的近い星形成領域で自由浮遊惑星を捜索しました。その結果、冒頭でも触れたように少なくとも70個、多ければ170個の自由浮遊惑星が見つかったといいます。Miret-Roigさんは「これほどの数が見つかったことにワクワクしました」と語ります。

自由浮遊惑星はそもそも発見することが難しい天体です。恒星を公転する系外惑星の場合、恒星の光を反射した系外惑星を直接撮像できる場合がありますし、直接撮像が無理でも惑星が恒星の手前を横切って光の一部をさえぎったり(トランジット法)、公転する惑星が恒星を揺さぶったり(視線速度法、ドップラーシフト法)する様子を恒星の観測を通して捉えることで、間接的にその存在を検出することも可能です(系外惑星の検出方法については以下の関連記事もご参照下さい)。

関連:31光年先に最軽量級の超短周期惑星が見つかる。公転周期は約8時間

しかし、自由浮遊惑星は宇宙を孤独に漂っているので、主星である恒星の光を頼ることができません。過去の研究では、移動する自由浮遊惑星が恒星と地球の間に偶然入り込んだ時に生じる「重力マイクロレンズ」(※)効果なども利用してその存在が検出されてきました。今回の研究では、可視光線と赤外線を利用して取得された膨大な観測データをもとに、およそ2600万個もの天体の位置・明るさ・動きについての情報をまとめ、そのなかから非常に暗い天体である自由浮遊惑星を見つけ出すことに成功しています。

※…遠くにある恒星(光源)と地球の間を別の天体(レンズ天体)が通過する際に、光源を発した光の進む向きがレンズ天体の重力の影響を受けて曲がることで、時間とともに光源の明るさが変化する現象

【▲パラナル天文台の「VLTサーベイ望遠鏡」と「VISTA望遠鏡」の観測データをもとに作成された画像。画像中央に写る小さな赤い点が自由浮遊惑星の発した光(赤外線)とされる(Credit: ESO/Miret-Roig et al.)】

ただし、今回の方法で見つかった自由浮遊惑星の数は、その年齢に左右されます。発表によると、自由浮遊惑星は形成されてから時間が経つにつれて温度が下がり、明るさは暗くなります。また、質量が小さいものほど温度が下がりやすく、大きいものほど下がりにくくなります。ある明るさで検出された自由浮遊惑星について考えると、年齢が新しければ質量は小さく、年齢が古ければ質量は大きいという関係が成り立つことになります。

今回、研究グループは自由浮遊惑星の明るさを分析することはできたものの、質量についての情報はありませんでした。観測データから見つかった自由浮遊惑星とみられる天体のうち比較的明るいものについては、年齢が古い場合には質量が「惑星」の範囲(ここでは木星の13倍まで)を超えている可能性があるといいます。

検出された自由浮遊惑星はどれも同じような時期に形成されたと考えられていますが、推定される形成時期には不確かさがあります。そのため、今回見つかった自由浮遊惑星の数は推定年齢が最も古ければ70個、最も新しければ170個といったように、幅を持たせた数になっているわけです。

また、前述のように自由浮遊惑星はその起源がまだ明らかではありませんが、今回検出された自由浮遊惑星の数は星間雲から形成されたと考えるには多すぎるといい、恒星の周囲で形成された後に惑星系から放り出された惑星が多くを占める可能性を研究グループは指摘しています。

研究に参加したボルドー天体物理学研究所の天文学者Hervé Bouyさんによれば、自由浮遊惑星の数は天の川銀河だけでも数十億個に達する可能性があるといいます。研究グループは、今回検出された自由浮遊惑星がその起源を理解する上で手がかりになることを期待するとともに、ESOが建設を進めている次世代の大型望遠鏡「欧州超大型望遠鏡(ELT)」や、新型宇宙望遠鏡「ジェイムズ・ウェッブ」による自由浮遊惑星の観測にも期待を寄せています。

 

関連:自由浮遊惑星に生命が存在する可能性を探る 最新研究を紹介

Image Credit: ESO/M. Kornmesser
Source: ESO / 国立天文台
文/松村武宏

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