ブルーオリジン、アリアンスペース…新型ロケット「就航」予定に遅れ? その理由とは
sorae.jp / 2022年1月3日 11時51分
Amazon創業者ジェフ・ベゾス氏が出資したブルーオリジンと、欧州宇宙機関(ESA)が「アリアン」ロケットの打ち上げを委託するアリアンスペースは、2022年に新型ロケットの打ち上げを予定しています。両社の経営者は2022年にロケットを「就航」させる準備があると発表している一方で、この就航が2022年末以降に後倒しされる可能性があるといいます。
2022年第2四半期に延期されるブルーオリジンのニュー・グレン打ち上げ![ブルーオリジンが打ち上げ予定の「ニュー・グレン」の想像図(Credit: Blue Origin)](https://sorae.info/wp-content/uploads/2021/12/image2-1.jpg)
【▲ブルーオリジンが打ち上げ予定の「ニュー・グレン」の想像図(Credit: Blue Origin)】
約40ヶ国から約180名の宇宙開発企業経営者が参加したEuroconsult社主催のサミット「World Satellite Business Week」が、12月12日~16日にパリで開催されました。新規のロケット打ち上げや市場、法規に関して話し合う「打ち上げサービスのリーダーたち」と題したパネルディスカッションでは、ブルーオリジンの上席副社長であるJarrett Jones氏が、大型ロケット「ニュー・グレン」の打ち上げが2022年の第4四半期から後倒しになることを発表しました。
ブルーオリジンは、商用ロケット打ち上げの準備として、さまざまな免許を取得中です。そのひとつが、オハイオ州にある米国航空宇宙局(NASA)のニール・A・アームストロング実験施設で行われるペイロードフェアリングの試験です。試験の第1ステージは2022年初頭に完了する予定でしたが、同時進行している飛行用ハードウェアの製造で、設計が原因のリスクがあると判明。Jones氏は「免許を2022年に取得しロケットを製造することを希望するが、叶わない場合には、同年の終わりまでに打ち上げロケットを製造するだろう」と述べています。
また、ブルーオリジンが開発・製造するロケットエンジン「Blue Engine-4」(以下、BE-4)の出荷時期も、新型ロケット打ち上げ計画の進捗を左右するカギとなりそうです。
BE-4はニュー・グレンの第1段だけでなく、ユナイテッド・ローンチ・アライアンス(以下、ULA)が開発中の大型ロケット「ヴァルカン」の第1段にも2基搭載される予定です。ULAのCEOであるTory Bruno氏は2021年末までにBE-4を受け取ることを希望していると8月に回答したものの、12月3日になっても届いていないといいます。ULAの副社長Mark Peller氏によると、BE-4の出荷は少なくとも2022年の4月まで後倒しになり、ヴァルカン最初の打ち上げは2023年にまで遅れる見通しのようです。
アリアンスペースのアリアン6も打ち上げが遅れる見通し![アリアンスペースが打ち上げ予定の「アリアン6」ロケットの想像図(Credit: Arianspace)](https://sorae.info/wp-content/uploads/2021/12/image1-1.jpg)
【▲アリアンスペースが打ち上げ予定の「アリアン6」ロケットの想像図(Credit: Arianspace)】
上述のパネルディスカッションには、アリアンスペースのCEOであるStephane Israel氏も登壇しました。同社は2022年に新型の「アリアン6」ロケット最初の打ち上げを計画していますが、Israel氏は2022年第2四半期の打ち上げ計画について、日程としては早すぎるという見解を示しています。
同社が開発・運用している世界最大級の打ち上げロケット「アリアン5」は間もなく退役する予定のため、アリアン6の就航スケジュールは重要です。先日実施された米国航空宇宙局(NASA)の「ジェイムズ・ウェッブ」宇宙望遠鏡の打ち上げ以降も、アリアン5の打ち上げは2022年後半から2023年前半まで5基以上続くといいます。アリアン6の打ち上げがスケジュール通りに進行すると、同社の2種類の打ち上げロケットの運用には重複期間が存在します。
しかし、欧州宇宙機関(ESA)は12月7日に、当初予定されていたアリアン6の最初の打ち上げが少なくとも2022年の第3四半期まで遅れると公表しています。
地政学的リスクが打ち上げロケットの選択肢を減少させる恐れ商用ロケットの打ち上げサービスを提供するインターナショナル・ローンチ・サービス(以下、ILS)の社長であるTiphaine Louradour氏は「新しい打ち上げロケットの導入は、宇宙開発企業が商用目的で利用する機会を創出する」と述べます。ILSはロシアのクルニチェフとエネルギア、米国のロッキード・マーチンが1995年に設立した合同会社であり、ロシアのロケット「プロトン」や「ソユーズ」を用いた商用打ち上げサービスを提供しています。
現在、SpaceXの「ファルコン9」、ロシアの「プロトン」および「ソユーズ」という3つのロケットが運用中で、ULAの「アトラス5」とアリアンスペースの「アリアン5」は既に売り切れ。宇宙航空研究開発機構(JAXA)と三菱重工業が共同開発した「H-II」ロケットは「H-III」ロケットへと移行する最中です。
打ち上げロケットの選択肢には、ロシアによるウクライナ侵攻の影響といった地政学的なリスクにより減る可能性があるといいます。プロトンやソユーズはロシアのロケットであるためです。もしもニュー・グレンやアリアン6の就航が遅れれば、欧米の宇宙開発企業が利用できる打ち上げロケットは「ファルコン9」や「ファルコン・ヘビー」だけになる恐れがあるでしょう。
Louradour氏はこう述べます。
「もし私が商用衛星事業主であるなら(商用打ち上げロケットの選択肢が減ることに対して)非常に不安になります。(ロシアとパイプをもつ)我々ILSは、こうした不安の声に耳を傾けるでしょう」。
Image Credit: Blue Origin
Source: SpaceNews
文/Misato Kadono
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