5500光年先で「太陽系外衛星」の候補が見つかる、木星サイズの系外惑星を公転か
sorae.jp / 2022年1月19日 21時0分
【▲ 太陽系外惑星「ケプラー1708b」(右)と太陽系外衛星候補「ケプラー1708b-i」(左)の想像図(Credit: Helena Valenzuela Widerström)】
コロンビア大学のDavid Kippingさんを筆頭とする研究グループは、観測史上2例目となる「太陽系外衛星」の候補が見つかったとする研究成果を発表しました。太陽系外衛星とは、太陽以外の恒星などを公転する「太陽系外惑星」を公転する衛星のこと。Kippingさんたちは2018年10月にも観測史上初となる太陽系外衛星候補の発見を報告しており、今回の系外衛星候補も含めて確認が待たれます。
■地球よりも2.6倍大きな「衛星」が木星サイズの惑星を公転している可能性今回報告されたのは「はくちょう座」の方向およそ5500光年先にある系外惑星「ケプラー1708b」を公転するとされる衛星の候補です。研究グループからは「ケプラー1708b-i」と呼ばれています。系外惑星ケプラー1708bは直径が木星の約0.89倍、質量が木星の4.6倍未満で、太陽に似た恒星「ケプラー1708」(太陽と比べて直径が約1.11倍、質量が約1.09倍)から約1.6天文単位(※)離れた軌道を約737日周期で公転しているとみられています。
※…1天文単位(au)は約1億5000万km、地球から太陽までの平均距離に由来
研究グループによると、系外衛星候補ケプラー1708b-iは直径が地球の約2.61倍で質量は地球の37倍未満、ケプラー1708bを約4.6日周期で公転していると推定されています。あくまでも系外衛星「候補」の段階ではありますが、木星サイズの惑星とされるケプラー1708bに対して直径比で約0.26倍、質量比で0.11倍未満という比較的大きな衛星の可能性があるようです。
太陽系では「衛星」という天体の存在はごくありふれています。地球の月はもとより、木星や土星では数十個の衛星が見つかっていますし、小惑星のなかにも衛星を持つものがあります。すでに4800個以上が確認されている系外惑星のなかにも衛星を持つものがあるかもしれませんが、現在までに存在が確認された系外衛星はまだありません。
惑星よりも小さな天体である衛星を太陽系外で発見するために、Kippingさんたちは数多くの衛星を持つ木星や土星のように公転周期が比較的長く、主星である恒星から離れた軌道を公転する低温の巨大ガス惑星に注目。「直径が木星の2倍以下」「公転周期が400日を超える」といった条件で選出した70個の系外惑星について、2018年11月に運用を終えたアメリカ航空宇宙局(NASA)の宇宙望遠鏡「Kepler(ケプラー)」による観測データを用いて衛星が存在する可能性を調べました。
【▲ 系外惑星のトランジットによって恒星の明るさが変化する様子を示した動画(Credit: ESO/L. Calçada)】
ケプラー宇宙望遠鏡は「トランジット法」を用いて観測を行いました。トランジット法とは、惑星が恒星の手前を横切る「トランジット」という現象を起こした時に恒星の明るさがごくわずかに暗くなる様子を捉えることで、間接的に系外惑星の存在を検出する手法です。分析の結果、70個の系外惑星のうちたった1つ、ケプラー1708bだけに衛星の存在を示唆する信号が確認されました。研究グループによると、誤検出の確率は1パーセントとされています。
冒頭でも少し触れたように、Kippingさんたちは以前にも系外衛星を探すためにケプラー宇宙望遠鏡や「ハッブル」宇宙望遠鏡の観測データを分析しており、2018年10月には約7500光年先の系外惑星「ケプラー1625b」を公転しているとみられる系外衛星候補「ケプラー1625b-i」を報告しています。ケプラー1625bの直径は木星とほぼ同じですが、その衛星候補であるケプラー1625b-iは海王星ほどのサイズがあるとされています。
![](https://sorae.info/wp-content/uploads/2022/01/kepler-1625b-and-exomoon-candidate-lightcurve-hubble.jpg)
【▲ ハッブル宇宙望遠鏡によって検出されたケプラー1625bとその系外衛星候補によるトランジットの様子を示した図(1~4の順)。水色で示された主星の光度曲線(時間の経過にあわせて変化する天体の光度を示した曲線)には、系外衛星候補の通過(4)にともなう減光が現れている(Credit: NASA, ESA, D. Kipping (Columbia University), and A. Feild (STScI) )】
今回報告された系外衛星候補ケプラー1708b-iも地球の2倍以上のサイズがある大きな衛星とみられていますが、2つの系外衛星候補が巨大なのは観測上の制約によるものであり、巨大であるからこそ信号が検出されやすかったと言えます。Kippingさんは「大抵の場合、どの調査でも最初に見つかるのは変わり者です。大きな衛星は限られた感度でも検出するのが簡単なのです」と語ります。
ケプラー1708b-iやケプラー1625b-iが本当に存在するかどうかは、今後の観測による確認を待たねばなりません。ワシントン大学教授のEric Agolさんが語るように、星もしくは観測機器のノイズに由来するデータの変動である可能性も残されています。
Kippingさんは、太陽系の惑星と比べて異質な系外惑星の発見が「惑星系の形成に関する私たちの理解に革命をもたらしました」と語っています。系外衛星の存在が確認されてその性質や起源に関する研究が進展すれば、惑星や衛星の形成についての理解がさらに前進することになるはずです。
関連:宇宙をさまよう自由浮遊惑星の衛星表面にも液体の水が存在?
Image Credit: Helena Valenzuela Widerström
Source: コロンビア大学
文/松村武宏
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