NASA「火星から打ち上げる小型ロケット」の製造契約をロッキード・マーティンと締結
sorae.jp / 2022年2月11日 17時8分
2021年4月19日は「火星の空を初めて航空機が動力飛行した日」になりましたが、人類は遠くない将来に「火星の表面から初めてロケットが打ち上げられた日」を迎えることになりそうです。
アメリカ航空宇宙局(NASA)は現地時間2月8日、火星で採取された岩石サンプルを宇宙へ打ち上げるための小型ロケット「MAV(Mars Ascent Vehicle)」を製造する企業として、ロッキード・マーティンの宇宙部門であるロッキード・マーティン・スペースと契約を締結したと発表しました。契約は1億9400万ドル相当で、期間は2022年2月25日からの6年間となります。
■Perseveranceが採取した岩石サンプルを火星から宇宙へ運び上げるロケット現在NASAと欧州宇宙機関(ESA)は、火星の岩石を地球へ持ち帰るためのサンプルリターンミッションを共同で計画・実施しています。人類が今まで手にしたことがある火星の岩石サンプルは、隕石として火星から地球へ飛来したもの(火星隕石)に限られていました。この共同ミッションが成功すれば、火星で直接採取されたサンプルが、早ければ2030年代初頭にも地球へ届けられることになります。
NASAとESAによる火星サンプルリターンミッションは、「火星でのサンプル採取」「サンプルの回収と打ち上げ」「サンプルを地球へ輸送」という三段構えのミッションで構成されています。2020年7月に探査車(ローバー)が打ち上げられたNASAの火星探査ミッション「マーズ2020」は、このうち第1段階の「火星でのサンプル採取」にあたります。火星で採取された岩石サンプルを持ち帰る取り組みは、すでに始まっているのです。
マーズ2020の探査車「Perseverance(パーセべランス、パーシビアランス)」は、2021年2月に火星のジェゼロ・クレーターへ着陸することに成功しました。Perseveranceには採取したサンプルを保存するためのチューブ状の容器が合計43本搭載されていて、このうち30本ほどに岩石サンプルが密封される計画です。密封された容器はジェゼロ・クレーターの表面に置かれ、次のミッションで回収される時を待つことになります。
関連:採取成功! NASA探査車Perseveranceが将来地球で分析される火星の岩石サンプルを初採取
今回、製造担当にロッキード・マーティン・スペースが選定された「MAV(Mars Ascent Vehicle)」は、「サンプルの回収と打ち上げ」が行われる第2段階のミッションで用いられるロケットです。
MAVは着陸機「Sample Retrieval Lander」(サンプル回収ランダー、本稿では以下「SRL」)に搭載され、早ければ2028年にもPerseveranceが待つジェゼロ・クレーターに到着します。この着陸機にはESAが開発しているサンプル回収用の探査車「Sample Fetch Rover」(サンプル回収ローバー、本稿では以下「SFR」)も一緒に搭載されます。
日本語では「火星上昇機」を意味するMAV、有人火星探査を題材とした映画「オデッセイ」をご覧になった方は聞き覚えがあるかもしれません。作中のMAVは、ミッションを終えた宇宙飛行士が帰還する際に搭乗する、6人乗りの有人宇宙船とロケットから構成されていました。
火星サンプルリターンミッションのMAVは、作中のMAVよりもずっと小さなロケットです。NASAのジェット推進研究所(JPL)によると、計画されているMAVは全長2.8mの2段式ロケットとされています。サイズは小さいものの、MAVは人類史上初めて火星の表面から打ち上げられたロケットとして、歴史にその名を残すことになります。
着陸機SRLがジェゼロ・クレーターに到着すると、まずはESAのローバーSFRが火星表面に置かれたサンプル保管容器を集めるために走り回ります。SFRが回収したサンプル保管容器はSRLに運ばれ、MAVの先端部分に搭載されている球形コンテナ(バスケットボールサイズ)へ格納されます。
着陸機であるSRLはMAVの発射台も兼ねていて、MAVは火星の周回軌道に向けてコンテナを打ち上げます。なお、サンプルが収められたコンテナはESAが担当する最後のミッションで帰還用探査機が回収し、地球へと運ばれる予定です。
ちなみにNASAによると、Perseveranceが追加のサンプル保管容器をSRLの着陸地点へ直接運ぶ可能性もあるといいます。冒頭に掲載したイラストのように、3機のローバーや着陸機が一堂に会する様子が実際に見られるかもしれません。
今回の契約締結により、ロッキード・マーティン・スペースはMAVとその関連システムの設計・開発・テスト・評価を行い、MAVのフライトモデルや複数のテストモデルを製造することになります。NASAによると、MAVは火星の過酷な環境に耐えるための十分な堅牢性と、複数の宇宙機とともに動作するための十分な適合性を備えた上で、着陸機SRLに搭載できるサイズに収まらなければならないといいます。
MAVを火星へと運ぶ着陸機SRLのシステムを開発しているJPLでは、MAVの打ち上げ時にSRLが滑ったり傾いたりしてしまう可能性を考慮して、エンジン点火直前のMAVを空中へ垂直に放り上げる手法が検討されています。人類史上初めて火星から打ち上げられるロケットとなるMAVは、このような打ち上げ方法にも対応することが求められます。
火星サンプルリターンミッションの先駆けとなったPerseveranceには、重量1.8kgの電動小型ヘリコプター「Ingenuity(インジェニュイティ)」が搭載されていました。冒頭でも触れたように、Ingenuityは2021年4月、史上初となる火星での制御された動力飛行に成功した航空機となりました。当初は最大5回の実証飛行が計画されていたIngenuityは、2021年12月までに18回の飛行に成功しています。
Ingenuityの意味は「創意工夫」。困難な開発が予想されるMAVですが、技術者や研究者の創意工夫によって史上初となる火星からのロケット打ち上げが成功し、火星の岩石サンプルが地球へと届けられる日が今から待ち遠しく感じられます。
関連:火星の地下深くにあるかもしれない「液体の水」に関する最新の研究成果が発表される
Source
Image Credit: NASA/ESA/JPL-Caltech NASA/JPL - NASA Selects Developer for Rocket to Retrieve First Samples From Mars NASA/JPL - NASA Begins Testing Robotics to Bring First Samples Back From Mars NASA - Mars Sample Return Campaign文/松村武宏
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